第59話 長いようで短い決着


「ハァッ……ハァッ……。あっ――」


 ノルチェボーグを倒した俺は、仲間に加勢しようと前に進むが、思うように体が動かなくて、膝をついてしまった。


 数は未だに劣勢。

 ノルチェボーグを倒しても、士気は落ちない。

 最期の指示を受けたからか、それともボスが生きていると考えているからか……。

 クソッ……。

 早く俺も戦わなければ!

 なのに体が……!


 上体がふらつき、四つん這いの姿勢になる。


「――うおおおおおおっ!!!」


 地面を見ながら息を切らしていると、前から雄叫びが聞こえてきた。


 まさか……。

 いや! 俺の仲間が負けるはず――。


 なんとか顔を上げてみると、敵兵が蹴散らされている光景が広がっていた。


「……え?」


「――助けに来たぞ領主様!」


 ああ。

 この声はバーンか……。


 なんと、西の軍が総員で援軍に来たのだ。


 つまり……勝ったんだな……西は。

 

 弓兵が多い西軍だが、バーンもカショウもいる。

 きっと持ち直せるだろう。


 急な援軍で安心した俺は、急にまぶたが重くなり、スっと意識を手放した――。




◇ ◇ ◇




 東の方角――。


「――急報! 敵将ケビルドンが捕縛され、その部下たちも制圧されたとのこと!」


 戦っているルシアの元に、敵兵をかいくぐり、報告役の兵士がやってきてそう言った。


「それは本当か……!」


 報告は続く。


「はっ! そのまま西の軍は南に、援軍として出撃しました!」


「何っ……? ケビルドンがやられたのか?」


 もう口しか動かせないカロンは、驚愕していた。


「よし! そうとなれば……!」


 ルシアが西の軍が勝利したことを聞いて、次の指示を出そうとした時だった――。


「ほ、報告!」


 別の兵士からの報告が、ルシアに届いたのだ。


「どうした!」


「南の方角にて、我が軍大将のリンドラ様が! 敵将ノルチェボーグを討ち取ったとのこと!」


「なっ……! リンドラ……様が?」


 ルシアは、我が主が強大な敵を倒したことに驚愕、感動していた。


「馬鹿な。ノルチェボーグが……やられた? あのガキに……?」


 カロンはさらに絶望した。

 一気に戦力が激減したからだ。


「ッ……! 喜ぶのはまだ早い……。我々の勝利は目前だ! 行くぞぉ!」


 ルシアはもう一押し、味方を鼓舞した。


「クソッ……どうすれば……。うっ、意識が……」


 カロンがここから勝つには、右の軍の、破城槌で壁を破るしかなくなってしまった。


「(出血が酷くて意識が飛びそうだ。だが、破城次いで壁に穴を開け、非戦闘員の村人を人質に取れば……!)」


「――急報! 急報です!」


 3人目の報告役の兵士が走ってきた。


「何人来るんだ!」


 流石のルシアも、まとめて報告に来いと怒鳴った。


「す、すいません! 左の軍にて、破城槌による壁の突破が狙われていました!」


「破城槌だと!? それが貴様の狙いか!」


 ルシアはカロンに向かってそう叫んだ。


「そうさ……。部下たちには、穴が開き次第、そこに突撃するよう伝えてある。ここにいる奴らも、一斉に向かってくぞ……ゴハッ!」


 カロンはニヤッとしてみせた。

 しかし、ルシアとカロンは、同時にある疑問を持った。


「「狙われてい?」」


「は、はいっ。謎の援軍によって阻止されました……」


「え?」


「は……?」


 ルシアもカロンも、目が点になった。


「謎の援軍? まさか……!」


「――その援軍の筆頭は、バートゥという男。オンドレラル居住区からの援軍です!」


 なんと、オンドレラル居住区から、十数名の援軍がやってきていたのだ。




◇ ◇ ◇




「――凄いことになっているな」


 バートゥは、戦いを遠くから見ていた。


「バートゥさん。助けにいかないんですか? 押されているように見えますが……」


 部下が近くでそう聞いてきた。

 他の者たちも、今か今かと出撃を待っている。


「いやまだだ。ここぞって時に出るぞ。俺たちは十数名しかいない。戦闘経験があるのは俺と俺の部下のお前たちだけだ。つまり奇襲の形で出る。いいな?」


「は、はいっ」


「できるだけ安全に、功績を挙げるぞ――」




◇ ◇ ◇




「――まさか奇襲を仕掛けて止めてくれるとは」


 注意喚起はしたが、まさか援軍に来てくれるとは思わず、ルシアは笑みを零した。


「はっ。混戦になっている場面にて、真っ先に破城槌を狙い……」


「もういい。敵の手札はもう消えた。速やかに鎮圧するぞ。敵将を倒した報告をして、降伏を進めろ。武器を捨てた者を捕縛して集めろ」


 ルシアは勝利を確信した。

 敵兵の数も大分減っているので、きっとすぐに降伏するだろうと読んだ。


「馬鹿な。聞いてないぞ。オンドレラル居住区なんて……」


「ん?」


 ルシアはカロンの言葉を聞き逃さなかった。


 こうして、長いようで短く、呆気なく、コソア村の防衛戦は終わった。


 コソア村の勝利だ――。



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