第18話


オルタンシアはその日、胸のざわめきに早朝から目を覚ました。ああ。今日――が、その日、かもしれないと思った。


小屋の中をくまなくチェックして回った。少しの不備もないように。それから持っている中で一番豪華な服に着替えた。


純白の絹でできた一続きのドレスで、裾に施された唐草模様の白い刺繍との質感の違いが生地の光沢を強調する。コルセットを一番きつく締め上げ、きっちり顔も作る。金糸で薔薇の刺繍が入ったリボンをベルト代わりに腰に巻く。ドレスの金のボタンと揃いの耳飾りに指輪。姿見の前に立てば、まさしく十八歳のオルタンシアがそこにいた。小説の挿絵で見たことがある、断罪されるシーンのオルタンシアだ。


「見てらっしゃい。負けはしないわよ」


一人で呟いた。この小屋に人間はオルタンシア一人きりだが、何百人も味方がいるような気がしていたし、案外気のせいでもなかった。


人形たちはオルタンシアがいなくなれば入ってきた客に店の存在意義を説明する係がいなくなる。それなりの年月をここで過ごしてきたから、互いに愛着もある。――もちろん、ジャンヌに殴られたら人形たちがお返しに飛びかかって反撃してくれるのかといえば、そうではない。そんな関係ではない。


オルタンシアと人形たちは共生関係だ。少なくとも敵対関係ではない。同類で、同輩なのだ。


「――よしっ」


オルタンシアは九番目の部屋で慌ただしく食事をとり、そのときに備えた。それは昼前にやってきた。がらがらと立派な馬車で、大勢の味方を引き連れて。


「――お姉様!? お姉様いるんでしょ! ねえぇ! なんでそんなことするの!? 罪を償って!!」


と、カン高い、姦しい声がする。何年ぶりだろう、ジャンヌの声だった。


オルタンシアの脳裏にあらゆる記憶が反芻された。無名の男や女や、老人に子供にドラゴンからアンデッド、ネズミとアナグマと狼の……ありとあらゆるお客様たち。オルタンシアは百年後に起こることを知っていたし、経験してきた。二百年後のことも、三百年後のこともそうだった。


そして過去のことはなにも知らなかった。あの日、キリアンに逃がされた日からずっと先の未来まで、この店があらかじめ持っていたあらゆる可能性をオルタンシアは経験済みだった。それは魂に刻まれた呪いだった。永遠にここで暮らせ、という。安全の代わりにすべての可能性を潰された、その人生が幸せだった。


オルタンシアは小屋の外へ出た。季節の見分けがつかないほど晴れ渡った、気持ちのいい風の吹く日だった。森のざわめきが明らかに活性化して、精霊や幽霊や、名前のつかないものどもが人間どもの一幕を楽しんでいるのがわかった。


「まあ、ジャンヌ。に、お初お目にかかります、エドゥアール殿下。お久しゅうございます、アルノー殿下」


男たちは頷いたが、オルタンシアから声をかけたこと、それに返礼があったことにジャンヌは怒髪冠を衝いたらしかった。キイキイ騒ぎ出した異母妹を睥睨し、オルタンシアはエドゥアールに向き直る。


「こんな辺境によくぞいらっしゃいました。けれどこれはルール違反ですわ、殿下」


彼らが乗ってきただろう馬車をオルタンシアは指さす。


「――キリアンの魔力を使いましたわね。ここを特定し、私を炙り出すために」


一歩進み出たのはアルノーである。すでに十代の半ばも過ぎて、少年の域を脱しつつある。


かつて婚約者として引き合わされた少年に会って何も感じないのが逆に感慨深かった。オルタンシアも彼も、ある意味生まれの被害者だったのだろう。


「こうでもしなければ君を探せなかったからね。仕方ない。手間取ったよ」


「正式に使者を遣わしていただければ、逃げも隠れもいたしませんでしたのに」


「どうやら我々モリニエールの者からのみ姿をくらます魔法がかけられていたようだ。心当たりはあるかい?」


オルタンシアは笑い出した。


「ええ、たっぷりと!」


「だと思ったよ!」


からからと笑い合う二人にジャンヌはますます怒り狂ったが、そんな彼女をエドゥアールが後ろから抱きしめ、そっと宥める。大きな身体の年上の少年のぬくもりと優しい腕に、ジャンヌはみるみるうちに機嫌を直した。オルタンシアを勝ち誇った目で見る彼女は美しい顔を侮りに歪ませ、清楚な学生服、ほっそりした手足と大きな胸とふくよかな腰と、素晴らしい美少女ぶりである。


「それで、お客としていらしたわけでないのなら、何のためにここへ?」


「ふざけないでよっ、アンタがあたしの邪魔しまくってんのはわかってんだからねぇ!?」


「まあジャンヌ。いったいどうしたこと」


オルタンシアは紫色の目を丸くする。


「私はもう十年近くもあなたに会っていないじゃない」


「……アンタが魔導士キリアンを誘惑してっ、かわいそうにキリアンはアンタのせいで地下牢に繋がれてるのよっ!」


オルタンシアの胸につきりと痛みが走った。


「そう。やっぱりそうなったのね。逃げられは、しなかったんだわ」


「兄上、オルタンシア嬢と話させてください」


「わかった。頼む――さ、ジャンヌ」


「いやよっ、いや! あの魔女捕まえてよ! キリアンと同じ目に遭わせてよぉーっ!」


と、騒ぎ立てながらエドゥアールに抱えられてジャンヌが馬車の方へ行ってしまうと、そこに集った騎士や馬、それから煌びやかな服装の侍女たちが一斉にジャンヌの機嫌を取ろうと駆け寄る。それは異様な光景だった。


オルタンシアは湖の方へ進んだ。なんとか人が通れる程度には平坦な小道があるのだった。アルノーが後へ続く。まだ十分に集団から離れもしないうちに、オルタンシアは声を上げた。


「あれは異常ね。いったいどうしたこと」


「さあ。私にもわからない。気づいたときにはああなっていたものだから」


「魔法が使える者に見せた方がいいわ。魅了か洗脳か、なんらかの効力が働いていることでしょう」


「――自分で言っておきながら、信じていない口ぶりだね?」


オルタンシアは苦笑してアルノーを振り返る。彼女のうねる黒髪はまとめもせず後ろに流されている。白いドレスと互いに引きたてあって、白黒だけで描かれた絵画のようにしっくりきていた。


「オルタンシア。彼女の秘密を知っているなら教えてくれ。彼女に会って以来、兄がおかしい。あの人は大陸の覇者となるべき人なのに、まるきりただの男に成り下がっている。ああではなかったはずなんだ、私たちの今は」


オルタンシアは組み合わせた手にしっとりと汗が滲むのを感じた。


「光の魔法が使える特別な少女?」


ハ、とアルノーは鼻で笑った。驚くほどに冷たい声音だった。オルタンシアは彼にもまた年月が流れていたことを知る。


「だからなんだってんだ。俺の兄上にふさわしいかどうかはまた別だ。――母は私が王位にふさわしいと思い込んで狂った。王位にはああいう生き物を生み出す魅力がある。だからこそ、その周辺にいる人間は厳選されなければならない」


「よく分かるわ」


オルタンシアは束の間、目をつぶった。キリアンはその力にふさわしい地位と得、そして引き際を誤った。だから今、囚われている。


「私はジャンヌを兄から引き剥がさなければならない。彼女が母のような怪物になる前に。父の惑乱、キリアン殿の拘束や近年の無謀な拡張政策は母の入れ知恵も大きい。このままでは国がだめになる。たとえ父が退位しても、次に即位するのがジャンヌがひっついた兄なら、状況は何も変わるまい」


「あなたは王にならないの?」


「私が?――ではあなたを呼び戻し、王妃に据えなければな、オルタンシア。まだ正式に婚約は解かれたわけではないのだから」


オルタンシアはため息をついた。彼女がアルノーに向き直ると、転げた小石が湖面に波紋を作る。


「ひとつ、約束してくれる?」


「私にできることなら」


「キリアン様を解放してほしいの」


「そうすることで、私は何を得る?」


「ジャンヌの正体を暴いてあげる。それでエドゥアール殿下が正気に返るかはわからない。けれど、一助にはなるはず」


自分がこの世界にいることで生じた不具合が、ずれが、どこがどう影響しあって今に至ったのか……オルタンシアにはわからない。だが彼女の中には数百年の店主としての経験が、そして何よりキリアンの作った場所で踏ん張ったことによる魔力の繋がりがある。この森と、店と、人形たちが作る一続きの輪に、オルタンシアは接続されている。ここはオルタンシアの土地である。


「――わかった。約束しよう」


「ええ。約束ね」


彼らは頷き合った。その身に流れる天使の血が、囁き声の密約を誓約にした。誓約を破れば天罰が下される。重たい誓いだ。フランロナ王国に生まれた者のうち、その重さがわからぬ者はいない。


馬車に立ち戻った二人にエドゥアールは片手を上げた。その腕の中でジャンヌは刺すような目でオルタンシアを睨みつけ、周りの人々も同じ目をするか、ヒソヒソと噂する様子である。


オルタンシアはエドゥアールとジャンヌの二人に向き直った。


「それで、今日のご訪問はどのようなご用件だったのですか、殿下?」


「何あたし飛ばしてエドに話しかけてんだよっ! 淫乱じゃん!」


エドゥアールはぼんやりとした目で空の鳥を追い、ジャンヌの光沢のある髪の毛を撫でた。


「ジャンヌ嬢が言うのだ。国王陛下のご乱心、および最近の国難はすべて、一人の魔女の呪いによるものであると。――そなた、王宮から逃げ出した理由は?」


オルタンシアはちらりとアルノーを見、彼は肩をすくめた。


「兄上はジャンヌ嬢の進言を第一にお考えになるのだ」


「そうよっ、あたしエドの恋人だもん!」


オルタンシアは紅を塗った唇をほころばせる。


「たかが森の中の隠居ごときがフランロナを呪って、いったいどんな効果が出るというのでしょう? まさか殿下は本当にそんなことを信じているのですか?」


エドゥアールがオルタンシアを怒鳴りつけるか何かすると思ったらしい、ジャンヌは期待いっぱいの顔でエドゥアールを見上げたが、彼女の愛しい男が発したのはこうだった。


「まさか。信じてはいないさ。だが、確認はしておきたかったのだ。――王宮から、フランロナの仕組みから逃げ去ることのできた令嬢というのがどんなものか、とな」


――おや?


オルタンシアは内心首を傾げた。なんだか聞いていた話と違う。エドゥアール王太子はジャンヌに首ったけ、なんの判断力も残っていないとばかりに思っていたが。


エドゥアールの目には明らかな理性があった。少なくとも父ノアイユ侯爵とも、国王陛下とも違った目つきだった。


(これなら大丈夫、かもしれないわね)


オルタンシアはスカートを持ち上げて礼をする。王族に進言するのだから、このくらいは必要だ。頭を下げたまま、ありのままを口にした。


「フランロナの大天使の末たる王太子殿下に申し上げます。殿下はこれからノアイユ侯爵家のジャンヌ嬢を娶られ、その後、大陸に轟く勇名を獲得なさいます。また私人としても、多くのお子様に恵まれ末永く幸せにおなりになります。ジャンヌ嬢はロンド帝国とも渡り合うだけの力をフランロナにもたらすことでしょう」


「それは予言か?」


「いいえ。この目で見てまいりました。歴史の真実でございます」


「ほう。未来は無数にあると魔導士どもは言うが、そのうちの一つか?」


「私の知る限りでは、たったひとつの歴史がそれでございますわね。ジャンヌ嬢は――」


オルタンシアは顔を上げた。ジャンヌはどんな表情を作ればいいのか決めかねている。ただ異母姉への本能的な憎しみは強いようで、王太子の腕を爪が食い込むほどに強く握りしめる手が白くなっていた。


「ふんっ、今更あたしを褒めたって――殿下ぁ、コイツあたしのお母さんを侮辱したことあるんですぅ……」


「――光の魔力というのは、それほどに貴重か」


「はい。彼女は物語の主人公ですから」


王太子の腕の中からジャンヌがえっとオルタンシアを振り返ったのと同時に、白刃がきらめいた。


ひゅう、とアルノーが口笛を鳴らした。


「さすが兄上! 信じてましたよ!」


エドゥアールの放った斬撃は、一撃でジャンヌの首と胴体を泣き別れにさせた。血が、あまりに大量の血が飛び散る。オルタンシアは避けなかった。彼女の白いとっておきのドレスと真珠ビーズの刺繍の靴にも、ドス黒い血がどばりと浴びせかけられる。


王太子は倒れたジャンヌの身体に見向きもせず、白い歯を見せてオルタンシアに笑いかける。


「俺の周りではおかしなことばかりが起きた。聡明で慎ましかった母上が突如、冤罪で投獄され、父上は急に愚鈍になり無茶な政策を行った。俺は乳母を殺され、配下となるべく育てられた少年たちを失った。あまりにも急激な変化だった。不条理の極みだった」


「――存じております、殿下」


「そうだな。ジャンヌもそう言った。俺に起きた不幸を一から十まで言い当て、自分だけは傍にいると寄り添ってきた。とても可愛かったよ――おぞましいほどにな」


エドゥアールの諸刃の剣の切っ先が、血のにおいと温度と粘度に吐きそうなオルタンシアの顎を掬い上げる。台無しになったドレス、目前に迫った冷え冷えと美しい王太子の緑の目……キリアンと同じ、深い緑の目! オルタンシアは爪を手のひらに食い込ませ、正気を保った。


「答えよ。ノアイユ侯爵家には予言者が生まれるのか?」


「いいえ、殿下。これは私たち姉妹独自の能力でした」


「そうか。では再びこの奇妙な女たちが生まれてくることはないな?」


「いいえ、殿下。確証はありません。理由も法則も、私にはわかりません」


「ふむ」


エドゥアールは天使の彫刻のように麗しい笑みで剣を引く。危なげなく肩に剣を担ぎ上げたその姿は死神の像に似ていた。


「わかった。次、あのような者が現れたら殺そう」


「よろしいんですか、兄上?」


「ああ、アルノー。お前にも世話をかけたな。ジャンヌのことはもういい。これ以上は面白いことはなさそうだから」


アルノーは肩の力を抜いた。歩き出す異母兄の半歩後ろを歩きだす。二人は馬車へ、帰り道へ向かう。いつだって、最後まで他人の物語の部外者でしかない立場を選んだオルタンシアは、さすがに異母妹の血を浴びた今回ばかりは、優雅に見送りできそうにない。


「兄上が正気で安心しました。遊んでいただけだったんですね」


「王を殺すぞ、アルノー」


「わかりました」


「我が母を助け出し、他国の後ろ盾を得てロンドと対立する。これ以上の国境侵犯は阻まねばならん」


「仰せのままに」


魔法が解けたように、まさしくそうだったのだろうが、騎士や侍女たちがぞろぞろと動き出した。皆、一様に顔を伏せ、我先に馬に跨り馬車に乗り込んでいく。二人の王子もまた、馬に騎乗した。


オルタンシアは力なくその雄姿を見上げる。まったく凛々しく、様になる二人だった。できるなら巻き込まれたくはなかったものの、これはオルタンシアの因果でもあった。ここで解けた糸が、これ以上結ばれないままでありたいものだ。


「俺の生きる道の主役は俺だ。半分平民の女などに好きに操縦されてたまるものかよ。心動かされるたびに舌を噛みたい気分だった」


「あー、よかった。もう、ホント。兄上ホントにどうかしたのかと思ってましたよ――あ、そうだったオルタンシア」


「はい……?」


「約束は果たすよ。兄上に付き合ってくれてどうもありがとう。君もこの森で幸せにね」


オルタンシアは血の海の中ではっと我に返った。


「ええ。こちらこそ、ありがとうございました」


白いドレスがドス黒い深紅に染まり切る。刺繡も生地ももはや使えまいが、これが対価だとするのは安すぎる。


騎士たちが近づき、ジャンヌの遺体を持ち上げた。首の方は、侍従らしい若者がさも嫌そうに自分の上着にくるんで懐に持つ。どうするの? と聞けば、親の家に帰して墓の中に、と当然のように返された。考えてみればその通りなのだった。オルタンシアはあまりに人の倫理観から遠ざかっていた。


あとには血と、そのにおいが混ざった風と、オルタンシアが残された。侍女たちを乗せた馬車と王子たちを先頭にした騎馬たちは、土埃を上げて駆けだした。


オルタンシアはせめてもの矜持としてその後ろ姿に頭を下げる。顔を上げたときには、すでに彼らの姿はどこにもない。音さえ瞬く間に消えて、果たして本当にあったことだろうか? だがオルタンシアの身体と土に残った黒い鉄錆の味の血痕こそが、すべての証拠なのだった。


オルタンシアはその場で身に着けたものを全部外し、湖に向かって走った。全裸のままざぶざぶと水に浸かり、髪も解いて、冷たい清らかな真水で汚れを洗い落とす。


(――キリアン様)


の、気配を探した。まださすがに復活しない繋がりを、絆を、彼と交わした臣従の誓いが再び鎌首をもたげるのを、待つ。そう、オルタンシアはいつだって待っていた。人形たちと暮らしながら、客と心を通わせながら。いつだって忘れたことなどなかった。キリアンのことを。


「ぷはっ」


と息継ぎのためオルタンシアは浮上する。湖の真ん中から見上げる空は青く、さわさわと視界の端に揺れる木々は黒い。もうすぐやってくるのは嵐か雨だろう。森のざわめきが、耳の中に入った水が、方向感覚を狂わせる。


彼女は自分の小屋に向かって泳ぎ出した。もう一度服を着て、それから残りの血と脱いだものを焼いてしまおう。一片の痕跡も残さないように。


再会の予感に胸が甘くときめいた。もうすぐ、もうすぐすべてがあるべき形に戻るだろう。


ジャンヌを欠いた『光の少女と黒の王』は、それでも正しく物語を展開し、続いた。エドゥアールは一人ではなかった。異母兄に常に付き従う従順な弟アルノーを参謀役に、それこそかつての神話を再現するかのように遠征と征服に生涯を捧げた。彼らは森から出てすぐにオルタンシアを忘れたが、彼女本人にとってみればそれは万々歳の結末だった。


ノアイユ侯爵家は没落し、ノアイユ侯爵は行方不明、その愛人はさっさと別のパトロンと再婚した。『一人娘』を失った彼らの嘆きの結果だと、人々は噂した。


解放されたキリアンはオルタンシアと巡り合っただろうか? どんな時代でも魔力持つ者たちは貴重な戦力である。戦乱の時代を二人は乗り越えることができただろうか?


歴史の表舞台には決して浮上しない、すべてはあったかもしれない歴史の要素のひとつとひとつである。


オルタンシアは自ら望んで逃げ出し、その先で居場所を得た。世の中のたくさんの人々と同じように、ささやかな幸福を得た一人の少女である。だから名前は残らないし、もし見つけられたとしても本当に小さなものだろう。


この世界にあったかもしれないひとつの物語が永遠に失われたことを、オルタンシアとキリアンだけが知っている。幸福でも不幸でもない、それはただそこにある一つの事実である。


【完】


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逃亡令嬢の魔法人形店 重田いの @omitani

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