第5話 幼馴染は仲直りが早い

「翔ちん、昨日ね、柚葉が告られたんだって、誰かな?」

「さ、さぁ」


グサッ!

俺は視線を早瀬先輩から隣の絵里に移す。

早瀬先輩、それ俺なんすよ...


「早瀬、嫌なこと思い出させないで。

折角のラーメンがまずくなる」

「ごめん」


強烈に睨みつけられ、早瀬先輩は涙目になる。

床の方から何かを踏む音が聞こえたが気のせいだろう。

うん、気のせいだ。


「ぶらざー、一口ちょうだい〜、チャーシュー」


後ろから抱きつかれ、背中に柔らかい感触が伝わる。

夏葉だ。

夏葉は口を大きく開け、俺がチャーシューを掴むのを待つ。


「夏葉、ここは高等部の食堂だ。

それにお前弁当あるだろ」


俺もそうだったがウチのママは中学まではお弁当という謎のルールを提唱している。

三人が毎日学食を利用する方が結構な金額になると思うんだがな。


「お弁当、食べちゃったんだもんねぇ、お姉ちゃんのあげよっか?」

「あや姉大好き!ブラザーケチ!嫌い!

うーん、美味しい!」


俺の後ろの席で生姜焼き定食を食べていたあや姉が夏葉の口に生姜焼きを放り込む。

夏葉は幸せそうにモグモグし、ほっぺに両手を添える。


「そうか、じゃあ今日からバッティング見なくていいな」

「嘘!ブラザー大好き!」

「ったく、調子良いんだから」


夏葉はソフト部で主砲を担っており、既に高等部へほぼ全額免除での進学が決まっている。

何故、そうなったのかといえば、俺がマンツーマンで小4から毎日欠かさずバッティングフォームを見て、細かく指導しているからだ。


「それがなっちゃんの可愛いとこだもんね〜

しょーちゃん、なっちゃんに優しくしないとお姉ちゃん、怒っちゃうよ?」

「夏葉、食べるか?」


涙目になった夏葉を見たあや姉は怖い笑顔を向けてくる。

ママに似て、ふわふわしてるあや姉だがママ同様に怒ると手がつけられないほど怖い。

俺は苦笑いを向け、チャーシューを掴む。


「ありがと」

「しょーちゃんにもあげる〜」

「ありがとう、あや姉」


夏葉があや姉の時と同様に幸せそうに食すとあや姉は今度は俺にくれた。

俺はありがたくいただき微笑む。


「ホント仲良いよね、翔くん達」

「ケンカとかしなそう、ウチとは大違い」


絵里と英玲奈が不思議そうに見てくる。

しないんじゃなくて、出来ないんだ。

あや姉とママが怖すぎて。


「あやせ先輩と翔ちんはまるで恋人同士ですよね〜」

「そうだねー、今でも一緒にお風呂入ってるし」


頼むから急に爆弾を投下しないでくれ、あや姉。

あや姉みたいなカーストトップの姉とお風呂入ってるとかご褒美でしかないんだから他人からしたら。


「マジ!?」

「翔くん!?」

「えっろ!!」

「まだ入ってたの!?」


早瀬先輩、絵里、英玲奈、柚葉の順に声を張り上げる。

4人とも顔は真っ赤だ。

あや姉は不思議そうに首を傾げるがこれが普通の反応である。

なぜなら、あや姉はかなり美人な上にスタイルもかなりグラマラスで中等部からずっと男子女子問わず抱かれたい女ランキングぶっちぎり1位という学園のマドンナなのだから。


「流石に夏葉と七瀬は入ってないけどな」


夏葉と七瀬はかなりの時間をかけてママを説得したが最近、2人合わせて2時間越えになっているため、ママにそんなにかかるなら一緒に入りなさいと言われ続け、俺と親父はどっちが勝つかを賭けている。

ちなみにウチの入浴時間は俺とあや姉40分〜50分、七瀬夏葉1時間〜1時間半、親父20分、ママ40分なので最高で4時間50分もかかっている。

そりゃ、ママも日付跨がないように入れと言うわな。

これに柚葉も加わるとなれば、もっと言うだろう。


「あの、翔って、襲ってきたりしません?」

「するわけないだろ」

「しょーくんは偉いから大丈夫。

もし、そんな子だったら私だって入らないよー。

ママと入る」


まぁそのあれだ。

慣れとは怖いもので最初は興奮したものだが日常となった今では本当にたわいもないおしゃべりをしたりするだけだ。

まぁ一つ言うならバストマッサージをするのは控えてほしい。


「柚葉先輩、入ってみたら?」

「絶対無理!」


顔を真っ赤にする柚葉。

おそらく夏葉はあや姉と一緒にというニュアンスで言ったんだろうが柚葉は三人でと解釈したようだ。

俺としても柚葉とは流石に無理だ。

いろいろ大変なことになって、おばさんに謝る羽目になってしまう。


「想像したなぁ?翔ちん

柚葉のバストは91よ♡」

「へ、へぇ」


柚葉の胸を見ないようにするため、英玲奈のちっぱいを見つめる。


「早瀬、ヤッたってよ」

「先輩、卒業おめでとうございます」


柚葉は口笛を吹きながらボソッと呟く。

またなんか床の方から大きい音がした気がするが気のせいだろう。


「女の子ですけど!?」

「先輩は男友達みたいに扱えるから付き合いやすいんですよ

だから卒業」

「わかる!先輩、卒業おめでとう!」


英玲奈は大きく頷き、握手を求める。

早瀬先輩は非常に女性らしいスタイルをしているんだがそういう想像にするに至らない素晴らしい先輩なのだ。

喋り方は柚葉と似てるのになぜだろうな。


「英玲奈ちゃん!

翔くん!

先輩だって女の子なんだよ!男友達とか、卒業とか失礼だよ!

せめて、えっと...」

「絵里ちゃん!やめたげて!もう早瀬のライフはゼロよ!」


柚葉は迫真の演技で胸に手を当てると瞼から雫を落とす。

流石は元天才子役だな。


「柚葉テメェ!誰のライフがゼロじゃ!ノーダメだわ、こんなん!」

「そういうとこなんだよなぁ」


柚葉の胸ぐらを掴む早瀬先輩。

俺はため息を吐いた。

ーー顔は学年トップ3なんだけどなぁ。


「早瀬は倒れた、こうかはばつぐんだ!」

「あやせ先輩〜」

「男勝りな女の子が好きな子いてよかったね」

「あや姉、それオーバーキル」


慰めるように求められたあや姉は嫌がる素振りなど微塵もなく早瀬先輩の頭をナデナデしたが更に追い詰めてしまう。

怖いよね、天然って。


「あら、ごめんなさい」


あや姉に悪気は一切ない。

あや姉はクスッと笑う。


「もうやだ、おうち帰る!」

「午後も頑張れ〜」

「うるせぇばーか!!!」


走って食堂を出て行く早瀬先輩。

俺は背中に向かって手を振った。

先輩は叫びながらスピードを上げる。


「顔は可愛いよね」

「それな」


柚葉と笑い合うと昨日の件を水に流しても良いと思えるから不思議だ。


「朝はごめん」

「こっちこそ、ごめん

今日、部活終わるまで待ってるから一緒に帰ろうぜ。

夜あぶねぇからさ」


チャイムが鳴るまで残り5分。

廊下を一緒のペースで並んで歩く俺と柚葉はお互い頬を赤く染めながら話す。


「ありがと、あのえっと、夜はさ、一緒にゲームしない?

ほら、プレ5。

買ったって言ってたじゃん」

「あぁ、やろうか」


小さく頷き、満面の笑みを向けてくれる柚葉。

俺は満面の笑みを向け返す。

まるで付き合ってる男女のような会話だが俺と柚葉にとってはこれが普通。

ここから発展したら嬉しいけれど、それはもうないんだ、残念ながら。


────────────────────


「やっぱりしゅきぃ」


柚葉はトイレの扉に寄りかかって、呟いた。

ーーカッコいい...カッコ良すぎるぅ。

あんな約束しなきゃよかったよぉ


────────────────────


「ブラザー、早めに決めないと柚葉さん、どっかの男に取られちゃうぜ?

それでもいいん?」

「なっちゃんどしたん?」

「いや、なんでも」

「ふーん」


中等部の校舎に戻った夏葉は歩きながらボソッと呟いたつもりだったが同級生に聞かれてしまい、誤魔化す。

ーーブラザー、男なら狙った獲物は逃しちゃダメだZE☆

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る