Sub Episode.2 転職エージェント

転職サイトに登録してから3日後。

砂沼は職務経歴書に3行ほど文字を書き連ねたのを最後に力尽きていた。


「あははは、やっぱ今期のアニメは豊作だわぁ、良き良き。」


砂沼は始まってすらない転職活動を既に休んでいた。

でも仕方がない。アニメは砂沼にとって最高の娯楽だった。特にミステリー性のあるものは至高だ。ストーリーが完結しない中、ネットやSNSで識者の考察を見て感心したり、「それはないだろ!」と突っ込んでみたり。気がついたら朝を迎えそうになる事もざらにある。謎を紐解いていく感覚はまるで探偵のような気分だ。

加えて自分が考えた考察が見事的中しようものなら——あぁ考えるだけでゾクゾクする。


砂沼はソファーから立ち上がり、携帯をいじりながら空腹を満たすため冷蔵庫を開ける。視線は画面に釘付けになったまま、手を伸ばし何か適当なものを掴もうと手のひらを動かす。


だが、一向に掴めない。冷蔵庫内の壁面を伝うようにペタペタと手を動かす。

何も触れないまま冷蔵庫の中を一周してしまった。

ようやく視線を冷蔵庫に戻すと砂沼はゾッとする。


「——空はしんどいって。はぁ、どうしよう。1日500円なのにもう昨日の段階で予算オーバーしちゃったし、1日あたり150円しか使えないよ。もやし?いや、流石にそれは死んじゃうな。せめてタンパク質が豊富なものを。いや待てよ。」


砂沼は電卓を弾く。1日150円じゃなくてもいいんだ。

1日でも早く職に着けば給料がその分早く手元に入る。贅沢ができるぞ。

小学生でももっとまともな計算をするだろう。そんな狸の皮算用を経た砂沼の行動は早かった。


メールボックスを開き転職サイトからのメールを確認する。

砂沼の登録情報からお勧め求人がこの3日で大量に届いていた。


「おぉ!素晴らしい!どれどれ〜」


【平均残業20h 未経験可 魔族の事後処理専門企業で現場スタッフ募集中】

【アットホームな職場 営業ノルマ無し 】


似たような言葉で飾られた求人で溢れかえっていた。


「————————————————わかんない。」


どんな職場がいいか、どんな仕事がいいか、そもそも自分が何をしたいのか砂沼は分からなかった。折角発揮したやる気も迷宮入り寸前。ため息をつきながらメールを捌いていく。残り3通ほどになった時だった。あるメールに手が止まる。


『砂沼様のご経歴を拝見し、ぜひ一度お話の機会を頂ければと思います。私は株式会社ホワイトレスで転職エージェントをしている白沼と申します。お話を通じて砂沼様の求める素敵な求人をご案内することをお約束します。』


砂沼は思った。「あ、楽ができる」と。

鼻歌まじりにメールに返信し、砂沼はアポイントに応じるのだった。

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英雄譚株式会社〜魔族が侵攻する地球で史上最強だった英雄は力を失う。魔族に抗う為選んだ道は英雄採用担当!? みやびん @miyabiyasan

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