第24話




 マモンに続き、ウォーレンも大魔術を発動させた。その結果として帝都は辛うじて守られたが――


「…………ッ!」


 ウォーレンは血塗れの姿になり、聖騎士用の席は半壊していた。


 逃げ惑う騎士や平民の声が響き渡る中、「お粗末な大魔術だな、防ぎきれない魔力を自分に向けるしかないなんて」とマモンはウォーレンを見下ろす。


「才能の差は残酷だよな、凡人」


 マモンの邪悪な嘲笑が闘技場を響く。彼の周囲には、近隣国の騎士団や強力な魔族が集まる。その多くが帝国の聖騎士に匹敵する精鋭達だ。


「ウォーレン……!」


 その光景に青ざめたのはエルヴィンだけではない。ウォーレンの周囲にいる十人の聖騎士でさえ、マモンの放つ強大な魔力に怖気づいている。


 騎士団で最高位の実力を持つ聖騎士でさえ、マモンの魔力は脅威だった。


 単独でマモンを倒せるとしたら、帝国に二人しかいない。それほどに彼は圧倒的な実力を備えている。


「ウォーレン。平民や騎士を庇うなんて正気ですか? よほど将来有望な騎士であれば庇う理由になります。ですが、彼らは有象無象だ。庇う価値なんてありません」


 いつの間にか現れたイーリスは歩きながら、剣をゆったりと引き抜いた。ウォーレンとエルヴィンの近くで足を止め、彼女は蔑むような視線をマモンに向ける。


 イーリスの魔力はマモンを凌駕している。その圧倒的な力にマモンは冷や汗を掻きながらも、薄ら笑いを浮かべていた。


「…………ッ!」


 エルヴィンは顔に苛立ちを滲ませていた。平民や仲間を見下すイーリスの発言に、彼は憤りを抱いているのだ。


「ウォーレン、エルヴィン。分かっていると思いますが、騎士や平民を庇えば死にます。周囲を巻き込むことを躊躇わず戦いましょう」


 当然のことだが非道な選択を口にした。イーリスはマモン以外の敵に気づいている。もはや手段を選んでられない。


「イーリス。君はマモンの動きを止めてくれ。その間に――僕達は逃げる」


 エルヴィンは淡々と顔色を変えず、逃走の道を選ぶ。これには普段冷静なイーリスも「……は? な、何を、言って……」と狼狽し、僅かに腕から力が抜けて剣先を落とす。


 マモンは「え? マジで?」と目を丸くしていた。


「エルヴィン……! 何を言っているんだ……!」


 ウォーレンの動揺はイーリスやマモンより激しい。エルヴィンはイーリスを囮にして逃げると宣言した。頭で理解しているからこそ、耳を疑ってしまう。


「どうした、イーリス。君は弱者を見捨て、今まで戦っていた。自分が見捨てられる側になろうと、文句は言えないはずだ。因果応報だと思うべきでは?」


 小馬鹿にした様な口調だ。エルヴィンは散々、イーリスが騎士や平民を巻き込みながら戦う姿を見ていた。


 これ以上、イーリスに仲間を殺されたくない。その思いが強いからこそ、彼は逃走することに躊躇がない。


「…………ッ!」


 イーリスは決して薄情ものではない。寧ろ正義感が強いからこそ、苛烈な正義で騎士を務めている。


 賊ならともかく、騎士を男だからという理由だけで殺すほど殺人鬼ではない。それ故にエルヴィンの言葉は、彼女の良心を抉る。


「好きにしなさい……」


 イーリスは目を伏せ、力なく答える。







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