第7話 長い人生いろいろある

「なあ、陽子ちゃん。常識では信じられんことだと思うが、長い人生だ、たまにはこういうこともある」

 ない、ない、ない!


 お父さんは語り始めた。

「陽子ちゃんは、不安になってるみたいけど。お父さんは死んでも、陽子ちゃんのことを変わらずにずっと大切に思っているし。これからもそれは変わらない。陽子ちゃんは、決して一人ぽっちじゃないから。どんな時も誰かが陽子ちゃんを助けてくれる。今は、ここにいる人たちに助けられたじゃないか。仕事もシャカリキにならんでいい。授業に困ったら、ここであったことを生徒に話しなさい。面白い授業になるよ。陽子ちゃんは、しっかり生きてさえいれば、それでいいんだ。お父さんは、それを言いたくてここに来たんだ。もう言いたいことは言ったから、ここで陽子ちゃんを見送るよ」

 私の大好きなお父さん。私は、お父さんに抱きついた。何十年ぶりだろう。死んでるけどお父さんはあったかかった。

「分かった。ありがとうお父さん。ありがとう正次君、アレックス、オルガンさん」

 みんなうなずいてくれた。


「あのう、そろそろバスを出発させたいのですけど……ちょっと遅れ気味でして……」

 バスの運転手が、乗車口から顔を出して言った。遅れ気味って……時刻表に時間なんて書いてないし。

「ほんじゃ、わちきは街まで行くんで乗っちゃうよ」

 アレックスが乗車口からバスに飛び込んだ。


「それじゃあ、私も。みなさんありがとう。また明日からやって行けそうです。正次君、オルガンさん、お父さん。さようなら」


「さようなら陽子さん。僕も陽子さんに会えて楽しかったです。また来てね」 

 正次君が、脱帽して礼をしてくれる。私も、正次君に会えて楽しかったよ。

「小日向先生、どうぞお元気でお過ごしください。また会える日を楽しみにして、私、オルガンを弾いて先生をお送りします」

 オルガンさんはそう言って、さっきのようにオルガンベンチに座り、歌いながらオルガンを弾き始めた。『God Be with You Till We Meet Again』という曲だ。穏やかだけど強い意志を感じる歌に私はまた、感動の鳥肌が立った。

 天使のようなオルガンさんありがとう。


 最後にお父さん。

「陽子ちゃんが死んだら、また会おう」

 わ、お父さんそれってギャグ? でも素敵なブラックユーモアだよ。

「そうだね。ここで待ち合わせね。約束よ」

 私は小指を出してお父さんと指切りげんまんをした。小さい頃やったように。そして、バスに乗り込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る