第14話



 赤髪を腰まで伸ばした少女――アリスは地下牢で腕を縛られ、宙吊りにされていた。彼女の体は黒い文様が刻まれている。


 これは封印術というスキルの痕だ。スキルの影響で、彼女は魂の力を制限されている。今の彼女は魔力を纏えない平民と変わりない。


「…………」


 彼女は手を動かし、両手の枷を見つめる。目は虚ろで、生きる事を諦めていた。その気持ちも当然だ。今まで貴族として恵まれた環境で生きていた彼女には、この状況は屈辱的で耐え難い。


 排泄する場所すら用意されていない牢屋。魂の優れた者なら誰もがスキルを使い、体内で排泄物を処理できる。


 しかし魔力が制限された彼女には、それすらできない。みっともなく排泄物を垂れ流していた。


 貴族の家に生まれ、容姿に恵まれ、誰もが羨む才能に満ちていた。彼女にとって周囲の大人達は尊敬に値しない。誰もが凡人で、全てが容易い。何をしても卓越した才能を発揮していた。


 自分と並ぶ天才と言われるレイラですら、興味を抱けなかった。


 剣武祭で少し対峙した程度だが、レイラは極端に怠惰であった。才能は確かだろうが、惰性で殆ど鍛えていない。近い才能を持つレイラすらアリスと対等になりえなかった。


 並び立つ者を知らない退屈な日々を過ごしていた。今の自分より強い者は存在する。しかし、いずれ超えられる程度の小さな壁だ。心の底から見下していた、周囲の人々を。


 過去を思い出すほど虚しくなる。いずれ聖騎士の頂点に立つはずだった。そんな才能溢れる自分が、こんな廃墟で殺されるのは悔しくて仕方がなかった。


 アリスが涙を堪えて歯噛みした時だった、目立つ足音が響き渡る。誰かが近寄ることに心臓が恐怖で軋む。遂に殺されるのかと身構えた。


 まるで焼かれたチーズのように、正面の壁がどろっと溶けていく。


「良かったよ、まだ生きていて……」


 扉を壁ごと溶かしたレオンが、心底安心したように苦笑する。


「…………あ」


 アリスは口にしかけた言葉を失う。頭が真っ白になり困惑していた。


 自分と同じ歳くらいの美少年。味方なのか判別できない。そして何より――纏う魔力が尋常ではない。


 体が震えて吐き気が込み上げるほど、彼の魔力に圧倒される。今世紀最大の才能と言われる自分すら、彼の前では霞んでしまう。


 同年代とは到底思えないほど、力がかけ離れている。アリスは恐怖で声が出せなくなっていた。


「熱くないから安心しろ」


 レオンはアリスに近寄り、掌を向ける。彼女は縮こまる、殺されると勘違いして。燃やされたのは衣服と周囲の排泄物だった。ついでに排泄物の悪臭も消えている。


「さて、魔族が帰ってくる前に逃げようか」


 真剣な眼差しでレオンは言う、まるでアリスの裸に興味がないように。彼の言葉を聞いて、味方だとアリスは理解する。


「…………っ!」


 彼女を縛る枷が音を立てて砕け散る。別に必要ではないだろうが、レオンはアリスを抱きとめた。


 封印術に縛られ、彼女は魔力を纏えていない。それ故にレオンの魔力を直に触れてしまう。彼の魔力は体が芯から温かるほど心地良い。アリスの中で先程まで感じていた恐怖が一瞬で消える。


「自分の足で歩けるか……?」


 レオンは言いながら、アリスを炎で少しえぐれた床に降ろす。彼女はレオンの両腕を掴みながら、申し訳無さそうに首を横に振る。


「ごめんなさい……。体に上手く力が入らなくて……。そ、それに、裸だと……」


 アリスは目線を自分の体に移すと、「〜〜〜〜っ!」と羞恥で言葉を失った。彼女の大粒な乳首が、痛々しいほどにツンと固く勃起しているからだ。


 先程までイーリスと抱き合っていた所為で、レオンは性技スキルを発動した状態だった。それが理由で、アリスの体は興奮を促されている。


「こ、これは……! その……! ……違うの!」


 咄嗟に顔を上げて叫ぶ。アリスは赤面し、しどろもどろになる。乳首を隠すように胸をレオンに押し当てた。「ん……♡」彼女はレオンと同じ歳とは思えないほど、色っぽい声で呻いてしまう。


 アリスは自分の失態に、羞恥で俯いて黙り込む。


「心配していたのに、けっこう元気だな……」


 レオンは呆れた様子で、アリスの体を少し引き剥がす。そして彼女の乳首をつまんで強く引っ張る。


 「んぎぃ……♡」と無様な声を上げる彼女を無視して、育ち始めたばかりの小ぶりな乳房をレオンは優しく揉む。


 アリスは頭がクラクラするほど興奮し、内股になって足をこすり合わせていた。何か期待した眼差しでレオンを見上げる。しかし――


「すまないが、お前と交わっている暇はない。それに俺には想い人がいるからな……。責任を迫りそうな女は対象外だ」


 凄く最低なことを言いつつ、レオンは背負っていた袋を広げる。新品の下着と軍服を取り出し、慣れた手付きでアリスに着せた。


 彼女を背負い、来た道を引き返す。


「うぅ……」


 アリスはレオンに背負われながら悶々としていた。この体勢では股と胸を弄れない。だからひっそりとバレない程度に、レオンの体に胸と股を擦りつけていた。


 息の荒さで何をしているのか、レオンが察しているのは言うまでもない。




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