第6話 スーパー1年生

柚葉と帰る放課後まで残り30分ほど。

俺はブルペンにて、投げ込みを始めようとしていた。

今日は50球ほど投げて終了の予定だ。


「1球目」

「さぁこーい!」


後ろでスピードガンを構える絵里の合図に従い、同級生捕手、阿部輝が声を張り上げる。

俺は頷き、投球モーションに入った。


「先輩、エースは俺だ」

「ウラ!」


心の中で呟き、踏み込み、腕を振り切ると声が漏れた。

かなり良い球が投げれる気がする。

柚葉と帰れることになって、気持ちが踊っているからだろうか。


「ナイスボール」

「やっば」

「大谷かよ」

「187の身長からあんな球投げられたら打てねぇだろ」


輝のミットが最高の音を奏で、周りが絵里の第一声を待つ。


「凄い!155km/h!!こんな球見たことないよ!

翔くん、ホント天才!!」

「っし!!」


俺は雄叫びを上げ、ガッツポーズした。

俺史上最速のストレートだ!


「やば、俺覚醒したかもしんねぇ」


その後も俺は150台を連発し、変化球もキレキレ。

うちの学校は名門と呼ばれているが未だ一年生エースはいない。

俺がなってやる。

史上初の一年生エースが名門誠王を日本一に導く的な感じに!


「相良、認めてやる、この夏は俺とお前が二本柱。

取るぞ、全国」

「あざっす!」


エースにして、ドラ一候補筆頭の最速162km/h左腕藤浪有志先輩がグータッチを求めてくる。

俺は応え、満面の笑みを向けた。

この先輩がいれば全国制覇どころか世界制覇も夢じゃない。

ーー柚葉、絵里、甲子園でパーフェクト達成して、見せてやっからな、日本一の景色!


────────────────────


「カイ!」

「見てんぜ、シー」


先輩達との紅白戦。

私、椎葉英玲奈は先輩の隙をつき、カイこと水野海に向かって叫ぶ。

豆知識として、バスケはコートネームで呼び合う。

私はシー、水野はカイだ。


「行かせるか、チビ」

「バスケは身長じゃ決まんねぇんだよ」


水野よりデカい、179センチの体格を誇る瑠偉先輩が目一杯身体を使って、止めようとしてくる。

チビったな、デカ女。

私にチビって言って、抜かれなかった奴はいねぇんだよ、ばーか。


「ウインターカップ優勝校のレギュラーもこんなもんか?

まだトップスピードに乗ってねぇぞ、こっちは」

「てめ、バケモンか」


高速フェイントをかけて、左に見せかけて、右からぶち抜いて、ボールを持ち変えると守る、攻める皆が驚き、ゴールに向かって飛ぶ私を見つめる。

入部して初めて見せるレベルだ。

瑠偉先輩は思わず褒め言葉を放つ。


「瑠偉先輩、チビって言ったら先輩だろうと容赦しませんから」

「あぁ」

「よろしくです」

「仲良くしよう」


私は満面の笑みで言ったつもりだがどうやら怖がらせてしまったようだ。

ハイタッチを求めると本当に軽く応えてくれた。


「怖いわ、顔」

「可愛いの間違いでしょ?」

「そ、そうだな」


水野まで怖がっちゃってさぁ。

私の笑顔はエンジェルスマイルって言われてたんだぞ?

エンジェルが怖いわけないじゃん?


「英玲奈、お前がウチの中心だ」

「ありがと、琴葉ちゃん」

「誰が琴葉ちゃんだ、ここでは琴葉先生と呼べ」

「あんま年変わんないし、昔からの付き合いだから無理」

「はぁ」


ため息を吐く琴葉ちゃん。

琴葉ちゃんは親戚のお姉ちゃん。

昔から琴葉ちゃんって言ってたから今更先生とか、監督とか呼べないよね。


「英玲奈、怪我だけはするなよ」

「わかってる、だから日頃からオーバーワークはしない。

しなきゃいけないときはあるけどね」


練習が終わり、片付けをしていると琴葉ちゃんが隣に来て、言う。

琴葉ちゃんは高校時代の大怪我で大学でバスケができなかったから人一倍敏感なんだろう。

だからこそ、私はここを選んだ。

将来、バスケで家族を楽させるために。


「おばさんに毎日ケアしてもらえよ」

「しつこいくらいしてもらってる」


ウチのママはトレーナー。

何故、トレーナーなのかと言えば、バスケ選手だったパパをサポートするために高校卒業後から頑張ったから。

恋のパワーって凄いよね。

まぁ、かく言う私もバスケで日本一になれば、翔と同じアスリートとして、一緒にいられると思ってるから恋のパワーにあやかってるんだけど。


「柚葉先輩、やばいなぁ」


着替えを終え、まだやってるだろうと思いテニス部が練習するコートに向かうと他の選手は既にクールダウンに入っているのにも関わらず、柚葉先輩だけは早瀬先輩を相手にサーブの練習をしていた。


「な、やばいよな」

「水野、アンタも来たんだ」

「なんかさ、柚葉先輩は見たくなんだよ」

「わかる」


全然詳しくないし、ルールもわからないけど、柚葉先輩がヤバいってことはテニス素人の私達でもわかる。

以前口にしていたオリンピックで金メダルもこの人なら夢じゃないと思える。


「まだかかりそうだねぇ、こりゃ。

あー、お腹減った〜」

「ははっ、ななたん、先帰っても良いんだよ?」


陸部の練習も終わったみたいだ。

翔と双子の七瀬がお腹を摩りながらやってきた。


「先帰ってもご飯ないらしいんだよねー、ママが一緒なら食べて来ちゃいなって」

「ナカーマ」


私と七瀬はハイタッチ。

七瀬は細いけど身長があるから私は少しジャンプしないといけない。


「水野は?」

「アタシ?アタシも一緒に食うかな、ファミレスだろ?ステーキ食いてぇ」


一言もファミレスなんて言ってないけど、まぁいいか。


「女子力皆無」


ニヤついて、おちょくるけど。


「うっせ」


水野は鼻で笑い飛ばす。

こういうとこ好きなんだよね、男勝りで裏表なくてさ。


「私はピザとスパゲッティとハンバーグ」

「お金大丈夫?」

「ママがPayマネーくれた」

「いいなぁ」

「アタシも貰ったぞ?」

「私だけ自腹なん!?」


まさかの私だけ自腹。

財布に千円しか入ってないんだが!?


「パパに貰えよ」

「その言い方、パパ活みたいだねー」

「パパ活してきます〜」

「おけ」 


パパ活(パパにラインで交渉)をしたら2000円くれた。

これで軍資金は3000円。

目一杯食べれるね!


「何、ガッツポーズしてんだ、英玲奈」

「今日ファミレスね」

「ゴストにすっか」

「おけ」

「絵里は?」

「私は皆に合わせるよ」


翔と絵里も合流完了。

あとは柚葉先輩と早瀬先輩、あや姉さん、楓、夏葉ちゃんかな。


「ファミレス?行く行くー」

「最後みたいだからデザート奢るよ、待たせてごめんね」

「ありがとうございます!」


柚葉先輩は昔から凄く気前が良い。

さぁ、楽しい夕食へGO!!

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