第11話 王子リバル~追い詰められて~


……クソァーッ!!どうしてこうなった!!

 むしゃくしゃしながら頭をかきむしり、椅子を蹴り倒す。どうせここは他に誰も見ていない自室なんだから人に気を使う必要もない。

 家一軒買える程度の椅子があっさり壊れたがどうせ国民から巻き上げた税金で買ったものだしまた買えばいい、俺の懐がいたむわけじゃないしな。そんなことより今はこの訳の分からない状況をなんとかしなくては。


「リバル王子、大丈夫ですか?!」


 部屋の外で控えていた衛兵が扉越しに声をかけてきたので、なんでもないと叫んで追い返す。……いちいちうざいやつだな、あとで王子の特権で適当に罪をねつ造して処分しておこう。


「何がどうなってるんだってんだよ……!!なんで横からハイムニクスがでてくるんだよぉっ!!」


 頭を抱えることになった原因は予想外の方向から自分の立場が危うくなったことだ。……愚弟のドーブルスの婚約者にはもったいない美女のヴァネッサを寝取ってやったところまでは良かった。


 愛妾にしてやると粉をかけていた女達に嘘の証言をさせて、断罪婚約破棄を仕掛けたら横から出てきた変な奴にボコボコにされてケチがつき、折角の断罪劇が効果不十分で不発になってしまったのが始まりだ。

 その時に俺を一方的に殴りまくった不敬野郎が魔力5のゴミで家を廃嫡されたカスだという事がわかったので、即座に支持を出し派閥に加えてやることを条件に生まれた家のフェンバッハ家にゴミ野郎をいたぶれと指示を出したら返り討ちにされる始末。


 しょうがないので俺の派閥の手駒から見繕ってけしかけたら、今度はなぜか国内有数の大商家ハイムニクス一派が俺を敵視してくることになった。

 何が起きたのかわからなかったので調べたら魔力5のゴミを襲いに行かせたのになぜか一緒にいたハイムニクスの妾腹の子が負傷していて、お陰でハイムニクスの当主がブチ切れたのだ。何なんだよあのゴミ一体……関わるたびに俺の首が閉まっていくんだけど!!


 しかも王位継承に纏わる政争からは距離を置いていたガルシン家もなぜかドーブルス派閥につくことになり、急にドーブルス派が勢力を増している。

 ガルシン家は古くから続く騎士の家系で、信義や友情を尊ぶ騎士らしい騎士の家系ということで軍閥の中では一目置かれている存在だ。特に代々伝わる戦闘時に目の色からハイライトが消えて薄く変わり急激に戦闘力を増す特異な遺伝体質もあって家格以上の名門の家系であり、それが参戦したことで今ドーブルス派が注目を浴びている。親父ィ……!も最近はドーブルスの様子を気にしてるって話だ。

 

 半面、俺はハイムニクス商会からの信頼を失うどころか敵視をされたことで資質を疑われたり、派閥内からも俺がやらかした扱いで疑惑の目を向けられることになった。

 リザードの尻尾を斬るように、直接手を下させたマッチョリー家に全ての責任をひっかぶせて俺は指示を出していないというスタンスを取る事でかろうじて俺の保身には成功したが、それでも派閥内での空気は重い。

 兄より優れた弟なんかいるわけがないんだ、愚弟から女を寝取ってざまぁをして、俺が君臨する!その手はずだったのに何故何の罪もない俺がこんな目にあっているんだ。あまりにも不幸すぎる…!!

 だがそんな事も行っていられない、このままでは俺の立場が危うい。現状をなんとかしなければ……!!

 そんな事を考えていると、コンコンとドアをノックする音がした。またかよあの衛兵、うざいし邪魔だし不敬罪でストレス発散にぶった切るか……どうせ兵士の命なんて虫けら以下だしと剣に手をかける。


「リバル様、ヴァネッサです」


 おっと俺の未来の妻ヴァネッサだった!さすがヴァネッサ、俺が悲しんでいるのを慰めてにきてくれたのだろうか。


「あぁ、君か。入ってくれ」


 俺の声にヴァネッサが部屋に入ってきた。いつみてもムッチムチで肉感的な魅惑の身体に整った容姿……んほぉ~ったまんねぇ~っ!


「―――今日はリバル様にご提案があって参りました。……ドーブルスやその一味を潰すための名案がございます」


「何だって、それは本当か?!」


 今まさに俺の頭を悩ませていたことに対する事である。さすがヴァネッサ!!閨だけでなく気も聞く上に有能、んほぉ~っ最高!!やはりドーブルスなんかには勿体無い良い女だな!!こういう良い女は俺のような存在にこそふさわしい!!!寝取ってやって正解だぜ。むしろ俺はよくやったと称賛されるべきだな!


「御前試合を開催してはいかがでしょうか」


 御前試合。王位継承権を持つ王族が国王の前で勝負をすることで、勝者には国王から褒美として願いを一つ聞いてもらう事が出来る。


 ……なるほど、それであのドーブルスを全裸で土下座させて俺の靴を泣きながら舐めさせ、己が矮小で恥知らずで身の程も省みない愚物であると宣言させて尊厳破壊をしてやるのだな?!そういうの好きっ!


「御前試合に勝ち、改めて国王陛下の前でドーブルスの断罪を行います。その状況であれば他のもの手出し口出しは出来ませんから。その上で陛下にドーブルス派の処分を上奏すればよいのです」


「なるほど!!!!それは素晴らしい名案だ!!」


 俺の考えていた事とはズレていたが、そうか、そう言う方法があるのか!なるほど。ヴァネッサはかしこいなぁ、良き妻、良き王妃になる事間違いない。


「だが、御前試合をくむにしても俺に理不尽な暴力を振るった魔力5のゴミはどうする?しかもガルシンの者もついているのだぞ」


「問題ありませんわ。御前試合の形式は人数を合わせなければいけないので、人数が少ない向こうに合わせて王子1人に騎士3人となるでしょうが、条件に“装備”の持ち込みを自由とします」


「……ほう?」


 ヴァネッサの言葉に眉を動かす。なにやら腹案がありそうだ。


「―――実は既にゴーレムを作るための素材が準備できております。

 国外の採石地から取り寄せた素材に既に仕入れておりますので、それを使ってゴーレム兵を用意します……等身大のゴーレム兵が30体は製造可能ですわ」


 なるほど、ゴーレム兵は過去に装備として運用された実績もある!!しかしそんなものを既にそれだけの量用意しているとは……さすが俺のヴァネッサだ。そんな女に愛されている俺はやはり王になるべき男だな!!


「だがゴーレム兵は魔法に弱いという欠点があるのではないか?

 ハイムニクスの開発した魔杖に魔力弾倉を接続して魔法の威力を安定させる技術のおかげで、術者の魔力が低くてもそれなりの威力の魔法が使えるようになりつつある。せっかく数をそろえても弾倉式の杖で魔法を撃たれたら容易く撃破されてしまうぞ」


 「そこもぬかりなく、魔導鋼にさらに耐魔術付与をする手筈も整えていましてよ?

 強化したゴーレム兵を突破しようとするなら、――魔力弾倉を1射で1個使い切るようなバカげた使い方が出来るようなモノでも無い限り、弾倉式の杖であろうと打ち破る事は出来ません」


「おぉぉぉぉ、素晴らしいッ!!」


 それはもう勝利は確実!確実すぎるではないか!!万が一にも敗北等ありえない!!30人のゴーレム兵で俺に赤っ恥をかかせた汚物たちを蹂躙していたぶりつくせる……んほぉ~ったまんねぇ!!!!!!!!


「もちろんそれだけではありません。実は友人のアンジェラ嬢からも魔力5のゴミの事を相談されておりまして、その際に協力と支援を約束してもらっていますの。――――アンジェラからの提供で、巨大ゴーレム兵3体分の魔力核を既に搬入済みですので巨大ゴーレム兵も用意可能です。

 巨大ゴーレム兵は魔法に対する強力な耐性を持ちます。魔法によるダメージには強力な耐性があり、また物理攻撃を完全に無効にします。超出力の魔力を剣などの武器に付与できるような特殊な装備でも用意していない限りまともにダメージを与える事すらできません」


「パーフェクトだアンジェラ!!!!!!!それだけの布陣であれば敗北はありえないな!!」


「光栄の極みですわ」


 だが、それだけのものを準備するとなれば相応の費用もかかるのではないかという疑問が浮かぶが、それを読んでいたのかアンジェラがにこりと笑いながら説明を続ける。


「無論、今回の費用はこちらの派閥の皆様に投資として出していただきました。

 これだけの勝利条件を用意すれば、皆財布のヒモも緩むというもの。

 誰だって勝ち馬に乗りたいと思うものですから、確実に勝てるという条件を提示してあとは乗り遅れないようにと刺激してやればよいのです……戦いとはそれまでに至るまでの準備が勝負を決めるのですわ」


「素晴らしいッ!!!つまり俺は自分の懐を何もいためる事もなく、人の金だけで完璧で最強で無敵の布陣を用意してあのゴミどもを一方的に蹂躙できるのだな!?」


「その通りです、リバル様」


 アンジェラの妖艶な笑みに、勝利を確信した俺は拳を振り上げる。


「フハハハハッ!!みていろドーブルスゥーッ!!大衆の、親父ィの前で泣いて詫びさせて尊厳破壊してやるからなぁ!!」 

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