第4話 誰?

「いらっしゃいませっ」


 那岐なきさんは、入店して来るお客さんに笑顔で声掛けした。


 そして、そのお客さんがカゴへ商品を入れて那岐さんのレジの前に来た。


「……すみませーん!誰かいます?会計して!」


 っ!!


 やっぱり!


 那岐さんを認識していない……


 バックヤードから慌てて店長が出てきてレジ打ちをした。


 そして私を呼び出す。


流石さすがにダメだよ、広瀬ちゃん!シフトがの時はなるべくレジに居てね」


 那岐さんの真横で、私に説教する店長……


 那岐さんは、そのやり取りを笑顔で見ている。


 その時、遅番シフトの四ッ谷さんが入店して来た。


「おはようございます。あら、店長と広瀬ちゃん……どうしたの?お揃いで」


「よ、四ッ谷さん!な、那岐さん……那岐さんが!」


 私は、那岐さんを指差し四ッ谷さんに訴えかけた。


「え?なんて?ナキ?」


 ダメだ……やはり那岐さんの存在が消えている。


 私は、急いでバックヤードへ戻った。


「ちょっと広瀬ちゃん、後15分あるよ!まだ終わってないから!」


 店長の呼び声が聞こえたが、それどころでは無い。


「ん?……店長?ヒロセって誰よ?」


 四ッ谷は首を傾げた。


「いや、誰って……ん?誰だっけ?ごめん、四ッ谷さん。ボクの勘違いだ」


「アッハッハ、ヤダもう店長。脅かさないでよ」


 え……?

 どういうコト?

 私の存在も……消えてる?


 私は、バッグからスマートフォンを取り出し、景子に電話を掛けた。


「景子、さっきはゴメンッ!なんか、なんか変なの!助……」


「もしもし?……誰?」


「え……嘘でしょ……私だよ!広瀬だよ!」


「イタズラは止めて下さい!」


 景子に怒鳴りつけられ、電話を切られた。

 完全に私のコトを忘れている。


 ヤダ……なんなの?


 ……一体なんなのよ?


 私は、不安に駆られ母へ電話をした。


「もしもし?え?……確かにウチは広瀬ですが……娘は居ませんよ?番号をお間違えでは?」


「そ、そんな!ママ、私だよ!なんで?どうして?」


 ママにも電話を切られた。


 私の存在も消えている……


 レジへ戻ると、那岐さんは居なくなっていた。


 アイツは人間じゃ無い……


 私は、彼のアパートへ向かい走った。


 捕まえて、何とかしなければ!!


 アパートへ着くとで彼の部屋のドアを開けた。


 !!


「く……空室!」


 彼の部屋は、空室だった。

 薄暗く、微かに夕日が射し込むだけだ。


 私は、恐る恐る中へと入る。


 えっ!……誰か、倒れてる。


 私は、静かにその倒れている人に近づいた。


 !!


「ど、どういうコト?」


 倒れていたのはだった……


 しかも、カラダが半透明に透けている。


「なんなのよ!もうワケが解らない!」


 私は、膝から崩れ落ち涙を流した。

 すると、背後から声を掛けられた。


「広瀬さん」


 私の事を認識している!


 けど、けれど……その声の主は……那岐。


 私は、涙目でゆっくりと振り返った。


 那岐は、私に微笑み掛けている。


「広瀬さん、ボクの事が好きなんでしょ?何度も何度も勝手に部屋へ入り込んで……」


「そ、それは……ゴメンなさい!謝ります!私が悪かったです、お願い……助けて!」


 私は、土下座して謝罪した。


「うーん、もう遅いです。ボクは広瀬さんを連れて行くと決めちゃったので……」


 那岐は、笑顔で私に手を差し伸べた。




「ようこそ、らっしゃいませ!」




【了】

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アルバイトの那岐さん をりあゆうすけ @wollia

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