第3話 花言葉探偵と萱草

 ずっと抱えていた思いを吐き出した兄は泣いていた。

 

「……兄さん」

「紫苑、ごめんな……僕は、忘れたかった。父さんが、僕のせいで死んだなんて、今でも信じたくなくて……だから、萱草かんぞうを置いたんだ」


 初めて知った兄の思いを聞いた紫苑は、気づけば兄の頭に手を添えていた。


「言ってくれてありがとう、兄さん……」


 二人の間に解けることがないと思っていたわだかまりが、やっと凍解した。




 泣き終わり、落ち着いた兄に紫苑は言う。


「兄さん、本当は何しに来た?」

「それは……」

「ただ、お見舞いに来たわけじゃないだろう?」


 兄と紫苑は今までいがみ合っていた仲だ。紫苑が刺されたからといって、兄がただお見舞いだけを目的に紫苑に会うとは考えにくい。

 きっと、紫苑のお見舞いを兼ねて、何か別の目的があって紫苑に会いに行ったと考えるのが自然だ。それに、別の理由もある。


「兄さんの着ているスーツはクリーニングに出したばかりで新品同然。それに整えられた髪型に香水、磨かれた靴から推測するに、どこかで誰かと会った後に私の所に来たんだろう?」


 おそらくその誰かから兄は相談を受け、手に負えないので紫苑のところに来たのだろう。それはきっと、紫苑にしか頼めないことだったのだろう。

 紫苑の問いに、兄は俯いて黙り込んでいたが、やがて答えた。


「実は……ここに来る前、富豪の女性に相談された」

「……相談?」

「庭に水仙がずっと咲いているんだ。その花の、謎を解いてほしいっていうんだ」

「……」


 最近、何かと花が関連する不思議な出来事に遭う。

 これは偶然か、それとも。


「いいよ、兄さん。その人と会えるよう、手配してくれ」

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