第4章 花言葉探偵は語る~Jonquil(水仙)~
第1話 花言葉探偵と可憐な依頼人
エキザカムの事件の後、紫苑はずっと後悔していた。
あの時、紫苑が綾歌に推理を披露しなければ今頃、と何度も考えた。だが、紫苑があの時どのような選択をしようとも、あの男性が死ぬことに変わりなかった。
紫苑の異能は、次の日の紫苑の行動によって、
こういうことは何度もあった。その度に苦して悔しい思いをしてきた。だが、過去は変えられない。
この瞬間も未来は続いている。進まなければいけないのだ。
紫苑が退院した三日後。兄が紫苑の事務所に依頼人を連れて来た。
依頼人と思われる女性はセミロングの茶色の髪に白いワンピース、袖や裾の部分はレースがこしらえてあって上品だった。
紫苑は女性だけを中に招き、奥に通した。
『シオン探偵事務所』は町家である。町家クーラーがなくても快適に過ごせるような作りになっているため、風が通ると涼しかった。それは奥も然り。
しかし、テーブルを挟んだ正面にいる依頼人の女性の額には汗が浮かんでいた。この部屋が暑くて汗をかいているわけではないことくらい、紫苑には察しがついた。
「お話を、聞かせてください」
大きな目を伏せて俯く女性はか弱い声で言った。
「助けてください。このままでは、狂ってしまいます……」
*
事の発端は三年前。
依頼人の女性――陽水(ひすい)の父が庭に小屋を建てようと庭に咲いていた草や花を根から抜き、更地にした。
いざ、庭に小屋を建てようと大工を招いた時、事件は起きた。
一夜にして庭一面に黄色の水仙畑ができていた。
その時、父は小屋を建てるのを止め、水仙を抜いた。何度も抜くのに、水仙は生えて咲き続けた。父は抜いて、抜いて、根っこから抜いて、抜いて、抜いて、抜き続けた。それなのに、水仙は枯れることなく咲き始めてから一年が経った。
一時期、奇妙な水仙を怖れた父は庭に小屋を建てることも止めたが、最近また小屋を建てたいと思ったのか、庭いじりを始めた。
だが、あの時と同じように、水仙は根っこを抜いても庭一面に咲いた。
今度こそは諦められないと決意した父は水仙を抜き続けている。
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