第12話 第13話
山奥の地下に作られた、賊の古い拠点。そこは遮魔という特殊な金属で壁が作られていた。
遮魔は外と内側の魔力を遮断する。外の魔力を感知できなくなる欠点はあるが、内側の魔力を感知されない利点がある。
「オロバス。イーリスが動いたそうだ。恐らくこちらに向かっている。どうするよ?」
緑髪の美少年――マモンが好戦的な笑みを浮かべ、テーブルの焼き菓子を手に取った。
戦闘狂な彼は、どこか上機嫌だ。戦い前の歓喜と高揚を隠しきれていない。テーブルの前で席に着いているが、せわしなく足はばたつかせている。
「えぇ……。カーヴェルって本当に動きが読めないよね。せっかく裏で騎士団を従わせているのに、独断で動くなんて……。ていうか何しに向かってきているのやら……。本当に訳がわからない」
声には疲れが交じっている。茶髪の男の子――オロバスは手元の資料を投げ捨て、ソファーに腰を下ろす。
薄暗くて狭い不気味な雰囲気の一室。マモンとオロバスは議論していた、普通の人同士が会話しているように。
魔族の外見は人と変わらない。ありふれた軽装も相まって、外見だけで彼らを魔族と見抜ける者はいないだろう。
それ故に凶悪な魔族同士の会話でありながら、どこか少し温かい雰囲気だ。
「俺達が協力すれば、イーリスを殺せる」
これは事実だ。マモンは強い。それに加えて他の仲間も協力すれば、イーリス単独は殺せる。しかし辛勝になるし、マモンとオロバスの片方は確実に死ぬだろう。
「先にウォーレンとエルヴィンを始末すべきだ。今、この戦力を減らしたくない。とりあえず逃げようか。カーヴェルを始末するのは『魔族の時代』を再来させた後だ」
オロバスには優先すべき目的があった。そもそも彼はイーリスどころか、カーヴェルを敵に値しないと思っている。
人工的に忌み子を作り、手軽に魔族を復活させる。この目的さえ達成できれば、世界中の騎士団を滅ぼすなんて容易い。カーヴェルどころか全てを敵に回せると、オロバスは確信していた。
◆
グリフォンが雲を切り裂いて飛んでいた。その背には軍服姿のイーリスとレオンが乗っていた。
「俺達なら楽勝だ。さっさと終わらせよう」
レオンは余裕そうな口調で緊張した様子はない。呑気にイーリスの胸を、後ろから手を回して揉んでいる。
「随分と呑気ですね、マモンとオロバスが相手だというのに」
イーリスは言いながら、胸を揉むレオンの手を引き剥がした。レオンとイーリスは体の関係でしかない。だから性行為以外で彼女の態度は冷たい。
今でもレオンと交わり続け、子を孕んだ腹は大きくなっている。それでもイーリスはレオンが嫌いなままだ。彼女にとってレオンは快楽を得る道具でしかない。
「それなら心配ない。異能と魔術を駆使した複雑な戦いは、たしかに経験不足だ。だとしても、この俺が負けるわけない」
自信に満ちた声だ。全く負ける可能性を考えていないことが伝わる。レオンは薄ら笑いを浮かべ、魔族達に何ら脅威を感じていない。
「慢心ですか……。いつか必ず足をすくわれますよ?」
後ろを振り返りながら、イーリスはレオンの肩を掴んで抱き寄せる。「そうかもな……」と彼は少し顔の向きを変えてイーリスにキスした。
待っていたと言わんばかりに、イーリスはレオンの口に舌を捩じ込む。
「少しだけ……、しませんか……? ちょっとだけですから……」
イーリスは力なく、レオンに媚びる。少し弱々しく甘ったるい口調。彼女はレオンの顔を胸に抱き寄せて、精一杯媚びていた。
「さ、流石に今はやめようか……。上空とはいえ、外でしたくない……。戦いの後に沢山しよう……」
イーリスの胸に顔を埋めながら、レオンは性行為を拒む。
「……絶対、ですか? ぜったい、だめですか? ……もしかして、私の体、飽きちゃいました?」
演技だろう。泣きそうな顔でイーリスはレオンに迫る。断りづらい様に声まで泣きそうな演技をしていた。
「お前ほど美しい女に飽きるわけないだろ……。ただ、これから死闘だからさ……。呑気に交わっているのもおかしいだろ……?」
演技と分かっていても、レオンは照れてしまう。本音を言えば今すぐ押し倒して交わりたい。しかし死闘を前に腑抜けたことはできない。
不貞腐れたイーリスは舌打ちする。もう猫被りを止めたらしい。いつもの男を侮蔑する視線をレオンに向けた。よっぽど彼女は性行為をしたかったらしい。目に恨みと殺意が込められている。
「ごめんって……。ほんとごめん……。後で奉仕するから許して……」
お詫びとして目的地に着くまで、レオンがグリフォンの手綱を握ることになった。イーリスは対面座位でレオンにしがみついてキスする。飽きもせず、ずっと舌を絡ませ続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます