第25話




 帝都は魔族や敵国の騎士が暴れ、多くの爆発や悲鳴が響く。周囲は騒がしい中でイーリスは嘆息し、力なく剣を握っていた。


「この期に及んで仲間割れとは……、好都合だな。イーリス=アーベル。お前さえ始末できれば俺たちの勝ちだ」


 何事にも慎重なオロバスが消えたことで、誰もマモンを止められない。この状況がマモンに思いがけない幸運を齎した。


 聖騎士が集まる剣武祭を奇襲する。間違いなく用心深いオロバスなら取らない選択であり、普通ならマモン達は劣勢に追い込まれてしまう悪手だ。


 しかしタイミングが絶妙だったのだ。


 オロバスを始末した直後に、奇襲されたとしたら誰が標的で原因なのか言うまでもないだろう。


 この帝都の奇襲は全てカーヴェルの責任であり、エルヴィンだけではなく他の聖騎士達もイーリスを見限った。


 人は逃げる理由を作る為なら、他人を悪人に仕立て上げる生き物だ。土壇場の状況なら尚さらである。


 イーリスに責任を押し付けて逃げるのは、思考の流れとして当然だった。


「……これだから奇襲はやめられない」


 負けるなどありえないと、マモンは不敵な笑みを浮かべて剣を抜く。


 急に揃えた戦力ですらイーリスに勝てると踏んでいたが、今の彼は近隣国すら仲間として率いている。オロバスが消えたことを除けば、万全の状態だ。


 イーリスは暗い表情で剣を構え直す。表情に出さないだけで、彼女は激しく動揺していた。


 近隣国の騎士と魔族を束ねたマモンを見て、イーリスは激しい不安と焦りを抱く。彼女は戦う前から理解していたのだ、自分では彼らに勝てないことを。


「…………」


 イーリスはリリスほどではないにせよ、恐ろしい存在だとマモンは認めている。だからこそ出る杭を打てる絶好の機会に、彼は笑いを堪えきれない。


 かつてのリリスと同じだなと思いながら、マモンは剣を抜く。彼の目にはイーリスとリリスの姿が重なっている。


 リリスは強さ故に恐れられ、悪に仕立て上げられた。恐らく今のイーリスも同じ道を歩んでいる。


 そもそもエルヴィンの言い分はおかしい。聖騎士の殆どが平民を巻き込む戦いを経験している。であれば、自分達が巻き込まれても文句は言うべきではない。


 因果応報を是とするなら、この場にエルヴィンは残るべきだった。


 それなのに彼が逃げ出したのは、イーリスを恐れているからに過ぎない。結局のところ騎士団で、イーリスやヴィネは信用されていないのだ。


 レジーナを恐れて何も言わないだけで、殆どの者がイーリスやヴィネを仲間だと思っていない。


 いつ裏切るのか分からない魔族達と、多くの騎士は恐れていた。だからこそ彼らはイーリスを見捨てることに、何ら躊躇がなかったのだ。




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