第33話 ニヤニヤ

「恋する乙女は朝からお忙しかったみたいですね〜、おは。

今日も相変わらずおっきいね、ゆーちゃん」

「早瀬、背負い投げするよ?それ以上やると」


音楽を聴きながら歩いていると背後から優しく胸を揉まれる。

危ないからイヤホンは片耳だけと教えられていたのが功を奏した。

直ぐにどこのバカかわかった。

アタシは背後から伸びる腕を掴み、力を入れる。

少し浮いて、ちょうど自分の顔より前に来た相手の耳元でボソッと囁く。


「はい、やめます!やめますからどうかお許しを!」

「ジュース、2本奢れや、ねーちゃん」

「はい!」

「許そう、次はないぞ」

「ありがとうございます!」


手を離すと早瀬はホッと胸を撫で下ろす。


「んで?しょーちんとなんかあった?」

「朝起こしてしてもらって、手握り合ってるとこをお母さんに見られた」


お母さんがいなかったらチューくらいしてたかもと思ってしまう。


「へぇ、これから毎日起こしてもらいたい?」

「うん、もしくは交互に」

「キャー!ラブラブ〜!!」


明日はアタシのほうが早く起きるだろうから起こしてあげたいし、最初に見るのがアタシであって欲しい。


「重いかな?」

「付き合いたてってそんなもんでしょ」


そう、そうだよね!


「これからやりたいことは?」

「水族館、動物園、遊園地、ランド、シーに行きたい、二人きりで」

「可愛いかよ」


水族館ではゆっくりと魚達を見て、動物園ではライオンとツーショット撮ったり、赤ちゃん抱っこしたりして、ランドとシーでショー見てー。

えへへ...


「テニスしてみたら?」

「ダブルスで?」

「そうそう」

「早瀬、アンタ天才!

ねね、アンタの彼氏も誘って、今度やろ」

「おけ」


翔とダブルス組んで協力プレー。

初めての共同作業。

これもいい...


────────────────────


「柚葉、何ニヤニヤしてんの?」

「かれぴとやること妄想してんの、ほらしっしっ」

「あーね、柚葉、ちゃんと避妊はしろよー」

「早瀬、どうしよ!アタシ持ってない!」

「早めに買っときなさい」

「はい、師匠!」


教室に入ってもまだ柚葉はニヤニヤしていた。

アタシ、早瀬波留陽はデリカシーのない男子を手で追い払う。

立場が逆転した。


「えへへ」

「大丈夫か、今日」


柚葉はニヤついたまま、ほっぺを机につける。

もしかしたら恋愛したら成績落ちるタイプかもしれない。

アタシはため息を吐いた。

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