(15)小林悠真による

 小林が香澄にのしかかり、胸や股間を弄りまわしていた。

 三井は教室に飛びこみそうになる自分を必死に制する。まともな教師なら躊躇なく止めに入るだろう。少し前までの三井でもそうしたはずだ。だが今は違う。三井は香澄を強姦した犯罪者だ。

 二人を止めに入り、親に連絡し、職員会議にかける。それは簡単だ。だが話を大きくして、どのような局面で三井の罪状が露呈するか分からない。

 まず二人がどのような経緯で事に及ぼうとしているのか見極めたい。たとえば(そんな可能性は低いだろうが)二人が恋人同士だとしたら? 不純異性交遊を行った者と周知されてしまえば、香澄の立場は失墜するだろう。それは同時に、三井の持っている香澄のレイプ画像が脅迫材料としての効力を失うことも意味する。そして三井への報復に、強姦魔として三井を訴える、というカードを促してしまうことになる。

 二人の関係性を突き止めねば。三井は扉に張りついて、中学生の男女が絡み合う様子を凝視し続ける。

 香澄は床に仰向けとなり、正常位の形で股の間に小林が割り入っている。小林の体が陰になり香澄の表情は見えない。

 先ほどは押しつけるように乱暴な手つきで胸を揉みしだいていたが、今はスカートをめくりあげ、ショーツに見入っているようだ。小林の呼吸は荒く、手が震えているのが三井の位置からでも分かる。

 小林が香澄の股間に手を伸ばし弄りはじめる。

「うぉ! おぉ!」

と小林の感嘆の声が聞こえてきた。香澄の声は聞こえてこない。

 右手で香澄の秘所を弄びながら、左手はセーラー服を捲り上げていく。例によって飾り気のないソフトブラが見える。それを見た小林が何事か言っている。遠くて全ては聞き取れないが、もっとセクシーなものをつけてこい、という内容のようだ。

 余計なことを言うんじゃない、という声が三井の喉元まで上がってくる。子供を一番エロく見せるのは、子供の下着こそだ。香澄が下着の選択基準を変えてしまったらどうするのだ、と。

 小林は香澄のショーツを脱がしにかかった。香澄の足がばたばたと暴れる。抵抗しているのか? 香澄の表情が見えないので判断しきれない。小林は完全に抜き取った下着を興味もなさげに投げ捨てる。さっきからコイツ、と三井は焦れる。三井がどれほどあの下着を欲して生きてきたか。

 小林はそんなものより女体への興味が先走っているようだ。股間に顔をうずめると熱心にそこを観察しはじめた。

「ほ、ほ、本物だァ……。」

 小林の声が聞こえてくる。三井は、自分が香澄を強姦した日のことを思い出す。ネットで拾った動画や画像では比べるべくもない、実物を生で目にした時の感動を。

 性器を間近で見られる羞恥に耐えられないのか、香澄は両手では顔を隠している。未だ香澄の表情は見えてこない。

 小林がベルトを外し、ズボンをずり下げる。いよいよ本格的な性交に及ぶ。その時、ようやく香澄の声が聞こえてきた。

「いやぁッ! もういやぁぁッ!!」

 激しい拒絶の声だった。小林を突きはなそうと両手両足を振り回して必死に暴れる。抑えこむ小林と、立ち上がろうともがく香澄。

「やだっ! はなしてっ、はなしてよぉ!」

「このッ、こいつッ、おと、な、しくッ、しろ!」

 ゴス、と鈍い音がした。香澄の抵抗がぴたりと止む。小林の握り拳が香澄の顔を横殴りにした。

 その隙に小林はペニスを香澄の陰部にあてがい、腰を押し進める。挿入したのだ。香澄の泣き声が悲壮に響く。

「うあ、うああ、いやああああ……」

―――レイプだ。

 これは強姦だ。不純異性交遊などという甘っちょろいものではない。合意のない暴力だ。

 見れば香澄の顔には今の殴打とは別の青痣がいくつも浮かんでいる。もうすでに何度も殴って香澄を服従させていたのだ。なんてことをするんだ。三井は憤慨する。だがそれは香澄を慮っての正義感からではない。キレイなものはのが良いのだ。あんな風に汚く汚してしまっては、かわいそうじゃぁないか。

 小林は息を荒げて単調に腰を前後させている。とにかく自分が射精するためだけの腰遣いだ。香澄を追い詰めようという情緒がない。三井は小林とは相容れないと思った。小林のやり方は、何から何まで三井のそれとは違った。キスもせず動画も撮らなかった最初の強姦魔と同じ、三井とは全く違う嗜好だ。三井ならあんな犯し方は絶対しない。

 だから三井は激しく勃起した。ペニスが痛々しく隆起している。自分なら絶対にしないからこそ、自分なら見れなかった香澄だ。それはより強烈な興奮を呼んでいた。三井はペニスを取り出し、ハンカチを先端に当てがうと激しく扱きはじめる。

 香澄は重い呻き声を上げている。

「うぅうぅぅぅ、うぅぅ……うぅぅ……」

 乱雑な暴力によって引き出された声だ。三井の時より重苦しい絶望を感じる。三井に見せた悲壮感や嫌悪とはまた異なる、三井の趣味に合わないものだ。合わないから、良い。

 香澄はじっと動かない。小林に揺さぶられるままだ。まるで人形のようだが、

「うっ、うあっ、あっ、うっ、うっ」

 と突き上げるたびに声を上げることが、香澄が生き物であることを示している。

「やだぁ、それはやだぁぁ。」

 香澄が再び意味のある言葉を発した。もう何度も犯された香澄には、その気配が分かるのだろう。小林の射精が近いのだ。

「やだ、おねがい……! それはやなの、もういやなのぉ……!」

 小林はフー、フー、と鼻息を荒くするばかりで何も応じない。たっぷりと言葉で嬲った三井とは違う。ただただ射精へと向かう。

「やだ! やだぁ! きいて! やなの! やだぁ!」

 香澄の声を何一つ聞き入れず、やがて小林の欲求は達成される。

「やだあああああ! いやああああああ!」

「うお、ほおお。」

 情けない声とともに射精する。当然のように膣内射精だ。

「いやああ……いやぁあ……うう……う……ひっ、うぅ……」

 香澄は喉を痙攣させて泣きじゃくる。これほど男の情欲を誘う貌があろうか。

 前後して三井もハンカチの中へ射精を済ませていた。染みてこないよう包んでポケットへとしまう。

「なにをしてるんだ、お前たち!」

 何食わぬ顔をして、三井は視聴覚室へと突入した。

 レイプなら問題ない。レイプなら、小林だけが訴えられて終わりだ。香澄の動画を所持し脅している自分を香澄が訴えることはない。自分は安全だ。

「うわっ!! えっ!?? うひッ!!?」

 小林は川に突き落とされて溺れる豚のような声を上げて床にのたうち回っている。逃げようとして身体が言うことを聞いていないといったところか。

「小林! お前いったい何をしてるんだ、これはどういうことだ!」

 綽々しゃくしゃくとした足取りで小林との距離を詰める三井。良いものを見せてもらったが、これ以上余計なことはさせない方がいい。

 三井の手が小林にかかるかといったところで、ぼそりと香澄がつぶやく。

「……三井…先生……。」

「……えッ!? 三井??」

 パニックになっていた小林が、乱入してきた人物をようやく認識する。

「はっ! ふぅ! ふあぁ! あれ! あれ!」

 奇妙な悲鳴を上げなら、教壇の方を指さす小林。三井が振り向くと、教室前面の大スクリーンに何やら動画が再生されていた。小林が香澄を犯している間もずっと流れていたのだろう。ドアの細い隙間からでは三井には見えていなかったその動画。

 そこは学校の教室だ。隠し撮りなのだろう、教室のドアの辺りから固定のカメラが教室の中央を撮っている。そこで一組の男女が絡み合っている。女性はセーラー服を着ている。男はスーツ姿だ。体を捻じらせて抵抗する女性を男性が組み敷いている。夕日の差しこむ教室の中、その男女は性行為に及んでおり、また女性の合意がない強姦であることも明白だ。男が体を起こすと、はっきりとその顔が映し出される。三井だった。三井が香澄を犯したあの日の様子が鮮明にその動画には収められていた。

 これか。あの時こいつが見せようとしていたのは、これか。先ほど小林が声をかけてきた時、片手にスマートフォンを握りしめていたのを思い出す。この動画を見せようとしていたのだ。なぜか。考えるまでもない。自分を脅迫しようとしていたのだろう。それであんなにも震えていたのだ。

 がちゃり、と錠のかかる音がした。見れば、小林が再びドアを閉め密室を作り直していた。

「う、動くなよッ! 分かるな? こ、この動画……おまえ、お前だ! コピーもある、コピーだからな!」」

 文法もなにもないメチャクチャな物言いだが、言わんとすることは分かる。三井が香澄に対して行ったことと同じだ。

「じっとしてろ、動くなよ……いや、こっちだ、こっちに来いッ。」

 小林は呆けている三井の腕を引き椅子に座らせると、用意していたらしいガムテープで三井の腕を後ろ手にして骨組みにしっかりと固定した。視聴覚室特有の床に固定された椅子はびくともせず、シンプルだが確実に三井は拘束された。

 だが、そんなことをしなくとも三井はまるきり動くことができなかった。ただただ混乱だけがあった。いつの間に撮られていたのか。香澄以外にも警戒をするべきだった。いやあの日すでに撮られていたのなら、もう警戒のしようなどなかったのか。いったい自分は何を要求されるのか。

「ふ、ふは、ビビった……いやビビってないけど、まぁ……いいや、計画通りさ、結果的には。」

 三井の混乱を差し置いて、小林は再び香澄に迫っていく。

「いや、いや、もうやだぁ。」

「つ、続きだ。この服が邪魔だな。」

 小林はセーラー服の襟元に手をかける。

「ん! あれ!? この~~~っ! あれ?」

 破こうとしているのだろう、セーラー服を左右に引っ張ったり縦に捻じったりしているが、しわがよるばかりで一向にちぎれる風はない。3年間使用する前提の真っ当な制服の布地がそう簡単に破けるわけがない。フィクションのようにはいかない。

「いた、いたい、やめて、いたいぃ」

 布を押しつけられたり捻じられたりして香澄が痛みに呻く。しまいに小林は癇癪を起して、また香澄を叩いた。

「なんだよちくしょう!」

「きゃぁッ!」

「や、やめろ……。」

 ようやく三井は言葉らしい言葉を口にする。小林は「はぁ?」と息を吐きながら振り返る。

「な、なんだお前。なんて言った? め、命令できる立場かお前?」

 相変わらずどもってはいるが、だいぶ冷静になっている。

「きょ、教師ぶんなよ、お、お前だって、同じことしたんじゃねぇのかよ……。」

 そして今度こそスマートフォンを突きつけて言う。

「しょ、証拠の動画があるんだからな! め、命令するのは俺! 俺だ! おま、お前は言うことを聞くしかないんだよ!」

「……俺に、何をしろって言うんだ……。」

「か、金はもちろんだ。家の豚どもの稼ぎだけじゃ色々足りないし……た、立ち回りじゃ俺の方が絶対上なのに、雑魚どもに負けるのは課金が足りないからなんだ! あと、べんぎ? をはかるんだよ、お前は。俺が学校に来ないでも良くしたり、このオナホをいつでも使えるようにしたり……あ、コイツ以外の、新しいオナホを調達させるのもいいな!」

 小林の要求は、一部三井には意味が分からなかったし、分かるものも理不尽で三井の能力を超えたものばかりだ。教師が生徒の不登校を容認する道理などあるわけがないし、香澄以外の女を連れてくるなどしたら今度こそ身の破滅だ。この少年には現実が見えていない。

「(現実が見えていないのは俺も同じだ……)」

 香澄の誘惑に勝てなかった時点で、とっくに破滅しているのだ。あとはどうやって、破滅したままに生きていくかでしかないのだ。

 小林はどこから取り出したのか、おそらくガムテープ用に持ってきたのだろうハサミで香澄の制服を切り裂いていく。セーラー服の前が開けて薄い乳房が露わになり、スカートにできたスリットで腿がより深くまで見える。香澄は涙声で許しを請う。

「やめて……帰れなくなっちゃうぅ……。」

 なんてことをするんだ。三井は眉をひそめる。そんなことをすれば暴行を受けたことが一目瞭然じゃないか。それも三井がなんとかするとでも思っているのだろうか。

 しかし、それこそいかにも強姦していると実感する光景だった。三井なら躊躇しただろうことだ。三井のペニスが再び勃起しはじめた。

 小林は香澄を四つん這いにさせると、後ろから貫いている。香澄の髪を掴んで、獣のような腰遣いを香澄の尻に叩きつける。香澄の美しい髪はすっかりぼさぼさで雑草のように散らかっている。

「ひぃっ! ひぃっ! ひぃっ!」

 香澄の嗚咽が三井の脳を刺激する。香澄の膣内の感触が思い起こされる。こんなことなら自分も、あんな風に香澄に暴力を振るいたかった。

 ふと小林が三井の方に目をやると、にやりと侮蔑して笑う。三井の勃起に気づいたのだ。小林は香澄の髪を引っ張って三井へと歩み寄る。

「いた、いい、いたいぃぃ!」

 香澄の抗議に耳を貸さず引きずってくると、香澄の顔を三井の股間に押しつける。

 間近で見ると香澄の顔は全く酷い有様だった。いくつもの青痣ができ、右目は赤々と痛ましく腫れあがっていて、おそらくほとんど見えてはいまい。唇の端が切れており血が滲んでいる。三井の股間はますます充血していく。

「こいつのズボンを下ろせ。」

「え、」

「な、なにを、」

「うるせぇ抵抗すんな! ほら早く下ろすんだよ!」

 小林が香澄の髪を引っ張りまわす。痛みに耐えかねた香澄は慌てて三井のベルトに手をかけた。震える手で苦労してバックルを外しファスナーを下げると、そこから三井の欲望が跳ね出てきた。

「先生……。」

 失望と軽蔑の満ち満ちた目で香澄が三井を見上げる。自分を強姦した教師に、それでも何かを期待していたのだろうか。そして三井は再びそれを裏切ったのだろう。

「な、舐めろ。」

 小林が言う。実に楽しそうに弾んだ声だ。

「え? え……?」

「ふぇ、フェラチオだよ。知らねぇわけじゃねぇだろ? お、お前の口マンコでこのクズ教師のチンポべろべろ舐めて射精させるんだよ。」

 香澄の頭を三井の股間に押しつける。柔らかな頬がペニスに触れ、三井は快感に体を強張らせる。

「お、お前がレイプされてんのを見てこんなに勃起させてんだぜコイツ。ほら、抜いてやれよ。」

「そ、そんな、ことは……。」

 弱々しい否定とは裏腹に、思ってもいなかった提案で三井の胸は喜びに湧きたつ。そうだ、それが心残りだったんだ。前回のレイプの時、香澄のヴァギナにばかり夢中で、口を味わいそびれていた。最高だ。今日は最高だ。三井が見れなかった香澄を無数に見ることができる。三井は自分が脅迫されていることを忘れ、この状況を楽しんでいた。

「う、うぅ……はい……。」

 これ以上の暴力を恐れ、香澄の舌が三井のペニスを這う。初めは恐る恐る舌先だけで触れ、少しずつ舌全体を押しつけていく。膣はペニスを扱くための造形ではあるが、意思をもって這いまわる舌はまた一味違う悦楽がある。

「うぅ……えぅ、れる、えれぅ、れろ……」

 ただ無理をして舌を押しつけているだけの香澄の愛撫だが、少女に自らの最も汚らわしい部位を味わわせているのだという事実が三井を昂らせていく。

「そんなんじゃいつまで経ってもイケないだろ。咥えろよ。唇で締めつけながら前後に扱くんだよ。歯は当てるなよ。」

 あぁ、それは良い。正直今にも射精してしまいそうなほど充分に興奮していた三井だが、この上香澄の口内にまで侵入できるとあってはこれ以上の至福はない。三井はにやにやと笑っている自分に気づいていない。

「あむ……んっ……んんっ……んっ。」

 香澄は言われるがままに三井のペニスを扱いていく。香澄の小さな口ではその半分程度までしか呑みこめない。少女を愛する三井にはむしろそれが良い。少女の不慣れな穢れない口淫がたまらなく良い。

 香澄がフェラチオを始めたのを見届けると、小林は香澄の腰を抱えこんで再び挿入した。

「んんッ! んーッ! んんッ……!」

 口腔と膣腔をペニスに満たされた香澄の悲鳴が、防音の教室を満たす。前にも後ろにも逃げ場なく責め立てられる少女を見下ろして、三井はいよいよ我慢が効かなくなっていく。三井はわずかに動く腰を前後に振って能動的に香澄の口内を犯しはじめる。

「んごっ……! おっ……おうぅっ!」

「友坂……友坂! いいぞ、もっと……もっとだ、もっと舌を這わせろ!」

 あっさりと共犯者に成り果てた三井を見て小林は高笑いを上げる。

「ははは! クズ教師だ! 思った通りだ、どいつもこいつもクズだ! 俺は悪くねぇ! 世の中のクズどもが悪い!」

 違うぞ小林、と三井は思う。これは仕方ないことだ。この柔らかな唇と暖かな舌が自分を狂わせるのだ、と。その証拠にお前だって畜生のように腰を振るのをやめないじゃないか。クズと言うならお前もクズだし、お前がクズじゃないなら俺もクズじゃない。誰も、誰一人悪くない。ただ、翻弄されているだけなのだ。

 あえて言うなら、そうだ、この少女が―――友坂香澄が悪いのだ。

「く、くそ、またイキそうだ、この……ッ! 淫乱が! 搾り取りやがって!」

「あぁ、友坂、先生もう射精そうだ。そのままだ、咥えたままだぞ。飲んでくれるよな? お前は優等生だ、ちゃんと先生の言うこと聞くいい子だ。吐くなよ、飲めよ!」

「んーーーーッ!! んんんッ! んんーーーーーーーッ!!」

 好き勝手なことを言いながら凌辱に耽る男たちは、少女の悲鳴を聞きながら絶頂に達する。香澄の口腔と膣腔が精液で満たされていく。

 石のように濃い精液がどろりと尿道を抜けていく感触と、香澄の舌の上にじんわりと自らの熱が広がっていく感触を三井は堪能し、やがてぐったりと脱力した。

 香澄は三井の指示通りにそれを飲みこむことはできず、三井の足元に唾液と精液の水たまりができた。射精後の放心の中、三井はそれをぼんやりと眺めている。

 ちらと目をやれば、今度は小林が香澄の口にペニスを捻じこんでいる。いわくお掃除だとか、俺のは飲めよ、だとか。かくかくと壊れたおもちゃのように腰を振っている。

 あれが俺か。あまりにも醜いその様子に笑いがこみあげてくる。あまりにも馬鹿げていて無様で滑稽だ。あれで女を支配したつもりになっているところなど特に出来が悪い。もういっそこのまま―――

 がちゃり。がらっ。鍵の開く音。ついで引き戸の開く音。はぁっ、と息を呑む音。

「な、なにをしているんだッ!」

 先ほど誰かが発したのと同じセリフ。だがそんな白々しさは全くない。心からの驚愕と絶望と憤怒と哀切がある。

 視聴覚室に踊りこんできた望月はそのまま小林に突進し地面に押し倒した。ぐるりとうつぶせにさせ、ベルトで腕を縛り上げた。小林は、なんで、とか、ちがう、とか言い訳のようなことを喚き散らしている。望月は上着を脱ぐと香澄の肩にかけ、そして三井の方へとやって来た。三井のファスナーが開いていることをちらりと気にしながらも、拘束を解いていく。

「大丈夫ですか、三井先生!」

「望月先生……どうしてここに……。」

「友坂の親御さんから連絡があったんです。娘の帰りが遅いと。担任とも連絡がつかないと。学校に来てみれば下駄箱にまだ友坂の靴があったのと、ここの鍵がなくなっていたので。」

 なるほど、やることは同じだな、と三井はのんきな感心をする。職員室のキーは三井と小林が持ち出していたので、用務員室の3本目を使ったのだろう。

「いったい、どうしてこんなことに……。」

 と再び香澄の方を向き直ると、その向こう側、教室前面のスクリーンに三井と香澄の映像が流れていた。しばし無言で立ち尽くした望月は、ぺし、と禿頭を叩く。

「三井先生……警察を、呼びますよ。……よろしいですね。」

 ゆっくりと確かめるように望月は言う。

「……はい…………。」

 三井は笑っていた。あぁ、こうすれば良かったのか。こうすれば楽になれたのか。抗うから怯えるはめになる。諦めて、終わらせてしまえば良かった。なんて簡単な。馬鹿みたいじゃないか。実際馬鹿だったのだろう。でも全て終わったんだ。三井は香澄を犯してからずっと抱えていた汚泥のような心が嘘のように穏やかな気持ちだった。

 そのようにして肩を落とす三井を、ただ静かに香澄が見つめていた。

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