ヒロの青春 六

  18

「やあ!オトちゃん、久しぶりだね!無理をいってゴメンよ!『小学生の才女が選ぶ古典ミステリーベストテンPart2』なんて、勝手にタイトルを決めて、オトちゃんに選んでもらえ!なんて、編集長のルミには、負けるよ!」

いつもの県立図書館で、ヒロは『美少女』のオトに照れながら、挨拶をした。同人誌のコラムに、天才少女の推薦する古典ミステリーベストテンを再び載せよう、と、みどりが提案して、ルミとカオルが賛成の手を上げた。前回の同人誌には、短編のベストテンだったから、今回は、長編のベストテンを依頼することにした。メンバーは五人だから、民主的に、多数決で決まった。依頼をするのは、マサではなく、ヒロとなった。何故なら、ヒロが書くはずの短編小説が仕上がらず、その穴埋めのコラムだから、ヒロが責任を取らされる形になったのだ。まあ、ヒロもオトに会うのは楽しい。小学五年生なのに、かなりの古典と呼ばれるミステリーを読んでいる。本人に言わすと、子供向けの翻訳というより、抄訳のものが多いらしい。だから、図書館で、完訳本を借りたりしているのだ。今は、エラリー・クインの『悲劇四部作』から『国名シリーズ』に移るところだ。

「やっぱり、クインの『Yの悲劇』は、外せませんね!でもあれは、ヴァン・ダインの『グリーン家殺人事件』と、よく似たモチーフですね?ダインのほうが先ですけど……」

と、ヒロが最近、『ミステリーの案内』という解説書で、初めて知った、二作の相関をいとも常識のように、『美少女』は語るのだ!なるほど、マサがほかの女性に眼がいかない理由がわかる。

(この娘といれば、退屈している暇はない!カオルが心配しているように、マサはすぐに、歳の差を追いつかれるだろう!だが、それを待つのも、最高に楽しいことだ!スズカちゃんより、遥かに上だ!でも、僕はスズカちゃんを選ぶ!例え、振られようとも、彼女が僕の……『ヒロの青春』なんだ……)

「それで、三高の四人組の件は、上手くいったのですか?マサさんは、何故か活躍の場がなくて、不機嫌なんですよ!どうもわたしが考えたシナリオのほうに話が進んでしまったようで……」

と、オトの書いたコラムが面白く、読み耽っていたヒロにオトが声をかけた。

「えっ?オトちゃんが書いた『シナリオ』って、なに……?」

「あっ!ヒロさん知らなかったんだ!ここで、当日、放課後マサさんとルミさんとみどりさんとミキさんに会ったんです。それで、三高の四人に罠を仕掛ける!ヒロさんとカオルさんが準備している!カオルさんの衣装は、みどりさんが今まで着ていたものをパンティ以外は、全部貸してやった!パンティも予備のやつだから、使用済みの洗濯したやつなのよ、って笑ってました」

「ああ、カオルのやつ、そのパンティを洗って返そうとしたら、いらない!っていわれたそうだよ!捨てるわけにはいかないから、ビニール袋に入れて、家宝にする!ってさ!パンティをだよ!変態と思われるよ!あっ!こんな話、小学生にする話じゃないよね……!ゴメン!訊かなかったことにしてくれる?マサに叱られるから……。オトちゃんと話をしていると、同級生と話しているつもりになってしまうんだ!とても、話し易いしね!僕は、『オクテ』で、普段は女の子とは、うまく、会話ができないんだ!特に相手が美人だとね……。ルミはまだ美人じゃないし、みどり君は、あの性格で男の子みたいだから、美人でも大丈夫だったんだ!オトちゃんは、本当に奇跡だよ!」

「マサさんと同じだからですね……?それに、ルミさんは美人ですよ!男性から見ると、冷たい感じがあるかもしれないけど、知的で整った顔立ちです。ただ、近代的な美人じゃなくて、小野小町のような古風な日本的な美人です」

「ええっ!小野小町?世界三大美人だぜ!クレオパトラに楊貴妃に小野小町……」

「それは、日本人の決めた三大美人ですよ!でも、小町って美人の代名詞になるくらいだから、当時は『絶世の美女』だったはずですよね……。花で例えれば、みどりさんは『真っ赤な薔薇』か牡丹ですね?ルミさんは、質素なユリか『クリスマス・ローズ』ですよ!『冬の貴婦人』って呼ばれています!」

「冬の貴婦人……。オトちゃんは、本当に博学だね!ミステリーマニアの域を出ているよ!」

「ミステリーに、花は付きものですよ……。トリカブトとか、毒のある花は、特に……」


19

「ところで、話を戻すけど、オトちゃんが書いたシナリオってなんだ……?」

と、ヒロが話を戻した。

「ああ、その話でしたね!ヒロさんが面白いから、話が脱線してしまいましたね?」

「ええっ?僕が面白い?初めてだよ!女性からそんなこと言われたのは……」

「それは、今まで、女性と接する機会が少なかったからでしょう?だって、この前の漫才、ヒロさんの方がマサさんより面白かったし、ウケてましたよ!」

「ええっ!あれをオトちゃんも見たのか……?」

「はい!だって、マサさんが漫才をするなんて!天変地異くらいの大珍事ですよ!見逃す手はない!伯母さん──マサさんのお母さん──にお願いして、父兄として観覧席にいましたよ!」

「酷かっただろう?漫才じゃなかったから……」

「いえ!新鮮でした!実際に起きた事件を漫才として、解明するなんて、今までありませんよ!最後の方は、ロックコンサートみたいな盛り上がりだったし、あれはあれでよかった、と思います!」

「オトちゃんにいわれると、納得するなぁ!オトちゃん、次は、評論を書いてくれるかな?」

「考えておきます!それより、わたしの『シナリオ』の話でしたね?」

「そうそう!また脱線したね……」

「それ!漫才のノリですよね!やっぱり、ヒロさん、素質があるんですよ!漫才というか、人を笑わせる……。あっ!また脱線!今度こそ、シナリオの話ですよ!」

「はい!お願いするよ!」

「ヒロさんとカオルさんが、囮になって、四人組を誘き出す、ってシナリオはいいんです!でも、四人組が現れた後の展開がマズイんです!」

「どうマズイの?確か、四人に向かって、僕が、お前らの正体はわかっているんだ!武井に剣屋、神部に新階!って、暴露するんだよ!」

「そしたら、『は、はあ!参りました!』って頭を下げてくれますか?相手は四人!誰かが、『面倒だ!やっちまえ!』ってなったら、どうします?」

「そうだね!その先の展開は、アドリブだったね……?ええっ!二対四かよ!」

「カオルさんは、無理ですよ!つまり、一対四。この前のミキさんを庇った時と同じですね?」

「ええっ!それじゃあ、ボコボコだ!いや、マサが登場するよな……?」

「ええ、マサさんはそのつもりで、護身用のスライド式の警棒を持っていたんです!でも、それじゃあ、喧嘩ですよ!罠を仕掛けて、罠にかかった他校の生徒を警棒で殴ったら、傷害罪です!正当防衛ではありませんからね!仕掛けたのは、今回は、一高サイドですから……」

「あっ!そうか!前はミキさんを助けるためだったから、正当防衛になるんだ!」

「いえ、過剰防衛。傷害罪になるかもしれなかったですよ!相手が訴えないから、よかったですけど……。それに、あの公園は、ある程度、人通りもあるんですよ!もし、変な場面を通報されたら、停学ものですよ!」

「変な場面?」

「ええ、ヒロさんとカオルさんがラヴシーンを演じているところを誤解されたら、男同士のラヴシーンですから、男女のより、噂になるでしょうね!そしたら、スズカさん、どう思うでしょうね……?」

「ええっ!それは、マズイ!正当防衛でも何でもない!言い訳も通用しない!」

「そう!だから、全て、お芝居だった!って『オチ』を用意しておいたのです!危うくなったら、ルミさんが、映画監督の格好をして、『カット』って声を掛ければ、全て、お芝居になるんです!元々、お芝居なんですから……」

 オトの意見に、ルミは素早く反応し、小道具を集める指令を出した。みどりとミキが、演劇部に衣装や小道具を借りに、校舎に帰る。その様子を『砂かけババァ』に目撃されたのだ。

「確かに、元々お芝居だから、丸く治まる。三高の四人組さえ、丸め込めば……」

「そんな状況になれば、彼らも脛に傷がある身ですから、お芝居に乗って来ますよ!保身のために……元々、不良じゃないんですから……」

「そうだね……。ええっ!でもそれをオトちゃんが考えて、シナリオを作って、ルミやみどり君、ミキさんまで芝居させたのか……?天才だ……!」

「あっ!ヒロさん、素敵ですよ!」

「えっ!何が……?」

「ヒロさん、無意識に、ルミさんは『呼び捨て』、みどりさんは、『君(くん)』、ミキさんは、『さん』、わたしや、スズカさんは、『ちゃん』と敬称を使い分けているんですね?全然、『オクテ』じゃない!大丈夫!スズカさんと上手く行きますよ!だって、スズカさん、お笑いが好きで、『さんまさん』みたいな人がいいんでしょう?ヒロさん!ぴったりですよ!ほら、そこに、彼女が来ていますよ!この勢いで、プロポーズですよ……」


20

「オトちゃん!久しぶり!」

と、いつもの県立図書館で、エラリー・クインの『災厄の町』を手にしているオトに、ダークスーツ姿が似合わない、青年が声をかけた。

あれから、三年、オトは中学二年生だ。

「あっ!誰かと思ったら、ヒロさん?髪型も違うし、そのスーツ姿、見間違えましたよ!」

「へへ、似合わないだろう?『馬子にも衣装』っていうけど……、どうも、このネクタイってやつが、しっくりこないんだよな!」

と、派手な巾広のネクタイの結び目を気にするように掴んで、ヒロは苦笑いしている。

「ああ!今日は、『成人式』なんですね?おめでとうございます!」

そういって、オトは、ヒロのネクタイの結び目をキュッと絞めつけて、形を整えた。

「ヒロさん、『プレーンノット』にしていますね?『ウィンザーノット』の方が、形を整え易いと思いますよ!」

「えっ!何?そのプレーンとか、ウィンザーとか?」

「ネクタイの結び方の種類ですよ!代表的な結び方です!」

「オトちゃん!ネクタイの結び方まで研究しているのか?」

「まさか?今朝、マサさんが悩んでいたんですよ!同い年でしょう?成人式……。それに、ミステリーの謎解きの場面に、ネクタイの結び方が、違うことで犯行がわかる……、ってのがあった気がするな!」

「凄いね!もう、精神年齢は、僕やマサを追い越しているね!」

「ひどい!わたし、そんなに『耳年増』ですか?普通の中学二年生ですよ!」

オトが、膨れっ面をする。ヒロは、胸がキュン!となった。

(なんて、可愛いんだ!『惚れてマウやろう!』……)

「ヒロ!オトちゃんをクドいちゃダメよ!スズカちゃんにチクるよ!もう浮気しているって……」

「あっ!ルミさん!凄い!何処の女優さんか、と思いました!」

現れたのは、髪を古風に結い上げ、派手ではないが、華やかな着物と帯。黒髪には生花の髪飾り。小町顔?が和服にぴったりの女性だ。

「まあ!オトちゃん、すっかり大人ね!お世辞が上手だわ!」

と、二十歳になって、大人の色気では、オトに勝っている!と、自認しているルミが、最上級の笑顔でいった。

「お世辞では、ありませんよ!ほら、周りの男子高校生の視線が集中していますよ!」

確かに、受験生の多い館内で、ルミの衣装と面差しは、眼を見張るものだった。

「ふふ、マサ君が、晦日前の大掃除で、懐かしい『同人誌』を見つけた!っていったから、急に、オトちゃんに逢いたくなったのよ!マサ君は、トイレに行ってるわ!」

今日は、成人式が文化ホールで開催されたのだ。県外の大学に通う、『ミステリー同好会』のメンバーが久しぶりに再会して、懐かしい話に花を咲かせ、ルミがオトに逢いたい!と、いったのだ。マサがオトと図書館で待ち合わせしていることを告白して、ヒロは勇んで先頭で現れたのだった。

「みどりは、帯が苦しい、っていって、着替えてくるそうよ!最近、太り気味なのよ!寝正月で、お雑煮を食べ過ぎて、ね……!家がホールのすぐ近くだから、すぐに来るわ……」

「じゃあ、ミステリー同好会が久しぶりに揃うんですね?」

「そう!カオルもスズカちゃんも連絡したよ!まあ、最初から、カオルはみどり君と、僕はスズカちゃんと逢う予定だったんだけどね……」


21

「あれから、三年か……!確かあの時もこのファミレスだったね!」

と、ヒロが感慨無量のようにいった。みどりが洋服に着替え、親友のミキを連れてきたから、あの日──藤並神社の公園のお芝居があった──のメンバー全員に、オトとスズカが加わっている。

オトとスズカは、初対面ではないが、会話をしたことはない。オトから見て、スズカは五歳年上なのだが、童顔で可愛く、小柄な彼女は、ひとつ年上の中学卒業間近の少女のようだった。

「オトちゃんね!図書館で見かけたことはあったけど、噂どおり、いえ、噂以上の『美少女』だわ!カオル君の女装なんて、なんだったの!って感じね!マサ先輩!大丈夫ですか?ライバルだらけでしょう?オトちゃんの周りは……」

と、スズカは自ら、オトに握手を求め、冗談っぽく、いった。

「スズカ!マサの不安を煽るのは、辞めろよ!本人が一番気にしているんだ!ほら、スーツにネクタイ、似合わないだろう?ネクタイ、歪んでいるし!」

「あっ!ヒロさん!スズカさんを呼び捨て!いったい、何があったのですか?わたしとマサさんは、変わりないですよ!気の合う『従兄妹同士』です、から……」

「ヒロとスズカちゃん、婚約したのよ!偶然だけど、ヒロの伯母さんとスズカちゃんのお母さんが仲良しでね!中学の同級生で、お花(=華道)の教室で一緒になって……。ヒロとスズカちゃんのことが話題になって、トントン拍子に話が進んだのよ!きっと、このあと、初体験かな……?」

みどりが、彼女らしい口調でいった。

「み、みどり!僕らは、プラトニックだよ!まだ、キスもしてないよ!」

「ヒロ!余計なこといわないの!」

「あら?スズカさんも呼び捨てなんですね?いいな!羨ましいですね!」

オトの言葉に、ヒロとスズカは顔を赤らめ、ほかのメンバーは、どっと笑った。

「それより、あの事件の話をしない?わたし、まだよくわからないことがあるのよ、ね……」

と、みどりがいった。

「そうですね!みどりさんとカオルさんの仲もミステリアスだし……」

「わ、わたしとカオル?いいのよ!そんなの面白くないから……!」

「いえ!面白いわよ!」

と、みどりの隣のミキがいった。

「ミキ!バラさないで!」

「ダメよ!このメンバーで隠し事は……!ミキさん、話してちょうだい!」

「ほら、あの日、カオル君、みどりの衣装を借りたでしょう?着ていた下着迄、パンティは洗濯したやつだったけど……。カオル君、その香りにメロメロになって、もう、みどりの虜(とりこ)よ!罠にかかったのね!借りてた下着を返そうとしたら、あげる!といわれて……。もう、ドキュン!みどりに愛を告白!みどりは勿論、オッケーよ!」

「ええっ!みどりさん!罠だったんですか?凄い手ですね!」

「まさか!偶然よ!まあ、カオルのことは、好きだったけどね……だから、恥ずかしいとも思わないで、パンティまで貸してあげたのよ!」

「怪しい!いくら好きでも、パンティまでは貸さない!計画的犯行ね!」

「ルミ!もう辞めて!時効よ!」

「本当に面白い!それでは、もうひとつの謎解きをしてもらえますか?今度は、ミキさんですよ!」

「何?わたしの謎解きって?」

「女タラシとの関係です!わたし、ずっと不思議に思っていたんです!ミキさんみたいに可愛い方が、何故、あんな男と縁が切れないのか……?」

「オト!そ、それは、タブーだ!」

「えっ?何?マサ君!タブーって?わたしに何か隠し事があるの?わたしには、秘密なんてないんだけど……?」

「えっ?お姉さんとのことは……?亡くなったんだろう?事故で……」

「お姉さん?わたしに姉はいないよ!弟はいるけどね!オトちゃんのひとつ上。同じ、中学だよ!だから、オトちゃんの噂は、凄いよ!」

「ええっ!じゃあ、あの時の丸山の話は……?」

「何?丸山君の話って?あっ!あいつ、変なこといってた!同人誌ができた時、『俺が考えてやったネタは、ボツだったのかよ!面白い噺だと思うけどな!』っていってたよ!何か、マサ君に造り噺をしたのね?」

「造り噺、だったのか……」

「ほら、ね!わたしがいったとおりでしょ?眉唾物だって……」

「そう、そう、その『女タラシ』真面目になって、一浪して、有名大学に合格したのよ!それで、白石先生にプロポーズして、白石先生と結婚するんだって!まあ、卒業後だけどね……」

「みどり!それ誰から訊いたの?大スクープじゃない!」

「さっき、このミキから……」

と、みどりは声のトーンを落としていった。

「リョウマとわたしは、ルミとヒロの関係に近いかも?幼稚園からの付き合いで、彼は母子家庭なのよ!お父さんは、議員さんらしいけど、お妾さんよ……。それで、お母さんに、リョウマのこと、お願い!いいお友達でいてあげて!っていわれていたのよ!だから、ずっと、『いい、お友達』なの!あの日、リョウマの神通力が失くなって、普通の男になった時、『いい、お友達』を卒業しよう、と思ったの!だから、わたしたち、三高の四人組がいったとおり、いかがわし行為をする、一歩手前だったの……。ヒロ君とマサ君のおかげで、貞操を守れたけど、ね……」

「丸山のやつ!本当に警官を呼んできたんだよ!親父がそっと教えてくれた……」

「そう、悪いやつじゃなかったのね、『女タラシ』も……」

「先生に対する気持ちは、本気だったんだよ!先生もわかっていたから、自らが責任をとって辞めることにした。でも、ふたりの気持ちは、変わらなかったんだね……」

「ヒロさん!格好いい!『惚れてマウやろう!』ですね!あの日、スズカさんにプロポーズした時みたいですよ!」

「そうよ!わたしがわからないっていったのは、スズカちゃんの手紙よ!本当に、ルミが渡したやつが本物だったの?それに、本当にラヴ・レターだったの?絶対!両方とも違う!と思う!」

「そ、それは……」

「いいんじゃないですか?ヒロさんとスズカさんは永遠の愛を誓ったんだし、さっきみどりさんがおっしゃったように、三年で時効ですよ!」

「そ、そうだね!みんなに秘密にすることはもうないんだ!スズカ!いいかい?」

ヒロの言葉に、スズカはコクリと頷いた。

「あのルミが僕にあの日渡した手紙は、最初の手紙の清書じゃなくて、スズカが新たに書き直したものだったのさ!」

「そうね!わたしとミキさんとが、スズカちゃんにお願いに行ったのよ……。事情を話して、同じ文書の手紙を書いて欲しい、と……」

と、ルミがいった。みどりではなく、事件の当事者のミキをルミはパートナーに選んだ。その前に、ヒロに会って、告白をされていたスズカは、同じものではなく、追伸を書いて、自分の気持ちを伝えようとした。ただ、それは、しばらく、読まれることはなかったのだが……。

「盗られた手紙を下書き、ってことにするアイデアは、実は、オトちゃんのアイデアなのよ!小学五年生よ!負けてしまうわ!」

「あのアイデアは、マサさんなら、きっと信じて、喜ぶと思ったからです!ヒロさんもマサさんとよく似た性格だから、嘘臭くても、信じる、と思ったのです!」

「そうね!わたしも絶対、信じてしまう、とわかっていたわ……」

「僕は、まるで、お釈迦様の掌をぐるぐると飛び回った『孫悟空』だね?オトちゃんがお釈迦様に見えるよ!」

「それで、スズカちゃん!追伸に何を書いたの?そもそも、あれは、ラヴ・レターじゃなくて、本当に『演劇部からの台本』の依頼だったんでしょう?演劇部のユウコが、台本、進んでる?っていうから、へぇっ?ってなったのよ!」

「そうね!みどりだけじゃないのよ!わたしも、演劇部の子に、台本よろしく!っていわれて、返事できなかったわ!手紙は、読まないと意味がないのよ!本当に『バカ』だわ!番長や『妖怪マニア』と同じレベルよ!」

「結局、台本はできなかったのよね?」

「そうなんです!それで、わたし、先輩に責任問題、っていわれて!腹がたったから、三学期で、演劇部を辞めたんです!」

「まあ、スズカも僕と同じように、先輩の嫉妬を受けていたからな……。僕は、校長先生が顧問で、芸歴を知っていたから、主役に抜擢してもらえたけど、スズカは大道具係や脚本の清書役だぜ!こんなに可愛いのに、役をくれないんだ!」

「芸歴?カオルさん、やっぱり、子役だったんですね?何のドラマですか?」

「いや、恥ずかしいけど、江戸川乱歩の少年探偵団の……」

「ええっ!名探偵、明智小五郎助手の小林君の役ですか?」

「い、いや、少年探偵団の一員……、役名は、忘れたよ……!」

「カオルの話はいいのよ!わたしの『彼』なんだから!それより、スズカちゃんの追伸よ!」

「みどりさん!それはもうわかっているでしょう?スズカさんは、ヒロさんの告白の返事を追伸に書いたのですよ!わたしもヒロ先輩が好きです!お付き合いしてください、と……」

オトの推理に、ルミが反応した。

「わたしの次回作のキャラクター、オトちゃんをモデルにしていいでしょう?江戸川乱歩賞を狙っているのよ……!」

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そして、誰も、居らん、なった?――荒俣堂二郎の回想―― @AKIRA54

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