第42話 ハルの意地

「ア、レン……!」


 もはや声も出せなくなっているミトラの代わりに、気力を振り絞って声を出す万有。


「万有、お前が僕を間に合わせてくれた。感謝する、後は僕に任せろ」


 アレンが手を前に突き出すと、1号の体内に入った3発の銃弾がアレンの手に帰ってくる。


 帰ってきた銃弾の内一発を飲み込むアレン。残り二発をマガジンに装填し、アレンは万有に銃を向ける。


「信じろ」


 静かに頷く万有に、アレンは銃弾を撃ち込む。すると万有は即座に眠りに付き、首筋の皮膚の変色も徐々に無くなっていく。


 続けてミトラに弾を撃ち込んだアレンは、懐から別の銃を取り出しヒュドラに銃口を向ける。


「まずい、解析弾か!」


 1号はその様子を見てアレンに飛びかかって顔を思いっきり殴りつけ、アレンの手から離れた拳銃を掴んでから地面に蹴り倒す。


「は、ははは……これでお前のプランも潰え――」


 次の瞬間、アレンは懐からソードオフショットガンを取り出して1号に二回発砲。銃撃を受けた1号は後ろによろけてから倒れ、あまりの痛みに銃から手を離す。


 すかさずそれを拾い上げたアレンはヒュドラに向けて銃弾を二発撃ち込み、命中したのを確認して1号の顔を蹴る。


「これで、研究所での借りは返せたな」

「な、何を言います。解析弾単体では意味が無いでしょう。しかも破壊弾の使用までには一分掛かる……私相手に、一分も時間が稼げるとでも?」

「やるさ。それしか道はないからな」


 アレンは熟睡するミトラの元に歩み寄り、ジャケットの胸ポケットに一通の手紙を入れる。


 それからアレンは万有とミトラに一回ずつ発砲。すると二人の姿は消え、二人がいた場所には小石がそれぞれ一個ずつ現れる。


「……わかりませんね。一般公開していないこの場所にたどり着いたり、二人を屋外に逃がす準備を整えていたり。まるで未来が見えていた様です」

「どうだろうな? ただお前の情報管理がガバガバだっただけかもしれねえ」

「アンタって人は!!」

「悔しいだろ、煽り返されるのは。やっと煽られる側の気持ちがわかったかよ」

「……殺す!」


 1号は一瞬でアレンとの距離を詰め、みぞおちを三発殴りつけ、さらによろけたアレンの下腹部に全力の蹴りを加える。


 一連の攻撃を食らったアレンは血を吐き出し、地面に倒れてぐったりする。そんなアレンの体に馬乗りになり、胸ぐらを掴んで首にナイフを突きつける1号。


「災いの子として産まれた人工生命はね、常人の数十倍の身体能力と痛覚への耐性を持つんですよ! 人の身で、災いの子の一人たる私に適うはずが無いでしょう!」

「……ハハハ、確かにそうだな。だがな、それも事前に視て知ってんだよ。その上で言わせて貰う。ハルの意地は、こんなもんじゃ終わらねえ」


 アレンが拳をぐっと握ると、ズボンのポケットに仕込まれたフラッシュバンが爆発して辺りに閃光と爆音を放つ。


 1号がそれらに怯む一瞬の隙を突き、アレンは1号の胸を殴って体勢を崩し、1号が離したナイフをキャッチしてみぞおちに突き立てる。


「ぐぅぅぅっ!!」

「耐性はあれど、痛ぇもんは痛ぇんだな! じゃあもっと奥深くで味わって貰おうか!」


 ナイフを右手でぐっと押し込むアレン。1号は耐えきれずアレンの体から降り、片膝を立てた姿勢でナイフを抜いて呼吸を整える。


 それを受け、密かに背中から日本刀を抜くアレン。刀を構えると同時に、1号はスッと起き上がる。そんな1号の顔には、凄まじい憎悪がにじんでいた。


「殺す……絶対に殺す! もはや苦しませて殺すなんて事はしない、今すぐにでも貴様の死体が見たいんだ!」

「貴方からアンタ、アンタから貴様。呼び名をコロコロ変えちゃってさ、余程余裕がないとみた」

「うるさい! さっさと死ね!」

「死なせたいなら早く来いよ!」


 再び一瞬で距離を詰める1号。アレンはそれを予測していたかのように日本刀を振り下ろし、1号の右肩に深く刺し込む。


 しかし1号が筋肉を収縮させたことで日本刀が抜けなくなり、動きを封じられたアレンは1号によってうなじをナイフで刺される。


「フハハハハ!! ゲームオーバーですねアレン・ハル! 貴方の方が傷は深い、時間だって……は?」


 アレンの腕時計をみた1号は、戦闘開始から既に1分が過ぎている事に気づく。


「な、に……?」


 アレンは不敵な笑みを浮かべ、ポケットから小さい拳銃を取り出してヒュドラに向ける。


「ゲームオーバーはそっちだぜ」


 そのまま引き金を引き、アレンはヒュドラに二発の銃弾を打ち込んだ。するとヒュドラは叫び声を上げ、うねうねと身をよじる。


「バカな!! この私が、たかが真人間に後れを取るなどと……!!」

「ざまあ、みやがれ……」


 アレンはそう言い残し、仰向けに地面に倒れた。アレンが倒れた場所からは止めどなく血が流れ出しており、すっかり精根尽き果てたアレンは目を閉じたまま開けられずにいる。


「死に損ない、にしては……結構、やった方なんじゃないか? これで説教は……無し、だよな……親……父……」


 そう遺言を残し、アレンは息を引き取った。


「急いでデータを取らねば……何を封じられたかにもよる、せめてアレとアレさえ残っていれば!」


 階段を駆け上り、コンピュータールームに駆け込む1号。キーボードを操作したのち顔を上げて画面を確認した1号は、ほっと一息つく。


「確かに大打撃を喰らいはしたが、致命傷では無い。計画は続行だ」


 口角を上げる1号。不敵に笑いながら、1号はその場を後にするのだった。

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