第34話 急展開

「あと少しで4月も終わりかぁ」

「そうだね、あと11日」


今日の朝は柚葉が先に行ってしまったため、家族だけ。

ちなみに今日は4月19日(金)だ。


「あ、そうそう、翔ちゃん」

「なに?」

「今日は翔ちゃんだけ恵が車で送ってくれるから良かったね」

「あのさ、そういうことは昨日までに言っといてくれない?」

「次からそうするね」


ママはいつもこうだ。

大事な連絡はいつも忘れて直前に言う。


「今日も凄い音だな...」

「親父...」

「ジィジ!」

「カッコいい!」

「イケてる!」

「ご近所には迷惑かもだけどね」


住宅街に突如響き渡った超有名スポーツカーの爆音。

俺と親父とは対照的に夏葉、七瀬、あや姉が目を輝かせる。

ママは苦笑い。


ピンポーン!


「はいはい」

「なんだ、良い若いピッチャーのくせにその気の抜けた出かたは。

そんなんだからお前は彼女の一人も出来ないんだ。

もっとユーモアを持てば、彼女の5人や6人...」

「うるせぇな!彼女なら昨日出来たよ!おかげさまで!」

「おおマジか!誰?絵里ちゃん?それとも英玲奈ちゃん?柚葉ちゃん?あ、伊織ちゃんか!」

「最後誰だよ!」

「伊織ちゃんは俺の元カノの孫でお前の先輩で...」

「知らん!はよ、入ってこい!」

「開けろ」

「鍵持ってんだろ!」


インターホンが鳴ったため、いつものようにモニターへ。

モニターに映るのは俺の父方の祖父にして、野球部監督相良迅吉、御年78歳だ。


「ジィジ〜、今日は私がジィジのランボ乗る〜」 「二人でドライブだ!今日は学校休んでランドでも行くか!」


おい、それは流石にダメだろ。


「行く行く〜」

「あのお義父さん、そういうのは...」


お、いいぞ、ママ。

言ってやれ。

常識で考えろって。


「大丈夫理事長とはマブダチだから登校したことにしてくれる!」


この爺さんに常識を求めた俺がバカだった。

そもそも常識ある人間は学校で仕事していれば、孫と一緒に学校をサボらないし、考えもしない。


「ならオッケーです!」

「やった!」

「お土産よろしくです!」

「あぁ!」


なんだろう、ママのやばさが増したのはこの爺さんと関わったからな気がする。


「真昼、夏葉に甘すぎだぞ」

「ジジィ、なんでお前がここに」

「部活が休みだからお前が来ると思ってな」


ママに注意し、迅吉を睨みつけるは三浦勲。

俺たちの母方の祖父、御年70歳。

バレー部総監督にして、バレー部だけでなくウチの部活動全体の実権を握っていると言われており、かなりの堅物。

ちなみに俺、七瀬、あや姉が所属する高等部の校長でもある。


「おじいちゃん、昨日はなんで来てくれなかったの?」

「くだらねぇ校長会議でな、あやせ、土曜フルで行くぞ」

「うん!」


かなり真面目で迅吉とは言うまでもなくかなり仲が悪いが孫に甘々なのは同じ。

特にあや姉に甘く、今のチームはあや姉を勝たせるために全国から選りすぐった逸材の集まりだ。


「この分だと来るね」

「あぁ」

「おまたー、七昼です〜」

「ななちゃんはババねー」

「はーい」


勲の肩をギュッと抱きしめ、ブンブン七瀬に手を振る母方の祖母、三浦七昼。

この人は普通のおばあちゃん。

まぁ、かなり若々しいが。


「もう一人孫作らない?」

「私は構いませんよ?」

「俺も構わんぞ」

 

おい、菊。

突然出てきてとんでもないこと言い出すな。

それとそこのラブラブ夫婦も頬赤く染めてんじゃねぇ。

年考えろ、年。


「男の子が良いね」

「だねぇ」


七昼と笑顔を向け合う菊こと、俺たちの父方の祖母相良菊。

この人はど天然であり、おばあちゃん、ババと呼ぶのを禁じている。


「私も行く!」

「勿論だ!」


菊は迅吉とかなり仲良しだ。


「なっちゃん楽しもうね」

「うん!」

「行ってきます!」

「嵐のように去っていったな」


ランボの爆音と共に3人はランドに向かった。


「翔、あのジジィみたいになるなよ」

「あぁ、じいちゃん」

「なんだ?」

「あや姉の試合近くで見たい」

「コーチとしてベンチに入れてやろう」

「ありがとう」


孫にはとことん甘い、爺ちゃんたちである。


「ヘイ!翔ちん!君のアオハルは輝いているかい?」

「おはようございます、恵さん。

柚葉のおかげでかなり輝いています」


そして、飯を食い終わり、身支度を整え、玄関を出るとヘルメットをつけ、バイクに跨る恵さんが問う。

俺は苦笑いを向け、後ろに腰を下ろす。


「しっかり掴まっててね!飛ばすから!」

「あの車じゃないんですか?」

「今日はあいつの気分じゃなかった、それだけさ!」


ママと親友なだけあってかなりぶっ飛んでいる恵さん。

俺は腰の辺りをギュッと掴む。


「行ってきます」

「行ってくるぜ!」

「気をつけてね〜」


そして、ママと手を振って別れる。


「気持ちぃね、翔ちん!」

「そうですね」

「飛ばすぜ!」

「もう飛ばしてますけどね」

「ライダーは飛ばしてなんぼさ」

「ちょっと恵さん、法定速度!」

「あ、ごめん、やばい!サツだ!」


走って少し経つとグングン加速させ、車を抜きまくってしまう恵さん。

速度はまぁ、かなりオーバーだ。

それと・・・

ーー警察をサツと呼ぶんじゃねぇ!

ゾクか、アンタは!


「なんで逃げようとするんですか!早く止まって!」


恵さんは前を向き、アクセルを全開にしようとする。


「すいません、本当にすいません」

「君たちねぇ」


無事警察に捕まり、恵さんが免許証などを提出している中、俺は警察官の人に何回も深く頭を下げる。

警察官の人はかなりご立腹だ。


「お母さん!?」

「はーい、お母さんです〜」

「次から気をつけてね」

「はーい、ハンサムな巡査さん♡」

「貴方もお綺麗ですよ」

「やっだ、もう、子持ちですよ、私」


だが、そのご立腹も恵さんがママだと分かった瞬間に何故か無くなった。

やはり、美人は得である。


「いやー、まさか捕まるとはねー」

「すげぇ、疲れました」

「めんご、めんご〜」


学校の駐車場に到着し、バイクから降り、しゃがむと恵さんは俺の隣にしゃがみ、背中をバシバシ叩く。

柊家は大丈夫だろうか、色々と。


「あ、そうそう、柚葉から聞いた?」

「何をですか?」


水族館デートにいつ行くか決めたんだろうか。

それとも...


「留学の話」

「え?」

「あの子、5月のGW開けからアメリカに留学するの8月の中旬まで」


俺は自分でも信じられないほどに叫んだ。

恵さんは耳を塞ぎ、近く木に止まっていた鳥たちが飛び立つほどに大きな声だったらしい。


「落ち着いた?」

「はい」


暫くの間、放心状態になった俺を恵さんは優しい笑顔で見守ってくれた。

俺は小さく頷く。

といってもまだ信じられないというか信じたくないが。


「柚葉が翔くん家に居候することになったのはね、私の差し金なの。

この留学の話は実は2月にはもう貰ってたから真昼に相談したのね。

そしたら強制的にくっつけちゃえば?って言うのよ」

「ママらしい」


とてもママらしい真っ直ぐな考え方だ。

ダメならダメで我慢する期間も短いし、ウチにはあや姉達がいるから引きづる可能性もかなり低い。

考えたな。

まぁ、そこまで考えてないよ、直感とか言うだろうけど、ママは。


「でしょー、だから柚葉に言ったの。

付き合いたいなら遅くてもゴールデンウィークまでに決めなさい、そしたら留学も頑張れるでしょ?って。

そしたら小さく頷いた。

よかったよ、翔くんが受け入れてくれて

柚葉のこと末長くよろしくね」

「はい」

「そろそろ行きますね、恵さん、俺、頑張ります」

「はい、頑張って、翔」


俺は恵さんを真っ直ぐ見つめながら笑顔を向け、立ち上がった。

恵さんは手を振り、微笑んでくれる。


「できるだけ一緒にいて、夢中にさせてやるからな、柚葉」


恵さんに手を振り返した俺は決意新たに澄んだ青空を見つめる。

ーー俺は信じてる、お前ならアメリカでもNo.1になれる。

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