第3章 花言葉探偵の異能~Aster(紫苑)~
第1話 花言葉探偵、しばしの休職
現在、紫苑は暇つぶしに病院のテレビでバラエティー番組を見ていた。紫苑は百合の少女に刺されて入院中だが、今はかなり回復し、あと一週間すれば退院できる。
入院中の紫苑に聴取した警察官によると、夜に怪しげな通報があったので、廃墟の周りをパトロールしていたところ、廃墟からいかにも死にかけている紫苑が出てきたので保護したという。
コンコン
ノックと共に扉が開かれる。そして、扉の前にあるカーテンが開かれると、そこにはスターチスの花束を持った中肉中背の男性がいた。
「兄さん……」
「久しぶり。元気そうだな、紫苑」
兄は紫苑の傍まで歩いていき、ベッドの傍に会ったパイプ椅子を組み立てて座った。
「兄さん……父さんの骨壺はどうした?」
紫苑が病院で目覚めて驚いたことは、紫苑の持ち物に骨壺がなかったことだ。警察官の話によると、紫苑が抱えていた骨壺は一旦警察に持っていかれ、それから身内の兄に渡されたという。
紫苑は気になっていた。兄が一体骨壺をどうしたのか、と。
兄は答える。
「ちゃんと、墓に戻したよ」
*
今から七年前、父が急死した。
父の突然の死に紫苑や家族は戸惑い、悲しみにあけくれた。
だが、死んだ父が戻ってくることはない。父の死をいつまでも悲しんでいる暇はない。
こんな時でも、時間は残酷に進んでいるのだ。
悲しみが溢れていた紫苑とその家族だったが、落ち着いた時、父のお花を建てた。
紫苑は毎日そのお墓に通った。紫苑の兄も同様に、父のお墓に通った。
紫苑と兄はお墓に花を置いた。だが、兄が生けた花を見て、紫苑は激怒した。兄が置いていったのは、忘れ草、
「あんなに愛情を注いでくれた父さんを忘れたいなんてこの恩知らず! 二度と父さんのお墓に来るな!」
兄は何か言いたそうだったが、紫苑は忘れ草を兄に投げつけ、それ以来口を聞いていない。そして、それ以来、兄は父のお墓に来なくなった。
兄が来なくなっても、紫苑は父のお墓に通い続けた。
通い続けて六年目だった頃か、紫苑の目の前にスーツ姿の異様な男性が現れた。異様だと思ったのは、その人が黒布で顔を覆い隠していたからだ。
「何か?」
その人は一歩、二歩、三歩と、音もなく軽く飛んで紫苑の正面にやってきた。紫苑は得体のしれない恐怖を覚えた。だが、体が思った通りに動かず、固まった。その人は紫苑の頭を鷲掴んだ。
その人は紫苑の頭を掴みながら言う。
『毎日墓参りをしているなんて感心感心、お前に異能を授けよう』
その時、風が吹き、その人の顔を覆っていた布が風で飛んでいく。
紫苑は目を見開いた。
その人の頭は人間のものじゃなかった。
その頭、その顔が、色とりどりのマーガレットに覆われた、異形頭だったのだ。
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