第28話
魔術は攻撃範囲を制限するほど、威力が高まる。しかし大魔術は例外であり、広範囲攻撃でありながら威力を高められる。
とはいえ大魔術も魔術には変わりない。攻撃範囲を制限すれば威力を高められる、あくまで理論上の話だが。
「「「――――ッ!!」」」
ヴィネが動けないイーリスの腕を掴み、その場を離れた。
アリスの魔力で周囲は大魔術を弾かれている。彼女達は遠く離れた場所に逃げ、背後を振り返る。
炎の渦は次第に弱まり、霧散する。それを眺めながら彼女達は激しい胸の高鳴りを自覚していた。
優れた魂を持つ者ほど理解できるのだ、レオンの常軌を逸した技量を。
レオンの邪悪な嘲笑が帝都に響き渡る。およそ騎士団とは思えないほど邪悪な声と表情で、上空から血塗れのマモンを見下ろしていた。
もはやどちらが悪人なのか分からない。
レオンは明らかに舐め腐った態度だが、マモンの心に苛立ちや悔しさなどは微塵もなかった。
それほどまでにマモンは才能の差を痛感してしまったのだ。
大魔術は聖騎士の中でも上澄みしか扱えない。そして扱える者も殆どが完璧に制御できなかった。
だからこそウォーレンはマモンの大魔術を防ぎ切れず、重傷を負った。
大魔術を完璧に制御できるのは、騎士団の中でも二人だけだ。それくらい大魔術は制御自体が難しい。
だがレオンは大魔術の攻撃範囲を3割まで制御し、威力を大幅に高めていた。
軽々と常識をひっくり返すような才能。レオンは技量だけなら、イーリスすら軽く凌駕している。
「……くそ」
舌打ちするマモン。大魔術に呑み込まれたマモンの仲間は呆気なく一掃され、彼は単独でレオンと向き合う。
「その呪具、探知系か?」
全身が血塗れになり、上半身が裸になった状態でマモンは地に片膝を突いている。
レオンが瓦礫の上に降りて、薄笑いを浮かべながら「オロバスも勘違いしていたが、全く違うな。探知系の呪具を使わずとも、お前らの気配は辿れる」と断じた。
何故ここで探知系を警戒されているのか、彼は気づいていない。
レオンが「……残りはお前一人だけだな?」と尋ねると、マモンは不敵に笑う。
「来たばかりのお前は知らないだろうが、魔族はいくら死んでも――」
眼の前で起こっている光景にマモンは言葉を失った。
レオンの手元で周辺から細い線状の光が収束している。数秒で光は消え、レオンの手元からは数十個の小さな結晶がこぼれ落ちていく。
「お前は知らんだろうが魔族は封印できる、こんな風に結晶化させることで。……お仲間の復活なんて期待しないことだ」
つまらなそうに言いながら、レオンはマモンを睥睨する。
それを見てマモンは「……まじかよ、お前」と言いながら、目を見開いて高揚していた。
どうしても口元が緩む。結晶化すれば永遠の封印もあり得る。マモンは当然それを自覚しているが、絶望を抱けなかった。
彼は力で人の価値を決める。だからこそ強者を何より尊ぶのだ。
いずれリリスやアルシエルを超えるであろう、圧倒的な天才に殺されるかも知れない。
それは彼にとって受け入れ難い死ではなかった。
ただ目の前の天才に全力をぶつけたい、その気持ちでマモンの腕に力が入る。
「興奮しているところ悪いが、さっさと終わらせる。いい女達を待たせたくないからな」
レオンは余裕からくる薄笑いを浮かべ、ゆっくりと剣を引き抜いた。
「すぐにあの世で会わせてやるよ」
マモンは腰を落とし、剣を構えた。胸の高鳴りを抑えられないという表情だ。
ボロボロの肉体であることを忘れてしまうほど、彼は興奮している。
「……かかってこい。天才と凡人の差を教えてやる」
圧倒的な慢心と才能。レオンの瞳には恐怖は一切込められていない、格上の魔力を持つマモンが相手だとしても。
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