第23話
木々に囲まれた湖の水面でセレナとレオンは戦っていた。
まだ魂を与えられたばかりだというのに、彼女は多彩にスキルを扱えている。それどころか単純な魔力だけなら、レオンより高い。
「――――ッ!」
セレナはサリタの魂を引き継ぎ、スキルを含めた力の全てを使い熟していた。
これはつまり誰が死んでも魂さえ回収すれば、新たな戦力に加えられるということだ。
「イーリス様は少し気配が違ったような気が……」
セレナが剣を下げ、疑問を口にする。
「こういう呪具と同じ気配がしたんだろ?」
何が言いたいのか察したレオンは、指に装着した呪具を見せる。禍々しい気配を放つ呪具に、セレナは少し眉を顰めて「はい……」と肯定した。
「忌み子が呪具を取り込むと、魔族に変質する。だから魔族は呪具の気配を漂わせる。それは知っているな?」
というレオンの確認にセレナは先走って「やはりイーリス様――」と息を呑む。
「いいや。イーリスは魔族じゃない。少し特殊だよ、アイツは」
僕は即座に否定した。そして「呪具を取り込んでも魔族に変化しなかった、唯一の忌み子だ。とはいえ、本人は自分を魔族だと勘違いして――」続きを口にしようとした時だった。
「レオン。帝都が奇襲された」
背後に現れたレジーナが不機嫌そうな声で言う。
「オロバスを失った状況で、イーリスがいる帝都を襲うのか……」
振り返りながらレオンは頭を掻き、「セレナ、中断だ。僕が戻るまで母さんの近くで待機していろ」と言ってレジーナの隣を横切る。
「近隣国を味方につけたらしい」
レジーナは暗に、行ってもいいが気を抜くなと言う。レオンの慢心を案じているらしい。
彼女はゲーム通り屋敷近くから身動きが取れないようで、レオンが行くしかないと判断したらしい。
だからこそレオンに帝都の現状を知らせ、戦いに向かう素振りを見ても止めなかった。
その場からレオンの姿が消える。
彼は上空まで移動しており、帝都の方を向いていた。魔力で空気を蹴り、山脈に突っ込むと全速力で帝都を目指した。
空を駆けないのは単純に速度の問題である。魔力そのものを蹴るより、地面や岩などの物体に魔力を込めた方が跳躍力が向上するのだ。
「良かったな、顔の傷が消えて。それに高い魔力と稀有な異能。レオンの代わりに私が指導してやる、ついてこい」
レジーナが踵を返し、屋敷に足を運ぶ。
「れ、レジーナ様……」
セレナの表情が暗い。別に指導を恐れているわけではないだろうと、レジーナは気づいて嘆息する。
「レオンなら心配するな。帝都にはエルヴィンやウォーレンがいる。奴らが早々に死んでいない限り、勝つのは騎士団側だ。レオンの出る幕なんて考えられん」
不敵に笑ってレジーナは落ち着いた様子だ。微塵も不安なんて感じていないらしい。
考えの違いはあっても、ウォーレンとエルヴィンは信頼できる。彼らの正義と実力は確かだとレジーナは判断していた。
「レオンだって今の実力でマモンに勝てると自惚れていない。本当に不味いなら自分だけでも逃げるだろう」
軽い口調でレジーナは少し足を止めて振り返る。「そうですね……。ウォーレン様やエルヴィンさまならきっと――」とセレナは自分に言い聞かせた。
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