第20話 新しい朝がきた

朝、俺が目を覚ましたときには寝室は空で、リビングへと向かうとミルファもニーナはすでに昨日の服へと着替えてソファでくつろいでいるところだった。ミルファは室内でも相変わらずローブのフードをすっぽり被っていた。


「おはよう、2人とも」


「あ、おはようジョウ君」


「おはようございますっス」


ミルファはソファから立つと、何かを俺に手渡してくれる。緑色の布につつまれたこれはいったい……中から出てきたのはなんだか肌ざわりのいい生地……服か?


「宿の方が持ってきてくれたの。町長さんからだって」


「ああ、そっか……ありがたいな」


薄灰の長袖シャツに動きやすそうなズボン、ベルト、肌着下着、ソックス、頑丈そうなブーツ、そしてなんとそれらを包んでいた緑色の布はマントだった。実に至れり尽くせりだ。


ちなみに俺がこれまで着用していた服は、誠に遺憾ながら、この異世界にやってきてからのこのたったの2日でボロボロになってしまっていた。


……まあ、仕方ない。だって元々仕事で着ていた普通のワイシャツにスラックスだ。スライムみたいな魔族に思いっきりブン殴られたり、野山を駆け回ったり、プラチナランクの冒険者の起こした爆発に巻き込まれるなんて状況はさすがにどんな衣料メーカーも想定はしていまい。


その点俺が履いてきたスニーカーは優秀だった。その凄まじい冒険をモノともせずにいまだ健在なのである。さすが世界の誇るナ〇キだ。


とはいえ、せっかくのご厚意なわけだから、俺はそのブーツも含めて身に着けることにする。これぞThe異世界といった風な衣装、意外としっくりときた。マントなんて羽織ったのは初めてだったけど、冷える朝にはいいかもしれない。


「さて、今日はどうしようか……」


「1階の食堂でご飯をいただけるみたいよ」


「そこまでしてくれるのか」


それもまたありがたい。昨日は結局夜には何も食べずに寝たから空腹が限界突破中だった。ミルファの案内に従って1階へと降りる。その道中で俺はミルファには気づかれないようにコッソリとニーナの肩をつついた。


「? 何スか?」


「いやその……昨晩はありがとな」


「ぷぷ、何のコトっスかね。私は爆睡してたもので」


ニーナは少し笑うと、器用にウィンクしてくる。どうやら昨晩の俺とミルファちゃんのあれやこれやは何も見てない聞いていないことにしてくれるらしい。できた子である。


朝食は予想以上に豪華で、焼き立てのパン、バター、緑のサラダ、ゆで卵、こんがりと焼かれたベーコンっぽい干し肉、コンソメスープにその他もろもろ……きっとこのアドニスの町ではこれ以上ないくらいのラインナップだった。


「どうでしょうか、みなさまご満足していただけておりますでしょうか」


そんな朝食の場に、昨日と比べずいぶんと血色の良い顔をした町長、それに商会長がやってきた。


「おかげさまで。物資食糧が不足する中で、いろいろとありがとうございます。替えの服とかも」


「いえいえ。ジョウ様はこの町の救世主ですから当然のことですよ」


町長は機嫌よさそうに笑った。


「昨晩から商会と冒険者組合に協力してもらい、さっそく荷馬車と冒険者を東の山の交易路へと送り出してきました。道中に何も問題がなく山を越えられたなら、明日の早朝には連絡係の冒険者のひとりが早馬を飛ばして無事を伝えにきてくれるでしょう」


「そうですか……本当に、無事に戻ってきてくれたらいいんですけど」


魔人を倒したというのは間違いなく真実だけど、しかしそれとは別の魔物に襲われるなどして荷馬車が無事に済まない可能性は充分にあるからな。あの山中には魔物がそれなりに徘徊していたし。そういった事態になったら……どうしたもんだろう。


「大丈夫だろーよ。魔人が消えたなら付近の魔物の影響力も収まるらしい」


俺の心配を見抜いてか、町長の隣で突っ立っていた商会長のオブトンが口を開いていた。


「そもそも強力な魔族……つまりは魔人の存在によって生じる魔力が魔物を発生させているわけだからな。魔力の供給がなくなれば魔物もその力を維持できなくなる。万が一襲われたって冒険者たちで充分に対応できるさ」


「へぇ……知らなかった」


「ったく、ホントにおかしなヤツだなアンタ。あれだけの力を持ってて、神器のことも知らなきゃ魔族のことも知らないし、それどころか冒険者ですらないんだからな」


オブトンは肩を竦めてため息を吐いた。


「ちゃんと知りたきゃ冒険者組合にでも行ってみろ。エビバのヤツが……組合長のヤツが色々教えてくれんだろ。組合の建物は町の南にある。この宿から歩いて5分とかからねぇトコだ」


親切丁寧に教えてくれたオブトンさんはそう言って『やれやれだぜ』といった風に腕を組んだ。その姿からはどことなくやり切った感すら伝わってくる。オブトンさんって、なんというか……アレだよね。


「よくツンデレって言われません?」


「つんでれ?」


「いや、なんでもないっす」


まあとにかく、今日の予定ができた。


……今後の生活(と今晩のミルファちゃんとのふたり部屋)のためにしっかりと稼がなくちゃならないし、ちょうどいい。


冒険者組合に行ってみよう。まさしく異世界って感じがして結構楽しみだ。




==================


ここまでお読みいただきありがとうございました。


もし、


「おもしろそう」


「先が気になるな」


なんて少しでも思っていただけましたら☆評価をしていただけると励みになります!

また、作品フォローをしていただけると更新通知が届きますので、ぜひそちらもしていただけると嬉しいです。


それでは次話もよろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る