第12話 御前試合①~赤っ恥をかく準備はOK?~

 というわけでドーブルスと同居するようになったけどあっという間に数日がたった。

 王子様は人の前では相変わらず完璧王子キラッ☆で、乙女ゲーとかアイドルゲーのセンターでもやってそうな爽やかプリンセス1,000%な王子様っぷりを発揮しているが部屋に戻ってくると主従も何もなく異世界転生した男子高校生全開だった。このあたりオンオフがハッキリわかんだね。


「そういえばカッちゃんのアイデアの試作品がぼちぼちできてくるらしいよ」


 ソファーでぐでーっと横になったドーブルスが思い出したように話しかけてきた。“俺のアイデアの武器”というのは2人の友人、アッシュとバルナ用にハイムニクス商会に発注して拵えてもらっているのである。

 俺も最近知ったが、元々ドーブルス個人がハイムニクス商会とやり取りをしていて、本人は無自覚だがコネクションがしっかり出来上がっていた。


 現在軍で標準仕様として配備されつつある弾倉式の杖は、杖に交換式の弾倉を取り付けることで術者の魔力量に関わらずに魔法の威力を安定・向上させるというものでそのアイデアを出したのはドーブルスだったりする。

 ヘイゼルのこともあってか、特に魔力量が少ない人間が活躍できる下地作りに関しては結構精力的に活動していた……俺やバルナのつながりを抜きにしても、ハイムニクスはドーブルスを評価していたんじゃないかな、と思う。


 ……ちなみにその武器のアイデアって前世であった国民的ロボアニメの「バンザム」シリーズだよなと指摘したらてへぺろっ☆と返してきた。イケメンはテヘペロをしても様に成るから許しちゃうよねー。


「出来上がるのが楽しみだなぁ、アッシュとバルナに有効利用してもらおう」


 という訳で俺も2人の友人のイメージにぴったりな武器を提案したら、ドーブルスもノリノリでノッてきて発注をしてくれたのである。いやぁ持つべきものはウマが合って話と趣味が合う友達ってやつだネ!俺もそのうち何か作ってもらおうかな。


「あと明日の放課後侍従さんに呼び出されてたるんだけどカッちゃんも一緒に来てくれってさ」


「俺も一緒に?なんだろうなぁ」


 急に呼び出されることに思い当る事は……割と色々あるなぁ……。まぁ2人一緒ならどうにでもなるでしょ、多分。


 そんなわけで翌日の放課後、宮殿に呼び出された俺達は王の代わりとして電源を受けていた侍従から国王の前で勝負をする御前試合を通達された。

 王位継承権を持つ王子たちは御前試合を通じて争いを解決したり、王位継承の順位の入れ替えをしたりするらしくリバルが提案して王が受理したらしい。成程、冤罪の断罪劇の続きか。……裏でコソコソしかけるのに失敗したから正面から喧嘩売ってきたわけね。リバルの陳情でドーブルスや俺を貶めるありもしない罪状がダラダラと申し上げられていたけどとりあえずここはグッと我慢。


「―――貴様は男の風上にも置けない屑、我が正義を以て断罪を下してやろう」


「犯してもいない罪で裁かれる謂れは在りません。その勝負、受けて立ちます」


 リバルとドーブルスがバチバチと火花を飛ばしている。……俺もあの王子は気に入らないしな、望むところだ。やぁってやるぜっ!

 勝負は2日後、リバル側からの提案で持ち込みの武器・装備は自由とし王子一人と従者は3人の参加、先に敵対する王子を打倒した方が勝者となる試合形式となった。事情を説明してアッシュとリバルに声をかけて参加を頼むと一も二もなく承諾してくれた。うむ、友とはかくありたいものである……俺もこの2人が困ってるときは同じように手助けする気持ちをいつも持っていたいところ。


 そして2日後に御前試合は学園近くの平野で開かれることになった。

 当日の朝になって会場にきてみれば既に平野の近くに設置された観客スペースは満員で、王族たちが眺めるスペースには既に国王含めた他の王子たちもきていた。

 授業が休止になっているので学園の生徒達も来ていて、王都の住人もたくさんいる。こんな観客が見守る中の勝負で負けたら国内に赤っ恥を晒すことになるので絶対に負けられないなぁ……。

 ハイムニクスに依頼していた武器を急かして、突貫で仕上げてもらって当日の朝にギリギリ間にあわせてもらったのでアッシュとリバルに渡すことが出来た。後は俺がものまね、頑張るゾイ!


「逃げずにきたことは褒めてやるぞ愚弟!!」


 何やら巨大なゴーレム兵の上に達腕組みしながら喚き散らしている。3……もっとある、5mくらいあるわ。家くらいデカい。あんなのアリか?!と思ったけど装備の範疇らしい。もう少し小さいゴーレム兵が2体と、30体近い等身大のゴーレム兵がいる。えーっ、あんなのアリかよ?!観客もなんか微妙な反応してるし。


「なんだその数、王子1人と3人ってルールだろ?!」


 思わず叫ぶと、リバルが愉快そうに笑い声をあげていた。


「ハーッハッハッハ!何を言うかと思えばこれらのゴーレムは全て私が一人でコントロールしている!つまり私の装備だ!!

 貴様と違い私は高い魔力があるのでこの数のゴーレム兵も操れるのだよ!!

 ……おっとぉ、お前は魔力5しかないんだったっけなぁ?

 お前のような低魔力にはわからなかったなぁ?

 いやぁ、すまない。だが、大事なのは勝つ事だ!勝負に卑怯も汚いもないのだよ」


 うへぇ……そうか、喧嘩吹っかけてきたのが向こうだからこの準備を整えたうえでしかけてきたんだよな、そりゃそうか……汚ぇなオイ!!!!そして大観衆の前でも人を扱下ろすことを忘れないあたりブレない。


「……すまん、2人とも。ちょっと大変な事に巻き込んじまった」


 相対する33体のゴーレム兵と王子&敵の従者をみながらアッシュとバルナに声をかける。


「気にすんなって。あんな奴、俺達でやっつけてやろう!」


 俺が馬鹿にされたからか、ヤる気満々のアッシュが大剣を担ぎながら答える。アッシュが担いでいる大剣は人の背丈以上の長さはあるが刃がないというものだ。

 その代わりに普通の剣と違って軽いので軽々と振り回せる、アッシュの能力に合わせて開発したものだ。

 この間みたいに素手に魔力付与して殴るよりも刃の所に魔力を集中的に付与して使うだけで済むので魔力の消費は軽くなり威力は増すという匠のアイデアが光る武器なのです。


「あぁ。大丈夫、俺達なら負けない」


 アッシュの言葉に頷いているのはバルナ。額から伸びる一本角に顔の全面を覆う白いマスク、加えて純白一色の甲冑に赤いマントを翻している。う~ん、かっこいいね!!

 そしてその手にはこちらも工廠から届いたばかりの新装備を持っている。

 一見すると弾倉式の長杖だが、弾倉が6つ連なった物が杖の横っ面についている試作品だ。……実戦で実射テストをしてもらうことになるけれどバルナなら大丈夫だろう、多分ね。あとは接近戦用の武器を少し渡しておいた。


「皆、宜しく頼む。……力を合わせて、勝とう!」


 後衛から声をかけるドーブルスにサムズアップを返したところで、審判が勝負開始を告げる。


「それでは――――始めッ!!」


 ワァァァァッ!!という大歓声と共に勝負がはじまった。


「いけいけェ!あのクズどもを踏みつぶして蹂躙してやるのだぁ!!」


 敵のそんな声にゴーレム兵達がこちらに向かって突っ込んでくる。迎撃するべきアッシュが魔力を籠めて飛んで突っ込もうとするが、バルナがそれを制止した。


「……俺から行くよ。実射テストをする」


 バルナが長杖を構えて魔法の矢(マジックアロー)の呪文を唱えると、バギュウン、という鈍く重い音が鳴り前世のサイズ感でいうバスケットボール位をした球体状の魔力弾が超速で飛んでいく。

 ……いやぁ、どう考えても魔法の矢が飛んでいく音じゃないっスね!魔法の矢っていうのはもっとこう、すずめの囀りみたいなピチュンピチュンっていう音と一緒に石つぶてみたいなサイズの魔力が飛んでいくものだけど根本的に何かおかしくて変な笑い声が出た……すごく……マグナムです……。

 そんなとってもヤベーイな魔力弾はゴーレム兵の集団に着弾し、一発で5,6体のゴーレム兵が爆散した。掠っただけのゴーレム兵もぐにゃりと変形してから溶けるように爆ぜた。人が死なない程度にセイフティかかってるのが信じられない威力、これヤベーイですわよ。


「掠っただけで……!?」


 あまりの威力に敵の従者が悲鳴のような驚愕の声をあげて、観客も驚きのあまり歓声が止まった。

 ギチギチとバルナの甲冑が軋む音が鳴る中、構えた長杖に接続されていた魔力弾倉の一つが切り離され排出されて、地面に落ちた。


「……威力も反動も凄い。そうか、一発ごとに魔力弾倉を使い切ってるのか」


 剛性と弾性を併せ持つ最高峰の素材である魔導鋼の上に、衝撃を吸収素材の白金鋼を重ねたバルナの鎧―――それが、反動に音を鳴らして衝撃で震えている。これバルナの鎧だから反動にたえられただけで、生身の人間がこの杖で魔法撃ったら腕の方が千切れてぶっ飛んでいきそう。


「大丈夫かバルナ!?」


 アッシュがドン引き気味に驚いているのでドーブルスと顔を見合わせる。撃った方を心配してしまうほどの威力、……すまん正直やりすぎてしまった、今は反省している。

 けどそれは俺とドーブルスがどうしても思い付きでやりたかった事なのだ。

 一角獣で白い鎧って聞かされたらやっぱりこういう武器がいるかなって……俺やドーブルスが前世嗜んでいたアニメの中には「メカ戦士バンザム」っていうシリーズがあってな……その中でもバンザムモノケロスっていう一角獣をモチーフにした主役ロボがこういう武器を使ってたんじゃよ。


「鎧のお陰でなんとか。……今はまずあいつらをなんとかしないと」


 再び杖を構えたバルナが超威力の射撃を連射するたびに鈍く重い音とともにゴーレム兵が溶け、爆ぜ、バラバラになりながら吹き飛んでいく。なまじ敵の数が多いので敵陣に打ち込めばまとめて数体巻き込めるのもあって選り取り見取り。


「なんなんだよその武器は!!卑怯だぞ!!正々堂々勝負しろぉこのクズゥ!!」


 なんか敵陣の最奥でリバルくんが喚き散らしてるが大小ゴーレム33体も持ち込んでくるお前が言うなよな。


「審判!あの武器はなんなんだ、あんな汚い手が許されていいのかよ!!!!」


「装備の持ち込みは自由、というルールになっています」


 そんなリバルくんは審判に食って掛かるものの、速攻で一蹴されて歯ぎしりしていた。諦めろ、お前が決めたルールだろ。


 その間にもバルナが反動を堪えながら狙いを定めて

 排出された魔力弾倉がさらに3つ地面に落ちたころにはゴーレム兵が半分程になっていたが、バルナは腕が限界なのか杖をおろして休んでいた。もういい、休んでくれ……。



「ごめん、数は減らしたけど撃てるようになるまで少し時間がかかる」


「十分すぎる、ありがとうバルナ」


 無茶させてしまってすまない。でもバルナの頑張りのお陰で開始早々ゴーレムの数を半分くらい吹き飛ばせたので大きい。最初は絶句していた観客も今は慣れて大盛り上がりで、バルナが射撃するたびに大歓声が上がっていたしね。


「鎧自体の剛性は高いけど可動部の少なさで反動を殺し切れてないような……?

 鎧を分割するのと白金鋼の部分だけをスライド稼働させれるようにすると反動が殺せるようになるかも……射撃するときだけ魔力に応じてスライド変形するように鎧に加工を施せばあるいは……」


 ドーブルスが何やら改良方法を考えているけど、鎧も魔改造する気で草生えるんだわ。……さて、試合の流れは完全にこっちのものだし、開始早々醜態さらしてるリバルくんをやっつけちゃおうね。

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