カイ㊤

◇◇カイ◇◇


ナツキちゃん・・ごめん。


優しい君の気持ちに、甘えさせてもらった。



子供の頃から心臓悪くて、入退院を繰り返した。両親とサキ姉ちゃんにも迷惑かけた。


中2で大きな手術をして、やっと普通になれると思った。


退院後は運動はできなくても、学校に行けたから友達もできた。

そして世話を焼いてくれる女の子も現れた。


その子にちょっと、ときめいた。


だけど、やっぱり同情だった。その子の弟も病弱だった。それで、俺にも優しかっただけだった。


うん、偶然にも聞いたんだ。「男の子として好きな人は他にいる」。そう友達と話してた。


まあ、そんときのハンデだらけの状態じゃしゃーない。何でも話せるサキ姉ちゃんに言ったら、泣いてくれた。


遅れてた勉強に打ち込んで、高校生になれた。


今度は体力を付けていって色々と・・希望を。ダメだった。また心臓だ。


高2になる前に決断した。手術、リハビリで1年間かけて完全に治した。


そして不安だらけで、1年遅れて高2の春を迎えた。



隣にはギャル風女子がいた。胸でかい。顔もかなり可愛い。


いきなりハードル高いだろと思ったら、向こうから話かけてくれた。


「・・病気で長く入院してたんですよね。大変でしたね」


なんというか普通に優しかった。名前はナツキちゃん。


勉強ができた彼女。1年の3学期から学校に来れなかった俺のために、ノートを貸そうかって言ってくれた。


そうしてたら彼女の親友の、ヨーコちゃんとカリナちゃんが来た。


いきなりヨーコちゃんに言われた。この人、モロにギャル。


「佐川海、佐川さん、佐川君、カイさん、カイ君、ウミの6択だ」


迷わずカイ君を選んだ。カリナちゃんが、クラスのみんなにも言ってくれた。


なぜかヨーコちゃんには、最近までウミって呼ばれてた。



人間って贅沢なんだ。


ナツキちゃんのおかげでクラスに馴染めた。ヨーコちゃん、カリナちゃんにも感謝してる。


感謝だけしよう。なんて思ってたけど、どんどんナツキちゃんを好きになった。


みんなで遊んだときも、普段と同じように気遣ってくれた。移動でも歩調を合わせてくれた。お蔭で自然に過ごせた。


まだ、病気が完治したか分からない。将来を考える時期なのに、希望を持ちきれない自分。


出会えただけで感謝、なんて歌で聞いたようなフレーズを繰り返してた。


9月24日。


俺の中の運命の日が来た。


忘れ物を取りに教室に帰った。慌てる必要もなかったけど、戻った。


教室に残ってたナツキちゃんが、まだいるの期待してた。


正直に言う。会いたかった。


扉の前に立ったとき、ナツキちゃん達3人の声が聞こえた。


声がでかいヨーコちゃんのお蔭で、はっきり分かった。ナツキちゃんが、俺に告白してくれる。


心臓ばくばく。


え? 信じたよ。ナツキちゃん、肝心なこと忘れてる。


カリナちゃんとヨーコちゃん、真面目に話してた。ナツキちゃん、あの2人の真剣な告白に対して、嘘なんかつかない。


絶対に俺のも嘘コクなんかじゃない。だから俺、驚いた。


だけど、俺、まだ自信がない。俺と付き合ってもナツキちゃん、つまらなくて幻滅すると思った。


彼女は威圧的な男子が苦手だって言うけど、秘かに人気がある。


彼女に気がある男の中で、俺だけが桁違いに低スペックだ。


俺、中学まで運動会、修学旅行さえ参加してない虚弱児。


断りたくないけど、断らないと、いずれはフラれる。



顔が熱くてぼーっとしてると、教室のドアが開いて、ナツキちゃんと目が合った。


少しパニックになって、最後に聞こえた「罰ゲーム?」が口から出てしまった。



そしたら教室に連れ込まれた。


ナツキちゃん、俺が今来たばかりで、『罰ゲーム』『告白』が繋がったマイナスな部分だけ、俺が聞いてたと思ったみたい。


『罰ゲームで嘘告白』。なるほど、聞き方によれば、そうなるのか。


単純に体のハンデがある。


話も最初から聞こえてた。ババ抜きは、告白の順番を決めてお互いに勢いを付けるため。解ってる。


こんな俺に、好意を寄せてくれる女の子がいることが嬉しい。


自信が持てたら、俺から交際を申し込みたい。


そんなこと言おうとしたら、彼女が大事な友達のために弁護を始めた。


自分のことなんて、一言も言わない。すごく必死だった。涙も浮かべてた。


それって、本当に俺が話を一部だけしか聞いてないなら、ナツキちゃん1人が悪者じゃん。



やめて欲しかった・・・


気が弱いくせ、友達のため泣きながら頑張れるナツキちゃん。


俺、ナツキちゃんのこと、もっと深く好きになっちゃった。


どうすればいいの、俺。


未練、未練、そして未練。


告白を断って、顔を合わせずらいのは嫌だ。OKして、いつフラれるかとビクビクするのも嫌。


俺はずるい。


3か月間だけ付き合おうって言ってしまった。


俺、中学の時はクラスメイトに片想いした。けど、その子の中で俺は、スタートラインにも立ってなかった。


体が辛かった上に心まで苦しくなった。あの記憶が蘇ってきて怖かった。


ナツキちゃんに、3か月だけ、甘えさせてもらおう。どこか一緒に行って、思い出作りたい。


俺のこと、ずるいって気付いて、適当な扱いになっていくと考えてた。



なのに・・


そっからが、誤算だった。


なんで、もっと優しくなるんだよ。


彼女は、昔助けてくれた親友に合わせて派手めの格好だど、本当は優等生タイプ。


期間限定、仮彼氏の俺のこと、すごく考えてくれた。


糖質、油分の食事制限、歩く距離とか、頭の中に入れてくれてた。


彼女、メンタル強い方じゃない。


だけど俺のため、ラーメン屋の強面オヤジにリクエストしたり、いろんなことやってくれた。


植物園に誘ってくれた時は、舞い上がって、電話して返事してしまった。気がつけば1時間も話してた。


LIMEなら1行で済むのに、話に付き合ってくれたナツキちゃんの声、もっと聞いてたかった。


植物園に行った当日は、俺のためにお弁当まで作って来てくれた。


卵焼きなんて、今まで食べた中で一番うまかった。


あ・・塩分制限を考えて食事作ってくれてた、母さん、サキ姉ちゃん、ごめん。


けど、最高だった。


帰りの電車で、ナツキちゃんが買ってくれてたお揃いのキーホルダーをくれた。


すごく嬉しかった。だけど、そういう気遣いができない自分にも気付いた。


経験値足りてねえ。病気のせいにしたくないけど、情けない。


学校行くと、ナツキちゃんがキーホルダーを付けてた。


俺も付けたいけど、ナツキちゃんの彼氏役も、残り2ヶ月。


公園に行ったときも、他のカップルはボールとか使って活発に動いていたのに、ナツキちゃんは俺と静かに歩いてくれた。


なんか惨めになって、ナツキちゃんに申し訳なかった。


やっぱり、期間を区切ったのは正解だと思えた。


ナツキちゃんみたいな人、普通の男子に慣れてくれば、いい奴が見つかる。


キーホルダーは、大事にしまってる。



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