第15話
「…………ほう」
レオンは拠点の中を歩いている途中で、急に足を止めた。
「オロバスか。随分と早かったな」
小馬鹿にした態度でレオンは笑う。視線の先で曲がり角からオロバスが姿を現す。「それだな……! この遮魔で作られた建物を探知するなんて、厄介な『呪具』だ……!」、殺気を込めた瞳で彼は掌をレオンに向けた。
「何故、建物ごと魔術で攻撃しなかった? この地下は魔力が遮断されている。外から魔術を撃てば不意打ちできたはずだ」
つまらないものを見る目で嘆息する。レオンは「この女は盾だ。魔術を撃ちたいのなら好きにするといい。この女が死のうが俺は構わん」と剣を抜く。
アリスは少し血の気が引き、先程までの興奮が少し吹き飛んでいた。助けてほしいと言葉にはできない。しかし気持ちが伝わってほしくて、無意識にしがみつく力が強くなる。
「…………っ!」
音が鳴りそうなほど歯噛みした。オロバスは剣を引き抜いて、レオンと対峙した。油断する気はない。何故ならオロバスはレオンを心の底から恐れているからだ。
レオンが魔族ではないことは気配で分かる。だからこそ魔力の高さが不気味だ。レオンが纏う魔力は聖騎士と遜色ない。そして目に見えて分かるほど、魔力が洗練されている。これは普通では有り得ないほど、年齢に不釣り合いな魔力だ。
「……貴様、どこまで知っている?」
思わず口にした。何かしらの打算はない。純粋な疑問が口からこぼれてしまった。
「アリスの異能と魂の結晶化……。人工的な忌み子の量産……。大抵のことは知っている。勿論、マモンの仇敵がアルシエルであることも」
まるで友人と話すような軽い口調だった。しかし出てくる言葉はオロバスにとって悪夢の様。帝国の騎士が知るはずがない話だ。何もかも見透かされている。そんな激しい不安が込み上げた。
「お前らの目的は、リリスの真逆だろ? 強者が好き勝手する自由な社会。正直なところ、俺としては共感しかない。だがまぁ……、お前らは両親の仇だからな……」
呆れと悲哀が交じる表情だった。何もかも知り尽くしていそうな、恐ろしい言動。
レオンはゆったりと剣を構える。
「――――ッ!!」
ここで確実に始末すると決め、オロバスは地面を力強く蹴る。レオンに急接近し、彼は渾身の一撃を振るった。
◆
薄暗い地下通路を歩く茶髪の女――サリタ。
彼女はアウリス王国の騎士であり、赤色の軍服を着ている。生真面目な性格が顔や態度に現れており、涼しい顔がよく似合う。
そんな彼女は珍しく焦りと緊張で顔が歪み、足取りは妙に力が入ってたどたどしい。怯えているのだ、周囲の激しい揺れと激闘の気配に。
「…………っ!!」
サリタは足を止め、前方の曲がり角に注目する。命の危機を感じ、体が震える。「行かせませんよ」と曲がり角から出てきたのは、いるはずのない帝国の聖騎士だった。
「…………ここで貴女を殺します」
無表情のイーリスは冷たい目をサリタに向ける。
「な、なぜ……! 貴様がここに……!」
動揺と恐怖を隠せない。サリタは震える手で剣を引き抜いて、「イーリス=アーベル……! この騒ぎはカーヴェル派の仕業か……!」と声を荒げた。
「同じ聖騎士とはいえ、力の差は歴然。抵抗するだけ無駄ですよ。大人しく私に首をよこしなさい」
興味なさそうに剣を引き抜き、ゆっくりとイーリスは足を進める。「貴女の異能は私と相性が悪い」と彼女は大気を震わせるほどの魔力を解き放つ。
「私の異能を知っているような口ぶりだな……?」
恐怖と不安で汗を垂れ流し、サリタは半歩後ろに下がる。彼女の異能は騎士団すら知らない。まして帝国の騎士団に知る術はないはずだと、彼女はたかをくくる。
「複数の『呪具』を融合させる。それが貴女の異能です」
さも当然の様に無感情な声音でイーリスは答え、腰を落としながら剣を構える。まだ両者は十メートルほど離れていた。しかし彼女は、既に首を落とせると見透かしている。
「全て……、何もかも掌の上だっということか……」
逃れようのない死を悟り、サリタの震えは止まった。諦めたのだ、生存する未来を。瞬間的な魔力の波動――絶空を浴びて体が軋む。絶空を浴びた者は、魔力で体感時間を引き延ばせなくなる。
「く…………っ!」
サリタはイーリスの動きを目で追えない。イーリスは銃弾並みの速度で接近し、彼女の首を容易く斬り落とす。聖騎士同士の戦いとは思えないほど、呆気ない幕切れであった。
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