Sub Episode.1 職務経歴書

砂沼 実さぬま みのる24歳、独身。おかっぱ頭の男は預金通帳と睨めっこしていた。


「1日500円で過ごせば1ヶ月はいける!まだ希望はある!それに先月の給料がまだ振り込まれてないし。まだまだいけるよ実くん!転職活動頑張るぞおお!!!」


砂沼が直面している問題は大きく分けて2つある。


1つ、生活費が底をつきそうになっていること。

2つ、金を稼ぐ手段が失われていること。


いずれも直近まで在籍していた企業を絵に描いたようなクソ上司に嵌められて退職せざるを得なくなったことで生じた問題だ。


「砂沼君。横領、セクハラ、ええとあとなんだ。そう、パワハラでいいや。あ、ついでに勤怠不良も加えておこう。色々やってくれたねえ。今までお疲れさま!それじゃ。」


「なんで!?」


取り付く島もなく、東京の闇に放り出された砂沼は絶望に暮れる。

だが、超絶能天気な気質の彼は直ぐに立ち直ると、次の就職先を求めて活動を始めていた。


「・・・さて、まずはあれか転職支援サービスに登録してみるか。うんうん、そうしよう!」


PCを起動し幾つか転職サイトを見繕う。

砂沼は前職採用担当だった。と言っても新卒採用担当なので、中途が使う媒体には疎かった。


最終的にはCMで良く見かけるからという基準で媒体を選び登録する。

個人情報を一通り入力し終えると、職務経歴書と履歴書のアップロードを推奨されるポップアップが表示された。


砂沼は転職が初めてだった。履歴書はまだしも、職務経歴書なんて書いた事がない。

ネットで書き方を調べるが一先ず分かった事がある。

めちゃくちゃ面倒くさそうなのである。


履歴書は単にどこの学校を出て、どこの企業に何年在籍していたかを各程度。

フォーマットによっては志望動機を書くものもあるが、砂沼はあえてそれを避けた。

だって面倒だから。


対して職務経歴書。それはどんな企業でいつ何をしていたかを詳細に記すものである。人事担当は履歴書、職務経歴書を確認し、採用基準を満たすか否かを判断する。

そこでNGと判断されればおしまい。正にTHE END。


つまるところ、採用担当が職務経歴書を見たときに、


「うわぁなんだかこの人凄そう」と如何に思わせるかが鍵だ。


ネットを見ながらとりあえず書き出そうと白紙の職務経歴書を眺める。


「・・・・・・・・・・・・・・・。うああああああああああああああああああああああああああ僕って何してたっけええええええええ毎日必死すぎて覚えてないよおおおおおおおおおお!!!4年間いたけどすでに3ヶ月前に何してたかも思い出せないよおおおおおお」


砂沼がポンコツだとしても、これは誰しも起きうる話だ。

転職というイベントはいつ誰が経験することになってもおかしくない。

記憶が鮮明な内に、自己を省みる意味でも書き溜めておくことをお勧めする。






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