第6話 雨が降る。バスは……。

ポツッ、ポツッ、ポツッ。

 屋根から音が。

 それはやがて連続する一つの音になった。


「やあ、雨が降って来たよ! バスが来るよ!」

 アレックスがてのひらに雨を受けながら歓声を上げている。

 私は、雨に濡れないように頭だけ待合小屋から出して、道の先を見た。何か来ている。バスだ! バスが来てる!

 信じられない。こんなことってあるのだろうか! 雨が降って雨宿りしたらバスが来るなんて……。

「ほら、僕の言ったとおりでしょ。バスはちゃんと来ましたよ」

 正次君はとびっきりのドヤ顔だ。


 バスが、停留所の前に止まった。


 見たところ普通のワンマンバス。自動ドアが開くと客が1人下車して来た。 

 その客と目が合う。


「あ!」

 心臓が止まるかと思った。降りて来た客は……私の父だ。

「陽子ちゃん。元気そうだな」

 やはり、お父さん。5年前に病気で亡くなった私のお父さん……。

 何で? どうなっているの? 確かにお葬式をして荼毘だびにふしたお父さん。

「どうした。陽子ちゃん。そうだよ死んだお父さんだよ」

「ホントなの? ホントにホント? 私の大好きだったお父さん……」

 何が起こっているのか分からず、私は振り向いて正次君たちを見た。みんなほほえんでいる。

「陽子さん、お父さんに会えて良かったですね」

 あのドヤ顔で正次君が、さも当然のごとく言った。


 死んだ人に普通に会えたと言うことは、ひょっとして私もすでに死んでいるってこと? ホラー映画でよくあるちだよね。

 ドライブ中、車が故障したんじゃなくて、実は事故を起こして、私はすでに死んでいた……みたいな。で、ここにいる人たちは現世の人じゃないんだ。すでに、死後の世界の住人なんだ……。

「小日向先生、どうされましたか」

 オルガンさんが私の肩を優しくさすってくれる。

「私、死んだの?」

「何でですか? 生きて、ここにいるじゃないですか。お亡くなりになったお父様に会われて心配になったのですね。大丈夫ですよ。小日向先生は生きています」

 なんで冷静に、全く普通にそんなことが言えるのだろう。

「オルガンさん、正次君、アレックスあなたたちは何者!」


「高校2年生です」

 と、オルガンさん

「小学4年生だよ」

 正次君。

「わちきは、ダンス修行をする者でありんす」

 アレックスも……みんな普通に答える。


「わしは、死んでるけどな」

 ギャグのように言うお父さん。お父さんは人を笑わせるのが好きだったよね。

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