第7話 瘴穴へ・2
上空を行くカノアに先導されながら、山脈を吹き荒れる暴風に身体が持っていかれないよう、重心を前にして進む。
『団長、もうすぐそこです』
左耳につけたピアスからグレタの声がする。
「了解」
この暴風の中での戦闘はなるべく避けたいが、スレイブは空気を読まずに襲いかかってくる。
「――
放たれた無数の槍が風に乗り、寸分の狂いもなくスレイブたちの急所を貫いた。
スレイブたちは悲鳴を上げることなく絶命し、地に伏していく。
そんな一方的な戦闘を何度か終えた後、ルシアはため息混じりに呟いた。
「風の流れを読んで魔法使うの、骨折れるんだけどなぁ」
『とか言いながら、さっきから全部命中させてるじゃないですか』
「確実に当てないと意味ないからね」
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、というのは前世の言葉だが、
この後控えている
前後左右に吹き荒れる風向きを計算しながら魔法を放つには至難の業なのだが、それを難なくやってのけてしまう(しかも百発百中である)あたり、ルシアがどれだけの実力を有しているのかが伺える。
「――ん?」
ふと視線を上げると、カノアが岩場に降りてきているのが見えた。そのすぐ脇には、ぽっかりと口を開けた洞窟のような穴がある。
「なに、このいかにもな場所は……この先に瘴穴があるの?」
『はい』
「なるほどね――あれ?」
思わず半眼になっていると、カノアが弱々しい声を上げて小刻みに震えていることに気がついた。
「カノア?どうしたの?」
『……っ、カノアが怯えてます。瘴穴を見つけた時はこんな事なかったのに……』
ということは、カノアの一度目の偵察――瘴穴を見つけた時から今までの数時間で何かがあったということか。
なんともわかりやすいフラグである。
「グレタ、カノアを引き上げさせて」
『え、でも……』
不足の事態に、グレタは言い淀む。
「大丈夫だいじょーぶ。私強いし」
ルシアは、笑いながら極めて明るい口調で言った。
どの道、瘴気に汚染度が高いこのエリアでは援軍も期待できない。――いや、援軍のアテはあるのだが、今すぐ駆けつけられるかと聞かれると微妙なところだ。
『……わかりました。気をつけてくださいね』
「ん」
短く相槌を打つと、カノアの頭を優しく撫でる。
「さ、お前は先にお帰り」
「……クゥ」
カノアは小さく鳴いて頭をルシアの手に摺り寄せると、翼を広げて飛び立った。
「――さて、と」
切り替えるように呟いて、洞窟の前に立つ。
洞窟の向こう側から漂う濃厚な瘴気。それに交じって何やら妙な気配も感じる。
「よし、行きますか!」
パシ、と、気合を入れるように胸の前で手のひらと拳を合わせると、ルシアは洞窟の中へと足を踏み入れた。
師匠はラスボス!?~転生先は神作品と崇める小説だったがそれはそれとして師匠(推し)には幸せになって欲しいので頑張って救済します~ 有栖蓮 @xx_ren_xx
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