第60話 勝利の宴


「――終わった。勝った。勝ったぞおおおおおっ!!」


「――おおおおおおおおおっ!!!」


 降伏した敵兵たちを捕縛し終えた兵士は叫んだ。

 勝利の雄叫びだ。


 その様子とは裏腹に、ルシアは珍しくソワソワしていた。


「――リンドラ様はご無事だろうか? 先程意識不明で屋敷に運ばれたと聞いたが……」


「――我が主がそう簡単にくたばる訳ないだろうが」


 そこに、意気揚々としたゾルタックスがやってきた。


「なんだ貴様。生きていたのか」


 ゾルタックスの姿を見て、冷たい言葉をかける。


「ハハハッ! 当たり前よ。まさか我が死ぬことを想像したのか?」


「まあな。もしかしたら……なんてな」


「フハハハハッ! これが、照れ隠しってやつだなっ!」


「違うわ!」


 ルシアが激怒したのを見て、ゾルタックスが大笑いした。


「ハッハッハッ! フゥ……。それで、コイツは?」


 ゾルタックスは、足元で気を失って倒れているカロンについて、ルシアに聞いた。


「……カロンだ。この戦争の、宣戦布告をした者だ」


「ん? ならば殺すか、敵兵たちと同じように捕縛すればいいだろう? 監獄の責任者とやらが、ここに向かっているのだろう?」


「……もしかしたらだが」


 ルシアは深刻な顔でこう言った。


「――首謀者はコイツではなく、別にいる」




◇ ◇ ◇




「――ん……。んん?」


 ここは……ゾルタックスと戦った後にいた部屋と同じの――。


「俺の腕、包帯でグルグル巻きに……。勝ったのか……」


 ノルチェボーグに穴を開けられた腕が治療されていることを目で見て、この戦いを、勝利で終わらすことができたと理解した。


「よかった……」


 色々な感情が溢れ出したが、口から出たのは『よかった』の一言だった。


「外は暗いが、なんだか騒がしいな……」


 その日のうちに目が覚めたのか?

 様子を見に行くか。


 腕以外は目立った外傷はなく、脳疲労が酷かっただけなので、問題なくベッドから起き上がり、部屋を出ていった。




◇ ◇ ◇




「――おおっ。やってるなぁ」


 屋敷を出ると、村人や兵士たちは、焚き火を囲って祝杯をあげていた。


「――あーっ! 領主様だ! 領主様が出てきたぞー!」


 顔を赤らめた兵士が、屋敷をでてきた俺を指さして叫んだ。


「――ホントだ! 領主様もこっちで飲みましょーよ!」


 酒なんてそんなにあったのか?

 あること全然気づかなかったけど。


「――起きましたか。リンドラ様」


「うおっ!?」


 いつの間にか背後に、ルシアが立っていた。

 俺は思わず、驚いてしまった。


「驚かせてしまって申し訳ありません。早急にご報告をするべきと思い……」


「……悪いが疲れてるんだ。軽くで頼む」


「はい。ありがとうございます。それでは――」


 そこから、ルシアによる軽め? の報告を始めた。


 報告の内容はこうだ。

 生きていた敵兵は捕縛した後、カロン以外は監獄に送ったということ。

 壁の中での被害は、監視塔が傷ついたぐらいしかないとのこと。

 負傷者は皆、治療を受け、軽傷の者は祝杯をあげているとのこと。


「そうか……。我々の死者は?」


「……はい。27名の死者を出しました」


「……そうか」


 俺は死者が出たことを受け止めた。


「今は屋敷の隅の方の部屋で遺体を……。親族の方などが会いに……」


「分かった。明日の昼までその部屋を冷やすように。明日の昼、その27名を弔う。この村に墓地はあるか」


「はっ。墓地はないはずです。墓嵐が酷かった為、遺体は棺桶に入れ、川に流していたそうです」


 川に流す……。

 火葬などしたら、盗賊に感づかれる危険もあるからか……。


「ならば作ろう。死者が安心して眠れる場所を」


「は、はいっ! 直ちに良き場所を見つけ、力が余っている者に声をかけてきます」


 ルシアはそう言うと、すぐさまどこかへ走っていってしまった。


「……27……か」


 自分の部屋に戻るか。


 俺は宴には参加せずに、自室に戻っていった。


「――んあ? 我が主はどこだ?」


 屋敷に入った直後、ゾルタックスが、酒が入った樽を肩に担いでやってきた。


「もう戻ったぞ。ってかお前、甲冑着たままで酒飲んでるのか?」


 同じように、酒を片手にやってきたジャッカルが、甲冑の小さな穴から酒を飲んでいるゾルタックスを見て、少し引いていた。


「まあな。貴様だってフードをいつも被ってるじゃないか」


「……うっさい」


「ハハハッ。悪い悪い」


 ゾルタックスは酒を零しながらも、豪快に飲む。


「ッ……ハーッ! 俺はまた向こうで飲む。貴様も大事にな」


「ああ」


 ゾルタックスは、ジャッカルの腕を見てそう言った。

 そして樽の中身を全部飲み切り、どこかへ行ってしまった。


「リンドラ……」


 ジャッカルは屋敷の方を少し見つめると、リンドラと同じように、屋敷に入っていった。




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