第43話 ちょっとイラっと

「何、思い出してんの?」

「ちょっと昔のことをな」


起き上がった柚葉の目は赤くなっている。

あのあと、どうなったんだっけ。


「相当仲良かったよね、アタシ達」

「だな」

「覚えてる?」

「何を?」

「アタシが泣いた時」

「柚葉は泣き虫すぎたから覚えてない」


柚葉はなんかあるたびに泣いて俺に泣きついていた気がする。

泣き虫じゃなくなったのはリトルに入って少し経った頃からだ。


「い、今は違うから」

「俺の前では泣き虫のままでもいいけどな」

「先輩だから嫌だ」

「そうか」


プイッと顔を背ける柚葉。

俺は一度として、先輩どころか、年上と思ったことがないがな。


「あ、雨」

「やっぱりか」


ポツポツと雨が落ちてきた。

俺たちは立ち上がる。


「うわ、めっちゃすごいやつ!」

「なんかガキの頃思い出したわ」

「アタシも!」


ざーと振り出し、当然周りは我先にと校舎に向かって、走り出した。

当然、俺と柚葉も周りと同じように走り出す。

だが、俺と柚葉はすぐに緩める。

楽しかった。

雨に濡れることが楽しいなんて普段は絶対思わないけれど、今は最高だ。

あぁ、こういうどうでもいい事でも楽しめるのは柚葉だけだな。


「ゆっくり行こ」

「だな」


俺たち笑顔を向け合い、雑談を始める。


「柚葉、風邪ひくよ?」

「そんなやわじゃないっての」

「翔も、風邪ひいたら許さないよ」

「はいはい」

「じゃあ」

「頑張れ」


そして、校舎に入るとそれぞれ早瀬先輩、英玲奈に怒られ、手を振り合い別れる。


「なんか、翔と柚葉先輩が羨ましい。

あんなのもう私にはないし」

「普通ねぇよ、普通はな」


少しだけ羨ましそうな顔で頬を膨らませる英玲奈。

俺たちはまるで相棒のように仲が良いと言われるが今までこんな英玲奈の表情は見たことがない。


「そういうこと言ってんじゃないんだよなぁ」

「どういう意味だよ」


歩くペースを上げ、俺の少し前を歩く英玲奈。

ショートポニーテールが揺れる。


「あんたが鈍感ってこと」


そして、振り向きざまにあっかんべー。


「は?」

「気づかないならいい、私着替えてくるから」

「はよいけ」


明らかに不貞腐れた英玲奈はフンと顔を背け、俺から視線を外す。

俺は手でしっしっと返す。

急になんなんだ、こいつ。


────────────────────


「ばか」


ばーか、ほんとバカ

私はボソッと呟き、更衣室へ走る。

ーーなんでアンタの隣にいるのはいつも柚葉先輩なのさ

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