第2話 花言葉探偵の異能

 それから紫苑は次の日に起きることが分かるようになった。

 それは夢として、紫苑がどのような行動をとるか、で先に起きる出来事の善悪が見えた。

 今回の百合の事件の場合、紫苑がとる行動によって、たくさんの人が死ぬ可能性があった。紫苑がもし、依頼を断った場合、骨壺が壊されるだけではなく、クラス会という名目で集められた少女のクラスメイトが全員惨殺されるというビジョンが見えた。

 だが、もう一つの選択肢をとれば、紫苑は刺されるが、たくさんの人が死ぬことはないことが分かった。

 目覚めた時、紫苑は朝一番に兄に電話した。

 兄は怪訝な声で電話に出てすぐに切ろうとした。そこに紫苑はねじ込むように一方的に話した。


「今日の夜、ある廃墟で頭蓋骨が見つかる。あと、誰か刺されるかもしれない。だから夜になったら通報してくれ。廃墟の場所は……」


 紫苑は廃墟の場所を告げ、兄が何か言いかけた所、電話を切った。

 そして紫苑は手紙を受け取り、百合の少女に刺されることになったのだ。

 兄は眉間に皺を寄せて言う。


「心配したぞ。何だか嫌な予感がしたから通報したら、後で刺されたって」

「ごめん、兄さん……」


 珍しくしおらしい紫苑に兄は拍子抜けしたのか、何も言わなくなった。


「私は……玄関にエキザカムの花が置かれる謎を解いてほしい、という依頼を受けた。私は、エキザカムの花言葉から、表現だから放っておけばいい、と言った。だけど実際は、依頼人に深い愛情を持った、内気な人の愛の表現だった。私は……決めつけたあまり、本当の事に気づけなかった」


 兄は微動だにしない。


「私は、兄さんは父さんのことを忘れたいから、萱草かんぞうを置いたと思っていた。だけど最近、こう思うようになった。兄さんは、本当は父さんが死んだ、という悲しみを忘れたいという思いであの花を置いたんじゃないか、と」


 兄も父の死を悲しんでいたことに変わりなかった、と。だが、兄はその悲しみを忘れたいあまり、忘れ草を置いた。

 再び、前に進むために。

 

「紫苑……」

「答えてくれ、兄さん。私は、兄さんを誤解したままでいたくない」


 兄は紫苑にスターチスの花束を差し出した。


「スターチス。花言葉は……「思い出」」


   *


 七年前のあの日。兄は終電を逃し、父に迎えを頼んだ。

 父は喜んで迎えを引き受けてくれた。

 その日は大雨で視界がかなり悪かった。そのせいか、父はハンドル操作を誤り、電柱に激突した。即死だった。

 兄はずっと後悔していた。

 あの時、終電を逃さなければ。

 あの時、迎えを頼まなければ。

 あの時……あの時……あの時……。

 父の交通事故は、自分のせいだ。

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