第8話 仲間


 首が落ちたアースドラゴンはしばらく体を痙攣させていたが、数分も経てばピクリとも動かなくなり、周囲には鉄臭い匂いが蔓延するのみとなった。


「ありがとうな、スライム」

『……!』


 俺の投げたスマホをダークスライムが拾ってきてくれた。


 フェイトさんの言った通り、【不壊属性】の付いたスマホは画面にヒビ1つ入っていない。


 俺はライトをアースドラゴンに向けて当てる。


 アースドラゴンの目が、恨めしそうに俺を睨み付ける。


 血の匂いもあって喉の奥から酸っぱいものが込み上げてくるが、何とかそれを押さえる。


 光源がライトだけだから、余計にグロテスクが強調されていけない。


 俺の気持ちを知ってか知らずか、ダークスライムが褒めろとばかりにすり寄ってきた。


 コイツには本当に助けられた。


 情けは人の為ならず――相手はスライムだったけど、巡り巡って俺は命の危機を救われたって訳だ。


 ダークスライムの頭?を撫でると嬉しそうに体を震わせた。


 戦闘の功労者に労いのおにぎりをプレゼントすると、ダークスライムは勢いよく食べ始めた。


 ふと、フェイトさんの言っていた「敵を倒すとレベルアップする」という言葉を思い出し、スライムを【鑑定】で見てみた。



【ダークスライム】

レベル:272

体力: 2720

精神力:544

持久力:2864

筋力:3080

技量:1792

知力:760

信仰:272

運気:272



 前に見た時よりも明らかにレベルが上がっている。


 それに伴ってステータスも上昇しているようだ。


 もしかして、俺も?


 そう思い、俺はステータスを確認した。



【薄井幸助】

レベル:120

職業:【テイマー】

体力:1300

精神力:1950

持久力:650

筋力:390

技量:650

知力:1300

信仰:1300

運気:――

スキル:【鑑定】【言語理解】【アイテムボックス】【経験値取得量up】【ラッキーパンチ】【フォーチュンダイス】【激運】【テイム】



 レベルが上がっている。


 能力値がかなり上昇してるし、スキルの欄には【テイム】が追加されている。


 戦闘と言ってもスマホを投げて音で怯ませた程度なのに、ここまでレベルが上がっているのは【経験値取得量up】の効果だろうか?


 ズルをした気分で後ろめたいが、レベルが上がったのは素直に嬉しい。


 いや、そうも言っていられない。


 ここから出るため、そして出た後のことを考えると、レベルとステータスが高いに越したことはない。


 それにしても、職業が【テイマー】?


 職業欄に追加されている【テイマー】とスキル欄の【テイム】は、スライムと共闘したから付いたのだろうか?


 そう考えていると、スマホのバーナーに新しい魔法を習得したとの通知の知らせが入った。


 タップしてみると【魔法】のアプリが立ち上がる。


 アプリの読み込みが終わり、画面いっぱいの魔法陣のアイコンが消えると表示が切り替わる。


 すると【テイム】の項目が開き、一つのメッセージが表示された。



 【使役魔法】を習得しました

                   』


 説明を見ると、【使役魔法】は【テイマー】の魔法であり、魔物と契約を結ぶことで使役することができるようだ。


「俺に付いてきてくれるか?」

『……!』


 ダークスライムに聞くとプルプルと揺れた。


 逃げたり拒絶する素振は見せない。


 同意ということでいいのだろうか?


 このまま一人でダンジョンを攻略するのも心許ないので、スライムを仲間に加えたい。


 【使役魔法】は双方の同意がなければ成立しないので、取り敢えず使ってみよう。


 俺は【使役魔法】の『テイム』を発動させる。


 すると、俺とダークスライムのそれぞれの足元に光る魔法陣が現れた。


 そのまま数秒が経過すると、魔法陣の光は収まった。


 ……これで終わり?


 【ダークスライム】が仲間に加わりました

                   』


 スマホの画面を見ると、テイムが完了したことを示すメッセージが表示されている。


 どうやら無事にテイムが成功したみたいだ。


「よろしくな、スライム」

『……!』

「……相棒なのに、いつまでもスライム呼びだと味気ないか」


 名前も無いみたいだし、折角だからいい呼び名を考えてやりたい。


 黒か……。


ノアールから取って【ノア】、なんてどうだ?」


 安直な名前かもしれないが、変に凝ったものよりはシンプルな方がいいと思う。


『……!』

「おっと」


 どうやら気に入ってくれたみたいだ。


 飛びついてくるダークスライム、改め【ノア」を受け止める。


 ノアと出会うことができたのも【激運】や【フォーチュンダイス】のスキルの導きかもしれない。


 出鱈目だと思ってすまなかった。


 休憩を入れた後、アースドラゴンの死骸を【アイテムボックス】に収納して199階層に向かう。


『……?』

「行こう」


 転生直後なら、脚が竦んで動けなかったかもしれない。


 そう思えるほど、199階層からは濃厚な威圧感が漂ってくる。


 でも、今は一人じゃない。


 相棒のノアを肩に乗せ、闇の先へと足を踏み出した。

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