第13話
「ようたぁーっ!ぼたんーっ!」
白いおかっぱは暴風と共にやってきた。
「……理人?どうかしたのですか?」
「あーもう!なんだよ、ぐちゃぐちゃにしやがって」
牡丹は温厚に笑い、葉太は苛立ちから頭を掻く。理人は屈託のない笑みで二人に話しかける。腕をぶんぶんとせわしなく動かしながら。
「雪が積もっておるぞ!」
「そりゃそうだよ、冬なんだから。現代にしてはよく積もってるけどさ」
はい、この話終わり。そう言って葉太は別の場所に移動しようとする。むくれた理人は手を叩いた。薄い板状の物体が落ちてきた。
「お前、それ、俺のスマホじゃねーか!なにするつもりなんだよ」
「聞いてくれないと葉太の『けんさくりれき』を読み上げるぞ」
検索履歴を読み上げる、と言えば葉太は怯むのだと理人はこの生活の中で学習している。
「おやめくださいマジで」
「我はな、我はな、親子で雪遊びがしたいのじゃ」
「は?勝手にやってろ、ほれ行け、去れ」
理人が葉太の袖を引っ張る。
「家族で、と言っておろう!阿呆か、葉太よ!一緒に遊ぶのじゃ!」
たまに理人はただの子供と化す。わがままな、ちょっとだけ不思議な力を使えるだけの百歳(以上)の子供。
「じゃあ、雪うさぎでも作りますか?大根の葉っぱがありますよ」
「大根の葉で雪うさぎは無理あるだろ」
「葉太様が雪うさぎって言った……かわいい……」
余計なことを言った牡丹が葉太から打撃を加えられている。彼女は笑っている。葉太にとっては憎たらしい笑顔だが、それにももう慣れてきている。
「ゆーきーあーそーびー!雪で遊ぶのじゃー!」
「そうですよ!雪遊び、しましょうよ!恋人同士でキャッキャうふふってするやつ!」
理人は風を起こす。冷たい。葉太の髪が崩れた。牡丹は言っていることが少しずれている。外は素敵な曇天で、雪が溶ける様子はない。
「仕方ねえな、一回だけだぞ」
理人が歓喜する。その喜ぶ理人に牡丹がこっそり耳打ちする。「葉太様、意外と優しいところありますね」軽く葉太に殴られた。
「で、なにすんの?寒いんだけど」
葉太はズボンのポケットに手を突っ込んでいる。凍えるような寒さ。それでも理人が元気なのは、人間ではないからか、それとも子供ならではの活力なのか。ふと葉太は幼い頃を思い出す。昔はよく雪の日に裸足で放り出されていた。姉の桜がこっそり中に入れてくれた記憶。よくよく考えてみれば立派な虐待な気がしてきた。
「雪合戦でもしますか?」
「いいけど、お前フルボッコだぞ」
「雪合戦するのじゃー!」
理人が二人を外に連れ出す。銀世界、というのはこういうのを言うのか。牡丹は楽しそうに微笑んだ。
「じゃあ、行くぞー!」
「ちょっと待て」
理人が腕をあげると、無数の気持ち悪いくらいに整った丸い雪玉が浮かび上がった。牡丹が葉太の背中に隠れる。小柄な牡丹はすっかり隠れてしまった。
「え、ちょっと、牡丹!?なにすんだよ」
「えーい!」
理人が腕をさげた瞬間、葉太が真っ白になった。
「うわあ、葉太様大丈夫ですか?」
「お前のせいで大丈夫じゃない」
雪を払いながら葉太は言う。
「寒いんだけど馬鹿」
「馬鹿じゃないのじゃ」
「私が温めてあげましょうか?」
「うるせえ黙れよ」
若干遅い登場のコートを葉太に着せながら牡丹は寄り添う。すぐに弾かれてしまったが。
「理人、お前は観戦な」
おもむろに雪を拾って葉太は理人に命令する。理人は宙から見守ることになった。葉太の口角が上がる。
「顔は五点、他二点な」
「へ?なんですか葉太様……」
不意打ち。牡丹はまともに顔で雪玉を受け止めた。勝ち誇ったような笑みで葉太は言い放った。
「綺麗な顔が台無しだな」
牡丹が案の定赤くなる。ずずいと葉太に牡丹が詰め寄る。
「綺麗って思ってくださってるんですか?」
首を傾げる牡丹に、今度は葉太が赤くなる番だった。
「いや、ちげーし……」
その時、葉太の顔に雪玉が押し付けられた。牡丹がいたずらっ子のように笑う。
「顔は五点、でしたっけ?」
小悪魔めいた顔で笑う牡丹。葉太が少しむっとした。
「お前ずるいだろ!」
「ずるいって言う方がずるいんですー!」
二人がくだらない口論をしていると、葉太のスマートフォンが鳴った。桜からの着信。
「もしもし。なんなの?」
機嫌悪そうに電話に出る。電話口の桜ははしゃいでいた。
「明後日、そっち行くからねー!待っててねー!」
「はぁ!?」
「なんでよ、あんたが連絡入れろって言ったんじゃない!」
「そうだけどさぁ!」
「じゃ、よろしくー!」
電話はぷつんと切れてしまった。つー、つー、と言う音だけが響く。葉太は大きなため息を吐いた。
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