第19話 最後にボソッと

私、相良七瀬は友人達と翔のクラスを見ていた。

流石は優勝候補と言ったところだろうか、隙がない。

私達はいち早く決勝行きを決めたけれど、このレベルのチームとは対戦していない。


「これ、勝てる?」

「難しいんじゃないか?」

「普通に行ったら英玲奈のスピードにぶち抜かれるし、英玲奈を2人がかりで防いでも水野のスリーが来る。

それに相良くんもいるからねぇ」

「はいチート」

「無理ゲー」


友人達は既に諦めムード。

まぁ私も勝てると思っていないから同じようなもんだけど。


「ねぇね、やっぱブラザーやばいね」

「そうだね...って夏葉!?」


背中に柔らかい感触が...と思った瞬間、耳元で囁かれ、ふぅと息を吹きかけられる。

耳は私の弱点だ。

私はカァと頬が赤くなって行くのを感じながら振り返る。


「大正解!皆のアイドル夏葉ちゃんでーす!」


目の近くでピースし、ウインクする夏葉。

こういうところは私と全然似ていない。


「夏葉ちゃんおひさー!」

「ねる先輩相変わらず可愛いですぅ〜」

「お上手なんだから〜、七瀬、こんな可愛い妹いていいね」


ねること、永井ねるはダンス部に所属するクラス内カーストトップに君臨するイケてる子。

ねると私は中学こそ違うものの幼稚園が一緒で小さい頃から仲が良い幼馴染ってやつだ。


「ねぇね〜」

「離れろ」


夏葉は私に対して、甘えん坊。

否。

家族全員にかなり甘やかされて育っているため家族全員に甘えん坊だ。

もう中3なのに。


「ねぇねのいけず〜」

「暑苦しいの嫌いなの」

「美人姉妹の百合、いい!」


無理矢理剥がすと夏葉は諦めずにもっと抱きつこうとしてくる。

周りはニヤニヤしたり、尊いなんて言うが私にしたらウザイだけだ。


「あや姉とギューしよ、なっちゃん」

「うん!」

「尊い!尊死!」

「ゆかり!?」


あや姉は私のものと言わんばかりに軽々と持ち上げるとそのままお姫様抱っこ。

オタク気質の強いゆかりが叫び、鼻血を出して倒れた。


「あ、勝った」

「ナイスゲームブラザー!」

「ナイスゲームしょーくん!」


翔達が圧勝。

私は静かに拍手だけど、あや姉と夏葉はかなり盛り上がって叫ぶ。


「いつまで抱っこしてんの」

「うん?なっちゃんが満足するまで」

「あや姉が抱っこを嫌がるまで」

「はぁ」


お姫様抱っこのまま、試合会場を出た2人。

周りはキャーキャー言っている。

確かに2人とも美人で可愛くてすごい映えるんだけど、妹として、姉として見るとなんか萎える。

私は大きくため息を吐いた。

すると...


「なーなせ!お前もお姫様抱っこしてやるよ」


はぁ!?

こいつマジもんのバカじゃん!?

何、双子の姉をお姫様抱っこって!


「お尻、触らないでよ」

「お前が動くからだろ、じっとしてろ」


翔の手はお尻に触れている。

小さい頃から何回も触られているけど、もうこの年だ。

いい加減成長もしてきてるから恥ずかしい。

それに...


「抱っこ好きなのバレちゃうじゃん、皆に」


そう、私は屈強な男子にお姫様だっこされるのが大好き。

この性癖は完全に翔が目覚めさせてしまったものだ。


「ッ!わーった、下ろす」

「照れたね」

「うっせぇ、ばーろ」


翔の顔は真っ赤だ。

ちなみに私と翔、過去にふざけてキスとかしたことあるくらい仲良し。


「ブラザー、私も抱っこ〜、キャッチして〜」

「お前はマジのバカ!」

「ナイスキャッチ〜」

「ふぅ」


あや姉を踏み台にするように飛び上がった夏葉。

翔は慌てて、キャッチし、心底ほっとしたような表情でアスファルトに腰を下ろす。

そんなこと露知らず夏葉はスリスリし、満面の笑みだ。


「見学って言ったけど、少しだけ出ようかな、午後からのバレー」


ボソッと呟いたあや姉。

私達は言葉を失う。

ーーホントに大丈夫なのあや姉...?

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