(14)

 三井は、さりげない態度で校門の見える位置に陣取る。香澄が下校するのを遠目に確認するのが日課になっていた。

 三井のクラスの田村葵と斉藤結衣が校門をくぐっていくのが見える。おや? と思う。ほとんどの場合、あの二人が香澄を挟んで行動していた。香澄は居残るのか。何のために? しばらく待ったが香澄はやってこない。三井は香澄を探しに行くことにした。

 まずは香澄の下駄箱を確認し、靴があることを確かめる。やはりまだ下校してはいない。そこから、すれ違いなど起きないように教室への最短ルートを歩く。教室には誰もいなかった。が、香澄の机を見ると鞄がある。

 やはり不自然だ。三井の胸がざわつきはじめる。これは良くない。嫌な気配だ。自分の与り知らぬところで余計なことが起きている。

 三井は香澄の鞄を掃除用具入れに放りこんだ。香澄が教室に戻ってきても、すぐに帰らせないためだ。

 教室を出て辺りを見回す。斜めに日の入りこむ夕暮れの廊下。香澄はおろか生徒の一人も見当たらない。遠耳に運動部の掛け声が聞こえる。まるであの日の再現のようだ。

 3階建ての校舎の、最上階は1年生のフロアだ。視聴覚室や音楽室もここにある。教室を一つ一つ覗きこみながら校舎の端へ。一階下へ降りる。2階は2年生の教室と理科室などいくつかの特殊教室。教室を一つ一つ覗きこみながら反対側の端へ。もう一階下へ。1階は3年生の教室と、保健室、職員室がある。一つ一つ覗きこみながら端へ。香澄の姿はない。下駄箱を見る。香澄の靴はまだある。体育館へ向かう。コートを半々に分け合って使用しているバスケ部とバレー部がそれぞれボールやネットを片付けて帰り支度を進めている。香澄はいない。校庭を見渡す。陸上部も野球部もサッカー部も皆引き上げている。香澄はいない。いったいどこに?

 もう一度一年生の教室から確認しよう。三井が階段を上ると、廊下の反対側に二人の人影が見えた。遠目にだが、それぞれの特徴的なシルエットからなんとなしに判別がつく。

「(友坂と、小林……?)」

 不穏な組み合わせだ。二人は連れ立って視聴覚室の中へ入って行く。三井は急いで追うが、辿り着た時にもう扉は閉まっていた。

 視聴覚室は防音で、窓もない。中の様子は窺い知れない。引き戸の取っ手に手をかけて、音を立てないようそっと力を入れてみるが、案の定鍵がかかっていて開かない。三井の背筋にうすら寒いものが走る。

 三井は職員室へ向かう。他の教師から不自然に思われないよう、急がずそっとキーボックスを開け、視聴覚室のスペアキーを取る。職員室を出ると、走るような勢いで視聴覚室へ急ぐ。

「はぁっ、はぁっ。」

 一階から三階へ駆け上り、三井は激しく息せく。

 そっと、音がしないように鍵を鍵穴に差しこむ。ゆっくりと、少しずつ鍵を回していく。コトン、と錠が落ちる感触がした。ゆっくりと、数センチだけ扉を開いていくと、片目で中を覗きこんだ。

 ある意味で予想した通りの光景が、そこにあった。

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