第19話
イーリス、アリス、リリス、後ろに『リス』が付く名は、ゲームで重要人物扱いだった。
彼女達の立ち回り次第では展開が読めなくなってしまう。だからどうしても僕はアリスを仲間にして、傍に置いていたかった。
「――というわけで、アリスをカーヴェルに迎え入れたい」
屋敷に戻った僕は、レジーナの私室でアリスを紹介していた。アリスは緊張した様子で僕の隣に立っている。
彼女からしても、レジーナの性格と纏う魔力が恐ろしいみたいだ。体が震えて青ざめている。
「……お前はアウリス王国を捨てられるのか?」
両袖机の席に着き、いつもの眠たげな眼差しでレジーナはアリスを見る。
「レオンと一緒に居られるなら、カーヴェルに加わりたいです」
アリスの顔から明らかな羞恥が見て取れる。僕が着ている服の袖を掴み、彼女は赤面していた。
「……ん? あぁ、なるほど。そうか。それが理由か」
レジーナは含みを持たせた言い方で、少し口角を上げる。
「レオン、でかしたぞ。アリスには以前から目をつけていた。これほど簡単に手に入るとは思わなかったぞ。本当によくやった」
不気味なほど上機嫌だ。レジーナは席を立って僕に近づくと、強く抱き寄せる。身籠った腹が邪魔で少し僕は前屈みになり、大人しく抱擁を受け入れた。大きな胸に顔が埋まり息がしにくい。
「アリス、ついてこい。お前の力を試す」
レジーナの声音は好奇心に満ちていた。噂の天才が気になって仕方がないのだろう。また僕の時みたいに一日中鍛えて、潜在能力を推し測るつもりなのは容易に想像できた。
◆
セレナは魂を持たない存在――無能力者として生まれ、母親に捨てられた。その母親はレジーナにセレナを押し付け、非情にも立ち去った。
一時的にセレナはカーヴェル家に使えメイドとなる。同僚に嫌がらせを受けることはないが、かなり厳格な者達が多い。
だからセレナは誰にも優しくされた経験がない。ゲームでは彼女の健気な努力が細かく説明されていた、死ぬまで幸せを知らない少女と語られながら。
ゲームのプロローグは彼女の死から始まる。それ故に僕は彼女に思い入れが深い。もしも屋敷がマモンの奇襲に遭えば、必ずセレナを守り抜くと心に決めていた。
◆
「し、子息様……」
メイド服の胸元を開けて、セレナはベッドに押し倒されていた。
「安心しろ。ちゃんと魂を肉体に定着させてやるから」
レオンは私室でセレナに覆い被さり、青い結晶をセレナの胸に押し付けている。
淡く発光した結晶は、彼女の胸元に吸い込まれて消えた。
「なんだか、温かい何かが……」
全身が力と仄かな熱に満たされていく感覚をセレナは感じていた。「これが……、魔力……」と自分の掌に視線を持っていく。
透明だけど何となく手に力が纏っているのが理解できる。
「顔の傷、悪かったな……」
目を布で覆い隠すセレナを見つめ、レオンは悲しそうな顔をした。「何か望みがあるなら俺に言え。可能な範囲で叶えてやる」と彼はセレナの頬に触れる。
「――させませんよ」
イーリスが乱暴にドアを開けてズカズカと入る。振り返りもせず手を払い、ドアは風に押されて閉められた。「レオン、私とする約束を破る気ですか?」と彼女はベッドの縁に腰を下ろし、レオンを抱き寄せて口づけした。セレナは赤面し、二人の濃厚なキスを目の前で見せつけられる。
「……イーリス、勘違いするな。これは性行為をしていたわけじゃない。今、セレナに魂を与えていたんだ」
レオンは呆れた様子でイーリスを引き剥がす。彼女は仰向けに寝ているセレナを見て、「凄くいい体をしていますね……」と呟く。「あ、あの……」とセレナは狼狽えるが「気にしてはいけません」とイーリスはセレナの胸を優しく揉みほぐす。
「おい、話を聞けって……」
レオンはイーリスの肩を掴む。それでもイーリスは無視して「こんなに発情して……、悪い子ですね……」とセレナの胸を揉む手を止めない。
「発情しているのも悪い子も全部お前だって。そういえば、イーリスはレズだったな……。すっかり忘れてた……」
美少女同士の発情は光景として美しいので、あえて強く止めない。
レオンはため息交じりに呆れながらもイーリスとセレナの絡みを温かく見守っていた。
イーリスは意気揚々とセレナを後ろから抱き起こし、手を回して胸と割れ目を弄る。
「レオン、見なさい。咥えて欲しそうに固くしています」
凄く色気漂う、うっとりとした笑顔でイーリスはセレナの乳首をつまむ。セレナは「う……♡」と少し心地よさそうな声で呻く。
「凄い笑顔でテンションたっかぁ。無表情キャラが崩壊しちまってんだろ」
不気味な物を見る目でレオンはドン引きしていた。セレナに近づきながら「ちょっと、布を取ってもいいか?」と彼は手をのばす。
レオンの両手で顔を挟まれ、「え……? あ……、はい……」とセレナは戸惑いながらも承諾した。布の下が気になるらしく、イーリスがセレナの顎を掴んで横に向かせる。
「…………! 古傷でしたが、治りましたね……」
感心したようにイーリスは言う。何かの聞き間違いかと思い、「……え?」とセレナは戸惑って続きの言葉が出てこない。
「魂に傷痕を消す力はあって当然だろ? そうでなければ俺達は全身が傷痕塗れだ。単純な治癒だけだとしたら、傷痕は残るからな」
何気ない雑談感覚らしい。レオンはセレナの戸惑いを全く気にせず、淡々と魂の力を説明していた。
「言われてみれば確かにそうですね。……よかった。これでまた綺麗なセレナの顔が見えます」
まだ傷は完璧に癒えていない。それでも殆ど目立たない傷まで回復したことに、イーリスは一安心する。
まるで母親のような慈愛に満ちた表情だが、胸を揉む手は止まっていなかった。
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