第2話 早すぎる結論
早速、紫苑と綾歌は舞台となった綾歌のアパートに行く。
アパートの階段のコンクリートには何度も罅を補修した跡があり、相当年季が入っていた。
突き当たりが綾歌の部屋だった。その部屋のドアの前にエキザカムの花が一輪ある。
「……この花があることに、何時頃気づきますか?」
「いつも大学の、授業の帰りに」
「つまり、家を出る時に花はないと」
それは綾歌が留守をしている時に花が出てくるということだ。
もしこれがストーカーの仕業なら、家主が留守をしている時間を把握している可能性を示す。本当にそうなら、それは危ない。
だが、本当にストーカーがそれを知っているなら、やっていることが小さすぎるのも気になった。
「これ以外に変わったことはありますか? 小さなことでも構いません。例えば、家が荒らされた形跡があるとか……」
「それが……ないんです」
だから警察は取り合ってくれなかったんです、と綾歌は小さく付け足す。
つまり、この花の出現だけが変わったことなのだ。
「あなたは謎を解いてほしいと言った」
「?」
「今の話で謎が解けました。このエキザカムの意味、それは愛のメッセージです」
エキザカム、その花言葉は『愛している』。
「おそらく、あなたに惚れた誰かが、このエキザカムの花を置いているとすれば辻褄が合います。その相手はあなたに危害を加えるつもりはない」
もし、綾歌に危害を加えるつもりなら、もっと別の悪質なことをしているはずだ。ただでさえ、綾歌が住んでいるのは防犯カメラがないセキュリティがゆるいアパートだ。もっと相手が苦しむようないたずらならいくらでもできる。そうしないのは、相手が綾歌に危害を加える意志がないことを示している。
「内気ゆえか、直接だと愛を伝えられないから花に託した、という所でしょう。花を置くような相手に心当たりは?」
「……ないです」
「ふうむ」
実に小さな愛のメッセージだから相手にすることはない、相手にしなければいずれ諦めるだろう。
紫苑は綾歌にそう伝えたが、綾歌は納得いかないという顔をしていた。
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