第19話


 イーリス、アリス、リリス、後ろに『リス』が付く名は、ゲームで重要人物扱いだった。


 彼女達の立ち回り次第では展開が読めなくなってしまう。だからどうしても僕はアリスを仲間にして、傍に置いていたかった。


「――というわけで、アリスをカーヴェルに迎え入れたい」


 屋敷に戻った僕は、レジーナの私室でアリスを紹介していた。アリスは緊張した様子で僕の隣に立っている。


 彼女からしても、レジーナの性格と纏う魔力が恐ろしいみたいだ。体が震えて青ざめている。


「……お前はアウリス王国を捨てられるのか?」


 両袖机の席に着き、いつもの眠たげな眼差しでレジーナはアリスを見る。


「レオンと一緒に居られるなら、カーヴェルに加わりたいです」


 アリスの顔から明らかな羞恥が見て取れる。僕が着ている服の袖を掴み、彼女は赤面していた。


「……ん? あぁ、なるほど。そうか。それが理由か」


 レジーナは含みを持たせた言い方で、少し口角を上げる。


「レオン、でかしたぞ。アリスには以前から目をつけていた。これほど簡単に手に入るとは思わなかったぞ。本当によくやった」


 不気味なほど上機嫌だ。レジーナは席を立って僕に近づくと、強く抱き寄せる。身籠った腹が邪魔で少し僕は前屈みになり、大人しく抱擁を受け入れた。大きな胸に顔が埋まり息がしにくい。


「アリス、ついてこい。お前の力を試す」


 レジーナの声音は好奇心に満ちていた。噂の天才が気になって仕方がないのだろう。また僕の時みたいに一日中鍛えて、潜在能力を推し測るつもりなのは容易に想像できた。




 セレナは魂を持たない存在――無能力者として生まれ、母親に捨てられた。その母親はレジーナにセレナを押し付け、非情にも立ち去った。


 一時的にセレナはカーヴェル家に使えメイドとなる。同僚に嫌がらせを受けることはないが、かなり厳格な者達が多い。


 だからセレナは誰にも優しくされた経験がない。ゲームでは彼女の健気な努力が細かく説明されていた、死ぬまで幸せを知らない少女と語られながら。


 ゲームのプロローグは彼女の死から始まる。それ故に僕は彼女に思い入れが深い。もしも屋敷がマモンの奇襲に遭えば、必ずセレナを守り抜くと心に決めていた。



「し、子息様……」


 メイド服の胸元を開けて、セレナはベッドに押し倒されていた。


「安心しろ。ちゃんと魂を肉体に定着させてやるから」


 レオンは私室でセレナに覆い被さり、青い結晶をセレナの胸に押し付けている。


 淡く発光した結晶は、彼女の胸元に吸い込まれて消えた。


「なんだか、温かい何かが……」


 全身が力と仄かな熱に満たされていく感覚をセレナは感じていた。「これが……、魔力……」と自分の掌に視線を持っていく。


 透明だけど何となく手に力が纏っているのが理解できる。


「顔の傷、悪かったな……」


 目を布で覆い隠すセレナを見つめ、レオンは悲しそうな顔をした。「何か望みがあるなら俺に言え。可能な範囲で叶えてやる」と彼はセレナの頬に触れる。


「――させませんよ」


 イーリスが乱暴にドアを開けてズカズカと入る。振り返りもせず手を払い、ドアは風に押されて閉められた。「レオン、私とする約束を破る気ですか?」と彼女はベッドの縁に腰を下ろし、レオンを抱き寄せて口づけした。セレナは赤面し、二人の濃厚なキスを目の前で見せつけられる。


「……イーリス、勘違いするな。これは性行為をしていたわけじゃない。今、セレナに魂を与えていたんだ」


 レオンは呆れた様子でイーリスを引き剥がす。彼女は仰向けに寝ているセレナを見て、「凄くいい体をしていますね……」と呟く。「あ、あの……」とセレナは狼狽えるが「気にしてはいけません」とイーリスはセレナの胸を優しく揉みほぐす。


「おい、話を聞けって……」


 レオンはイーリスの肩を掴む。それでもイーリスは無視して「こんなに発情して……、悪い子ですね……」とセレナの胸を揉む手を止めない。


「発情しているのも悪い子も全部お前だって。そういえば、イーリスはレズだったな……。すっかり忘れてた……」


 美少女同士の発情は光景として美しいので、あえて強く止めない。


 レオンはため息交じりに呆れながらもイーリスとセレナの絡みを温かく見守っていた。


 イーリスは意気揚々とセレナを後ろから抱き起こし、手を回して胸と割れ目を弄る。


「レオン、見なさい。咥えて欲しそうに固くしています」


 凄く色気漂う、うっとりとした笑顔でイーリスはセレナの乳首をつまむ。セレナは「う……♡」と少し心地よさそうな声で呻く。


「凄い笑顔でテンションたっかぁ。無表情キャラが崩壊しちまってんだろ」


 不気味な物を見る目でレオンはドン引きしていた。セレナに近づきながら「ちょっと、布を取ってもいいか?」と彼は手をのばす。


 レオンの両手で顔を挟まれ、「え……? あ……、はい……」とセレナは戸惑いながらも承諾した。布の下が気になるらしく、イーリスがセレナの顎を掴んで横に向かせる。


「…………! 古傷でしたが、治りましたね……」


 感心したようにイーリスは言う。何かの聞き間違いかと思い、「……え?」とセレナは戸惑って続きの言葉が出てこない。


「魂に傷痕を消す力はあって当然だろ? そうでなければ俺達は全身が傷痕塗れだ。単純な治癒だけだとしたら、傷痕は残るからな」


 何気ない雑談感覚らしい。レオンはセレナの戸惑いを全く気にせず、淡々と魂の力を説明していた。


「言われてみれば確かにそうですね。……よかった。これでまた綺麗なセレナの顔が見えます」


 まだ傷は完璧に癒えていない。それでも殆ど目立たない傷まで回復したことに、イーリスは一安心する。


 まるで母親のような慈愛に満ちた表情だが、胸を揉む手は止まっていなかった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る