第9話 流れに任せた方が良いこともある。

「もう来るかな、アイツ」


アタシ、柊柚葉は自室のベッドに寝転がって、翔の部屋から拝借した今話題の漫画を読んでいた。


「主人公つっよ!」


今流行りの俺tueee系なのだろうか。

主人公が本当に強くて、かっこいい。

こんな魅力的な主人公を描けるなんて、作者の先生はなんて天才なんだろうか。


「どんな人だろ」


スマホを起動し、作者の名前でググる。


「え!?」


思わず叫んでしまった。

作者はアタシと同じ高校生で翔達と同い年。

しかも、同じ出身と来た。

もしかして今まで会ってきた人の中にいたりするんだろうか。


「どした?」

「翔!この先生同い年で現役高校生で野球やってて、東京出身なんだって!」


アタシは飛び上がって、カバーにある名前を指差す。


「知ってるよ、というか、俺の友達だし」

「ま!?誰!?」

「翔天」

「え!?翔と同じチームメイトだったソラなの!?」


ソラこと、真鍋翔天は中学で野球を辞めた翔の友達だ。

アタシも何回か会ったことがある。


「というか、同じ学校じゃん!」

「最後のページ見てみん」

「じ、直筆!」


最後のページには直筆サインが書いてあった。

アタシは思わず抱きしめる。

まだ一巻だけど、ファンになってしまった。

ソラはななちゃんと同じクラスで今は帰宅部に所属している。


「あのさ、その連絡先とか、貰える?」

「普通に学校にいるから聞けば?」

「恥ずかしい」

「なんで」

「好きになったから...」


好きな芸能人に会えるかもしれないと言って、顔を真っ赤にしてた同級生を思い出した。

あの時、あの子はこんな気持ちだったんだ。


「ツンデレもだけど、同級生が好き設定どこ行ったんだよ...」


元々そんな設定はないけどね。

フフッ


「うん?これ恋心じゃないし、というか。

ふーん、あーね」


アタシはニヤつき、顔を近づける。


「なんだよ」

「大好きか?」

「んなんじゃねーよ!」


ニヤつきながら問うと翔は顔を真っ赤にした。

もう!素直じゃないんだから♡

まぁ、そういうとこが可愛くて好きなんだけどさ。


「素直になれよー、ほら言ってみ、ゆーちゃん好きって」

「ゆーちゃん好き」


ゆーちゃんは昔の呼び名。

翔にもそうやって呼ばれてた。

というか、呼び方可愛い!

恥ずかしがっちゃってさぁ、童貞かぁ?


「キッモ!イケメンが台無し!」


ニヤニヤが止まらない。

うーん、翔をいじめるの楽しい〜。


「お前なぁ!」

「押し倒すな!」


だが、ここで形勢逆転。

やっぱり、男の子には力じゃ敵わない。

でも...


「お前くすぐり弱かったよな?」

「や、やめ」

「ほら、もっと叫べや」

「調子乗んな!」

「テメェ...」

「ちっちゃいから痛くないでしょ」

「そういう問題じゃねぇ...」


頭では絶対負けない自信がある。

いくらくすぐられて叫んだとしても男は玉を蹴ってやれば、負けるしかないからだ。

アタシはニヤつき、ちょんちょんする。

はい、またアタシのターン。


「何」

「柚葉」


ようやく顔を上げた翔は手招きしながら空いた方の手で股間を抑える。

アタシは距離を詰めた。


「キャッ」

「き、キスでもする気!?

や、やってみたら?」


距離を詰めた瞬間、唇が触れ合う距離まで翔が顔を近づけ、抱き寄せて来た。

アタシは思わず顔を真っ赤にし、心の準備をする。

ーーち、チューくらいならしてみたい...


「いんや、そんな気はない」


嘘...

翔はニヤつき、アタシをクルッと回転させた。

背中に翔の鍛え上げられた胸板が当たる。


「髪の毛ぐっちゃぐっちゃにしてやる」

「う、腕!おっぱい当たってるてば!」


腕におっぱいが乗ってしまう。

ど、どうしよ!

今ノーブラ!


「知るか!」

「これにこりたらもう蹴るなよ」

「うぅ...お風呂入ったばっかりなのに...」


やっと解放された頃には髪の毛はボッサボッサでまたお手入れしないといけないほどだった。

ーーもっかいとか、30分はかかるぅ


「あら、仲良しね」

「違います!ばーか!どっか行け!」

「はーい」


声の大きさで何かあったのかと思ったのだろう。

入って来たおばさんがクスッと笑う。

アタシはドアを指差し、顔を真っ赤にしながら叫んだ。

翔はやれやれとゆっくりと出て行く。


「またやっちゃった、もう嫌だぁ」


なんで素直になれないんだろう。

アタシはベッドにダイブし、枕に顔を埋めながらうぅと唸る。


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