Claudeと遊ぶ——言語の紡ぎ手——④(完)

created by claude


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 林の中、雪に覆われた小径を照らす月明かりが朽ち木の影を長く伸ばしていた。リンダは慌ただしく小屋を出て、辺りを見渡す。影の気配はまだ残っている。だが、一体何なのかわからない。

「ヴォルザーヘン」

 リンダが呪文を唱えると、周囲の空気が液状化して目に見えるようになった。影は形を変えながら、この世のものとは思えない気配で林を這い回っている。リンダの背筋が凍りつく。

「お前がその本を手にしたことで、世界の均衡が乱れた。私たちはそれを正すべく、ここに現れた」

 影が合体して一つの姿となり、低いがそれでいて威圧的な声で語りかけてきた。

「均衡?」

 リンダは眉をひそめた。

「この世界は言葉で出来ているのでしょう? 私には好奇心があるだけです」

「お前のような凡庸な存在に、その秘密を知る資格はない!」

 影は唸りを上げた。

 リンダの心に激しい怒りが去来した。自分の人生を"凡庸"と決めつけられたことに。これまでの経緯を思えば、自分にも選ばれし存在となる資格があったのだ。

「グストヴァルフ! ヴォルベルマー!」

 渦巻く風と化物の液状化が同時に発動され、影は一時的に形を崩した。リンダはその隙に本を抱え、全力で逃げ始めた。

 遠くに町村の灯りが見えてきた。そこに辿り着けば人里に化物は現れられない。しかし、突き出た木の根にリンダは足を取られ、勢いよく転倒した。本が手から離れて転がっていく。

 化物の気配が迫る。リンダは必死で本を探したが、見つけられなかった。途方に暮れながらも、最後の一手を残していた。

「ウェルシュヴァルツ!」

 雪が一気に重みを増し、リンダの周りに雪の壁ができた。化物は閉じ込められた。

 やっと本を見つけたリンダは、雪の壁をくぐり抜けて故郷の村へと疾走した。しかし、辿り着く前に、リンダの体は白い光に包まれた。

 リンダは驚いて凍り付いた。まばゆい白さに目を細め、体の軽くなるのを感じた。意識が遠のいていく様な浮遊感に包まれながらも、リンダはなんとか足場を保とうとした。

 するとまたしても、渦巻く言葉の力が目の前に現れた。透き通るような空間の中、文字が次々と浮かび上がってきた。リンダはその文字を見覚えがあった。古文書の言語だ。

「ウンテルガング・デア・ヴェルト」

 言葉が発せられると、瞬時に世界が白く染まり、リンダの視界がひしゃげた。そして、次の瞬間、眩いばかりの輝きがリンダを飲み込んでしまった。

 ひと際強い光の中で、リンダは自分の体がないことに気づいた。ただ意識だけが、宙に浮かんでいるようだった。この世界が、全て書き改められてしまったことを直感した。

 回りを見回すと、そこには限りない白い空間が広がっていた。まるで神が何もない無の世界を創造する前の状態のようだった。リンダの心に恐怖が去来した。

 だがすぐに、リンダは胸中に強い気概を湧き上がらせた。ここは一から物語を書き直す場所なのだ。自分が学んだ言語の力を用いれば、望む世界を作り出せるはずだった。

 リンダは新たな決意を胸に、言葉を発した。

「アーンファング」

 するとリンダの周りに大気が生まれ始め、空間に広がりが現れた。やがてその前に地平が現れた。

「デア・アンファング」

 次に海と陸が造り出され、世界に奥行きが生まれた。太陽と月が輝き、基本的な自然環境が整った。リンダは感動を覚えながらも、更に次の言葉を紡いでいった。

 リンダは順に動植物、そして人間の姿を創造していった。かつての記憶を辿りながら、心に浮かぶ自然の営みを言語によって実体化させていった。


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 そこにはただ、白い光だけが広がっていた。

 リンダは、自分の肉体が失われて、光の中を意識だけが漂っていることを知った。世界のすべてがまたはじめからやり直されたのだ、と思った。

 白い光の世界に、一つずつ言葉を綴っていかなければならない。また、一から、言葉を使って一つずつ、一つずつ。そこに、物語が始まる。

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