第12話 ワイヤレスイヤホン

彦徳は授業中ではあるが、音楽を聴いていた。


ワイヤレスイヤホンを左耳だけ装着し、軽く頬杖をつけば、

気付かれない。


音量も絶対に漏れない様に、調整してある。


なぜそう言い切れるかと言うと、静かな環境で智に近くで

聞いてもらい、絶対に聞こえない音量を知っているから。


「ばれりーろう」


イヤホンから音楽を遮り、女性の音声が流れた。


彦徳は一瞬バッテリーが切れかけているのか、と思ったが、

いつも聞いているアナウンスの声と明らかに違う事に違和感を覚えた。


いつものアナウンスより、低く、くぐもっている気がする。


「ばれりーろう」


再度イヤホンからアナウンスが流れる。

これではっきりした。いつもとは完全に違う声だ。


「ばれりーろう…」


そして英語を喋っていない、ということも分かった。

これ以上聞きたくないが、丁度隣の席の本橋さんが音読をしている所で、

先生の目線は完全にこちらに向いている。取れない。


「……いばー、、」


反射でイヤホンを耳から振り払うように外した。

幸い、落ちたイヤホンは足に当たり、落下音はしなかった。


びっくりして音読をやめた本橋さんと、先生がこちらを見る中、

沈黙が数秒続き、彦徳は「虫がいて、すみません、」と小さい声で言った。


本橋さんは音読を続け、先生はそれを聞いている。


チャイムが鳴り、授業が終わる。


彦徳は授業が終わっても、しばらくイヤホンを拾えなかった。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜にオムニバス 彦徳 @issomoguwai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ