第5話 Q&A(Persian violet(エキザカム)編)
Q(紫苑)
男性がエキザカムの花を置いていたことは判明した。おそらく彼は綾歌のことが好きで、その思いを、愛を、花に託していたことは分かり切ったことだ。しかし、あのボロアパートにはベランダはなかったし、花を育てられるような環境じゃなかった。あのエキザカムは、どこからやってきた?
A
電車のホームである女性のハンカチを拾った。普段なら呼び止めることはしないのに、その日はなぜか女性を呼び止めた。
その女性が振り返った瞬間、自分は恋に落ちた。
なんて綺麗な人なのだろう。自分は固まってしまった。
だから女性が怪訝な顔をしていても、彼女のその綺麗さに見とれていたから、気づかなかったのだ。
そして、自分が働いているCDショップに彼女がいた時、心臓が飛び跳ねそうだった。
運命だと思った。だから話しかけた。
「何かお探しですか?」
不器用だったと反省している。だが、ハンカチのことを話したら怒りださないかと色々考えたら、接客の言葉しか出てこなかった。
自分は元々内気だった。だから、それを克服するためにCDショップで接客をしてコミュニケーション力を磨こうと思ったが、こういう時に気の利いた言葉が出てこない自分が嫌になる。
それから彼女は来なくなった。
やはり、対応が間違っていたからだ。自分は後悔した。もう会えないかと思うと、心が締め付けられた。
そんな時、路地で花屋を見つけた。
店舗を持たないのに、バケツに咲き誇る綺麗な花の大群に惹かれるようにしてその前にいた。
花は良い。とても綺麗だ。
そして花には、そこにいるだけで言葉にしなくても伝えられる言葉がある。
内気で、すぐに気の利いた言葉が出てこない自分とは大違いだ。
「いっそ、花になりたい」
花になれば、花言葉として彼女に愛を伝えられるのに。
その時、花屋の店主は言った。
「では、花になりますか?」
一瞬、何かの冗談かと思った。人間を花にできるわけがない。
だが、花屋の店主があまりにも真剣な顔をしていたので、次第に冗談じゃないのかも、と思った。
「本当に、花にしてくれますか?」
「正確には、あなたの体を養分に花を生やします」
胡散臭い。実に疑わしい話だ。否、きっと花屋はからかっているのだ。そうに違いない。
そんな気持ちが顔に出ていたのか、花屋は考え込んだ後、こう言った。
「まずは小さな花で試してみませんか? 例えば、エキザカムとか」
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