第44話 一年最恐の女

「あーあ、結構濡れちゃった、良かったぁ、ジャージ着てて」


急な豪雨に見舞われ、下着までびしょびしょ。

中に着ている体操着なんて、スケスケだから絶対男子の前でファスナーは下ろせない。


「うっそ」


更衣室は結構混んでいるらしく列が出来ていた。

どうしよう。


「トイレかな」 

「ですよねー」


トイレで着替えようとするのは皆同じ。

私は苦笑いで歩き出す。

こういう時、女バスとか、女バレなら部室で着替えられるから羨ましい。


「英玲奈ちゃんか海ちゃん」


私は少し早歩きで女バスの部室を目指す。

二人のどちらかに頼んで入れてもらおう。

私はスマホを取り出し、電話をかける。


「おう、どした?」

「あのさ、今着替える場所探してるんだけど、女バスの部室で着替えられたりしない?」

「おけ、伝えとく」

「ありがと!」


英玲奈ちゃんは出なかったけど、海ちゃんは出てくれた。

私は小さくガッツポーズして、声を踊らせる。


「よぉ、嬉しそうだな、一之瀬」

「田中くん...」


電話を切ろうとした瞬間、肩を組まれゾッと身体が震える。

肩を組んできたのは田中くん。

表情はニタァと笑っているし、当然濡れてるから服が触れ合うとかなり気持ちが悪い。


「大人しくしとけよ」

「!?」


口に手を当てられ、胸を強く揉まれる。

周りに誰も人はいない。


「田中〜、そんな乱暴に揉んだらあと残るかもよー」

「はっ、知るかよ」


前からやって来たのは佐々木さん。

そっか、あのことが気に食わなかったのか。

田中くんはさらに強く揉む。

ーー痛い、痛いよぉ...

私は涙を堪える。


「ごめんね、一之瀬

でも、アンタが余計なことしなけりゃ、田中とアタシは今頃良い思いしてたから。

それに田中はアンタのこと大好きだってよ」

「好きだぜ、一之瀬」

「痛ッ!」

「そっか、気持ちいか」

「一之瀬、ズボン濡れてるからもうちょいあっち行って着替えさせてあげようか?」

「やめ...!」


二人はウインクし、田中くんが更に強く揉む。

そして、私が声を漏らすと佐々木さんはズボンに手をかける。


「うるせぇよ」

「ちょ、おまwやりすぎ」


佐々木は私のお腹に思い切りパンチをいれた。

田中は笑い、咳き込む私を見て笑う。


「あとで覚えてろ」

「なんだ、まだ睨んでんじゃん、脱がします〜」


私は無意識に睨んでいた。

たとえ、このあとレイプされようと私はこいつらを許さない。

佐々木がズボンに手をかける。


「やらせるかよ!」

「佐々木...?」


佐々木が後ろから顔面に回し蹴りを喰らい吹っ飛んだ。

田中は驚き、私を離す。


「水野、おま...あれはやべぇよ」

「田中、何がやばいんだ?勇気を出して、友達を救ったんだ。

表彰されるだろ」


私を離し、目をパチクリさせる田中は琴葉先生に胸ぐらを掴まれる。


「絵里、大丈夫か?」

「うん、おっぱいくらいだったから。

痛かったけど、大丈夫」


ズボンを脱がされてたら流石に泣き叫んでいたかもしれないけど、服の上から揉まれたくらいなんともない。

変な例えだけど、動物園に迷い込んでチンパンジーに揉まれたと思えば良い。

私は微笑み、差し出された海の手を取る。


「あ、あぁ...!」


海に蹴られ、倒れ込んだ佐々木は倒れ込みながら顔を押さえ、口から出る血と折れ、地面に落ちた歯を見つめる。


「佐々木、次アタシのダチに手出してみろ、本気で行くぞ」


佐々木の胸ぐらを掴み、トドメの頭突きをした海。

これで本気じゃないんだ...


「本気だともっと強いの?」

「アタシ、空手とかテコンドーやってたからな。

空手は黒帯だし、テコンドーは...

まぁ、言ってもわかんねぇから超強いってことだけ思っとけ」

「守ってくれてありがと〜

これからもよろしくね〜」

「おう!」


海の右腕に抱きつくと鍛えられてることがすぐにわかるほどに筋肉質だった。

私はスリスリしながら声をいつもより高くする。

海は頭をポンポンと2回叩く。

ーー海が男の子だったらボディガードとして、雇うかもなぁ


「んで、これどうする?」

「琴葉先生に任せる。

それより早く着替えようぜ、あとちょっとで飯食う時間だ」

「うん」


顔を手で覆い、唸りながら悶え苦しむ佐々木。

海は睨み終えると直ぐに私と肩を組み、満面の笑みを向けて来る。

私は満面の笑みを向け返し、頷いた!

ーー海、ホントにありがと!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る