第2話 弁当(佐藤美咲)の場合

「ウチと弁当食べるわよ.」

昼休み,田中は屋上まで連れてこられた.屋上が開いているのはご愛敬である.


「えっ.ここでですか?室内がいいと思いますけどまず.」

田中は,花見とバーベキューができないタイプの人間だった.


「うるさい.ウチと弁当食べるわよ.」


「嫌ですけど.」

田中は拒絶した.屋上についてきた理由は,無理矢理引っ張られたからである.非力な彼では陸上部のバリバリの体育会系の力には勝てなかった.


「何でよ.良いじゃん.食べようよ.」


「……一人ずつやってくるんですね.」

田中は,そう言って,自分で持ってきた弁当を開き一人で食べ始めた.


「えっ,ああ.そう,だって勝負は平等じゃないと行けないでしょ.」


「他人をドキドキさせようとしてる勝負って言ってる時点でどうかと思いますよ.」

田中はまあまあな正論を言った.


「……それは,そうだね.ごめんなさい.でも仕方ないわ.」


「仕方なくないですよ.」

田中は再びまあまあな正論を言った.


「私たち幼馴染はそろそろ勝負をつけないと行けないの.」


「ああ,なるほど.ふーん,頑張って」

田中は学び,知らないからスルーする方向に移行した.そんなやり取りをしている間も流れるように弁当を食べていた.


「だから,君をドキドキさせるために弁当を作ってきたわよ.手作りよ.」


「なんで?」

弁当を半分ぐらい食べ終えた田中は無表情で首を傾げた.


「なんでって嬉しいでしょ.」



「……頭使ってください.僕自分の弁当ありますよ.食べてますし.」


佐藤美咲はそれを聞いて首を傾げた.

「……うん,つまりどういう事?ウチに分かるように説明して」


「聞いてください.弁当を持ってきてない.いつも学食で食べてるってやつには有用ですけど.でも,それ無しににいきなり持ってきたら,割とやばい人ですよ.」


「……うちの学校学食ないわよ.」

佐藤美咲は,首を傾げた.田中は頭を抱えた.


「アホなんですか?そこじゃないですよ.僕食べれませんよ,2食分.」

弁当を食べきった,田中はそう言って笑った.


「あっ……」

佐藤美咲はやっと気が付いて固まった.


「はぁ.そもそも弁当もらった,やったードキドキってなりませんし,目的がバレバレなんですよ,失敗です.」

田中は困ったので煽った.


「……」

佐藤美咲が泣きそうになっていた.


「まあ,次からは予告してください,弁当を作ってこないので.」

田中は心を取り戻した.


「……でも,そしたら,サプライズ感ないわよ.ウチ,大事やと思う,サプライズ感」

佐藤美咲は立ち直った.


「それは,ものによって変わるんだよ.サプライズして良いのと悪いのがあるんです.」

田中は弁当をしまい,飲み物を飲んでからそう言った.


「そうなのね.でも,どうやって報告するのよ,あっ,連絡先頂戴」

佐藤美咲は,急遽方針を変更した.弁当での懐柔を諦めて,連絡先を得る方針に変えた.


「200円です.」

田中は,帰りにジュースでも買おうかなって考えていた.屑だった.


「有料?」


「200円です.」

200円を得るまでそれ以外のセリフを言う気が無かった.


数秒考えたのちに,美咲は200円を田中に手渡した.

「……はい.ウチに連絡先教えて.」


田中は,ゆっくりと笑った.

「ふっ,クラスのグループから探せば良いじゃん.」

最低だった.


「えっ,詐欺師,泥棒.最低」

その通りだった.


田中は,流石に申し訳ない気持ちになった.

「まあ,200円貰ったので昼ご飯ぐらいは一緒に食べますよ.ああ,弁当一人で食べきれないと思いますからね.」


「食べてくれるの?じゃあ,何でごねたわけ?」

佐藤美咲は,田中を睨んだ.


「……何となく.」

田中は,無表情で首を傾げた.


「時間返せよ.まあいいや,弁当食べるんだね.」

佐藤美咲は正論を告げた.


「まあ,食べ物に罪はないから.」

田中は,そう言った.田中は,食べるのは好きだった.


「……そういう倫理観はあるんだ.田中.」


佐藤美咲は,そう言って弁当を差し出した.田中はそれを受け取ると,ゆっくりと手を合わせて.

「全ての冷凍食品にアーメン」

そう言った.最低だった.


「偏見,すごいよ.ウチちゃんと作ったの.食べて見てください.」


田中は,ゆっくりと弁当箱を開けて,一度目を見開いた.美味しそうな見た目に驚いた.それから,ゆっくりと唐揚げを口に入れて,もう一度目を見開いた.それから,数秒経過してから,ニッコリと笑って.

「………ごめんなさい.全部食べます.」

そう言った.田中は,勝手だった.


「美味しかったでしょ.ウチ,料理得意なのよ.ドキドキしたでしょ.」

佐藤美咲はドヤ顔だった.勝利を確信していた.


「いや,それはしてない.でも,シェフは呼びたい.」

田中は無表情で隣にいるシェフを読んだ.

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