第4話 煌びやかな夢の世界〜山下がナギノと出会う〜

目を開けると、朝日でキラキラと輝く天蓋と、ベールのようなカーテンに包まれ横たわっている。差し込む光は暖かく、まるで木漏れ日のようだ。


「ハヤトさま!お目覚めになられましたか?」


歳は十四、五だろうか。侍女のような少女がこちらをのぞいている。まるで私は中世ヨーロッパの王侯貴族だ。しかし、皆、不思議な服装をしている。そういえば、城田がいない。そうかこれは夢なのか。


「ハヤトさま、書斎でコーヒーをお飲みになられている最中に急に倒れられるので…あの…とっても心配しました!」

「昨日…?何の話ですか?」

「記憶…なくなってしまわれたのですか…?」


夢にしてはリアルである。このようなリアルな夢は初めての経験だった。夢ならとことん楽しんでやろう。できれば、妻と共にコーヒーを飲みたい。


「夢よ!わかってるんだ!次は妻に合わせてくれ!」

「…ハヤトさま…な、何を言ってるのですか…?頭を打ったのですか…」

「はい?いや、夢だとわかっている。だから死んだ妻にもう一度会いたいんだ。」

「奥様?ハヤトさまは、まだご結婚されていないですが…。記憶喪失…。本日は神殿に行きましょう…。」


この侍女のような少女は何を言ってるのか。夢だから仕方ないかと思いながら大人しく神殿に行くことにした。


「ハヤトさま、身支度をするので使用人をお呼びします。お待ちください。」

「ああ、頼む。それとマリア・テレジアが飲みたい。」

「かしこまりました。そちらもお持ちしますね。」


マリア・テレジアを嗜みながら、如何にも貴族という面持ちの服装に着替えさせられた。初めて着たが悪くはない。寧ろ、清々しい気分だ。一生このような経験はできないだろう。せめて夢の中だけでも幸せでありたい。現実で幸せがなかったわけではないが、あまりにもその幸せが短かった。もう一度妻と結婚したい。


「さて参りましょうか。ハヤトさま。」

「ああ。神殿はどんなものなのか。」

「そうですね。厳かで、神力の満ちた宮殿です。ヒメーヒ神さまもさぞ悲しまれるかと。」


夢の世界では、目に見えない神がどのような考えを持つかと推測するのか。何とも不思議なものだ。

邸宅を出て豪華な馬車に乗った。馬は何故か純白で揃えられており、何故か角まで生えている。まるで一角獣のようだ。馬車が退屈だったので侍女のような少女に話かけた。


「あの…ええと…侍女さん。」

「ハヤトさま。私は侍女さんではございません!ナギノです。そのようにお呼びください。」

「すまん。ナギノ。その…記憶が無いんだ。」

「そこまで酷い状態だったとは…ナギノ…申し訳ない気持ちで居た堪れません。」


彼女はナギノというのか。それにしてもこの夢は、どこと無く中世ヨーロッパと日本文化が混じり合ったような不思議な世界観だ。夢から覚めたら執筆でも初めて第二の人生を歩むとするか。


馬車に揺られながら、ナギノとたわいもない話やこの世界の話を交わした。

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