第3話 弁当(佐々木瑞希)の場合
「放課後,私とお弁当食べましょう.」
佐々木瑞希は,放課後になって帰る準備を完璧に決めて,帰る一歩手前の田中にそう声をかけた.もう一人の方は,別の場所で何人の生徒と談笑していた.
「……なんで明日の昼休みまで待てなかったですか?」
田中は率直に思ったことを述べた.
「……何故?理由が必要かしら.」
佐々木瑞希は,無駄にクールで賢そうな顔だった.
「賢そうな感じで,アホなことを言わないでください,理由は必要です.」
田中は無表情で言い返した.表情だけ見ると真面目な話をしているようにしか見えなかった.
「そう,それなら,そうね.譲ってあげたからよ.」
数秒,田中は考えて理解した.
「ああ,なるほど……二人とも打ち合わせなく弁当を作ってたんですね.仲良しですね.」
「仲良しではないわ.あっちがパクリなのよ.それにしても,察しが良いわね.」
「全然嬉しくないですし,弁当腐ってませんか.」
田中は,作った本人を目の前に最低な発言をした.
「酷い偏見ね.メシマズタイプではないは.」
佐々木瑞希は無表情で返した.
「いや,そう言うことじゃなくて,賞味期限的な方で.絶対に腐ってますよ.」
田中は,弁当の賞味期限など知らなかったが,放課後まで時間が経過した弁当が信頼性がないことだけは認識していた.流石に食べ物の大事さより,身の安全性をとる気持ちが勝った.
「……胃に入れば同じよ.」
佐々木瑞希は目を逸らした.
「その理屈だったら,貴方が弁当を作ってきた意味も無くなるのでは?」
無駄に正論っぽい何かで田中は攻撃した.
「うるさいわね.分かったわ.こうしましょう.」
佐々木瑞希は理不尽を発動した.
「何も分かってないですし,良くわからないけど辞めてください.」
「半分食べてください,今日は勝負は諦めるので」
「……嫌ですけど.怖いですし.一人で食べてください.」
田中に食べる義理などないのだ,頼んでいたらこれは田中にも責任があるが,勝手に作ってこられただけと言ったらそれまでという状態なのである.
「無理よ.私小食なの.」
「知らんがな.」
思わず,似非関西弁が田中の口から飛び出した.
「早くしてくれませんか?私の勉強時間が減ります.」
佐々木瑞希は理不尽だった.
「それなら,さっさと2万円僕に渡して,負けを認めて勝負を終了させれば良いのでは?無駄な時間が減りますよ.」
田中は2万円欲しいだけだった.
「……それは,無理よ.美咲に負けるのは違うわ.」
理屈などを超えたプライドの問題だった.
「……めんどくさ.」
「十分君も面倒な人間よ.」
どっちも,どっちだった.
「なんで弁当を消費したいんですか?」
田中は珍しく自分から話題を切りだした.
「家族に見られてるのよ,二食分作ってる姿が,それがそのまま戻ってきたら恥ずかしいわ.」
プライドの問題だった.
「知らねえ……200円くれるなら,その弁当譲り受けますよ.」
田中は,小銭を稼いで食べ物を無駄にしない方法を思いついた.
「……分かったわ,背に腹は代えられないわ.」
佐々木瑞希は200円でプライドを保つ選択した.
田中は,200円を受け取ると,荷物をすべて机に置いて,受け取った弁当を佐藤美咲のいる集団に入り込んで,会話を遮る,モラル捨てまくり行動をしてから,
「……これ,昼休みのお礼です.」
そう言って,佐藤美咲に渡した.
「えっ,ウチにくれるの?ふふふ,これはウチ優勢ってことね.」
佐藤美咲は,弁当がいきなり出てきたなどの理屈をすべて吹き飛ばして,ただお返しがある=優勢でテンションが上がっていた.
田中は最低だった.
「そうですね.」
完全に返事を適当に返す人形となった田中がそう返答した.
「ふふふ,これはウチの勝ちかな.」
「……じゃあ.」
ご機嫌な佐藤美咲を見て,少し冷静な周りがざわざわしているのを無視して,田中は席に戻ると荷物を持って帰ることにした.
「……最低ね.」
「お金取らなかっただけ良心的では?」
田中には,最低値を更新する算段があったらしい.
「詐欺師.」
「まあ,では,さようなら.」
田中は,否定できないので無視して,そう言った.
教室を立ち去る田中を
「……その」
佐々木瑞希を引き留めて何かを言おうとした.
「嫌です.」
だから,言われる前に田中は拒否した.
「……もう少し次は頭を使うわ.」
佐々木瑞希は数秒黙って,そんな宣言をした.
「まあ,そんなのしないで諦めて2万円渡してください.」
田中は,そう言い残して帰路についた.
犬猿の仲の二人が僕の両隣の席で口喧嘩しているのに巻き込まれたので,僕も本格参戦しようと思う 岡 あこ @dennki
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