第5話 カラーノ山脈
――カラーノ山脈。
大国メルギス王国西方に位置し、王国と小国ノーロを隔てる山脈だ。
道中はとても険しい獣道が続くため、遠回りにはなるが整備された街道を使用するか、裕福層や転移魔法が使える者は
カラーノ山脈の麓まで
「待ってました、団長さん」
「ライナスから話は聞いてるけど、変わったことはあった?」
「特に変化はない……と、言いたいところなんですが……」
大鷲のような姿をした魔獣を肩に乗せた赤髪の少女――グレタが難しい顔で続ける。
「偵察中にカノアがスレイブ化したハーピィの群れに出くわしてしまって……数匹程度なら何とかなったんですけど、やむなく
暗に偵察が不十分であることを伝えると、グレタは指の腹で大鷲の魔獣――カノアの頭を撫でながら、表情を曇らせた。
「いくら
「団長……」
「グレタの話を聞く限り、まずはハーピィの群れをどうにかしないと、浄化どころではなさそうですね」
「それな」
レイシスの言葉に、ルシアも頷きを返した。
スレイブ化した魔獣たちが浄化作業の邪魔をしてくること自体は想定内だ。
しかし、今回の瘴気の汚染範囲の大半が足場の悪い山脈エリア。陸上系のスレイブだけでもてこずる可能性があるというのに、その上空飛ぶ敵も登場とは笑えない。
「――おい、あれを見ろ!」
どうしたものかと考えを巡らせていると、周囲を警戒していた団員の一人が、声を上げてある一点を指差した。
その先の空には、いくつもの巨大な黒影がこちらへと迫ってくるのが見えた。
「あれは……スレイブ化したハーピィか!?」
「そんな、ここは瘴気の汚染がないエリアなのに……」
「来るぞ!構えろ!!」
――キュォアアァァアアァァッ!
ハーピィたちが一斉に襲い掛かる。
団員たちは武器や魔法で応戦するが、相手は空飛ぶ敵。それなりの苦戦が強いられるのは必定だろう。
『
そう簡単にやられはしないが、制空権のあるハーピィたちの方が有利であるわけで。
ルシアも鋭い鍵爪で襲いかかってくるハーピィを一体一体切り捨てているが、これでは効率が悪い上に逃げられたら面倒だ。
「いっそのこと、一発でかいのを――…」
「――そういうと思いましたが、団長は温存してください。ここは私が」
ルシアの声を遮るように、レイシスが前に出た。
ルシアは不服そうに口をへの字に曲げたが、彼の言い分はもっともなので、おとなしくこの場は譲るとしよう。
「任せていい?」
「えぇ」
頷きを返すと、レイシスは静かに詠唱する。
「……光の裁きをここに!――
天から降り注ぐ無数の光の雨に、ハーピィたちは成す術なく貫かれていく。
一匹残らず地に墜ちたハーピィたちを見て、ルシアはヒュウ、と口笛を吹いた。
「広範囲の光属性魔法。中級とは言えあの威力、さすがだね」
「団長ほどではありませんよ。しかし――…」
レイシスは意味深にハーピィの亡骸を見下ろす。ハーピィたちは総じて全身が赤く染まっていた。そして、身体の一部から覗く真っ赤な石。
「どうやらあのハーピィたちは、
「まぁ、あのヘルハウンドが
ルシアはグレタの方を振り返る。
「グレタ、カノアは飛べそう?」
「はい。怪我はしていないので問題ないです」
「OK。なら、改めて偵察を頼んでいいかな?」
「大丈夫です」
グレタがカノアに目配せすると、カノアは心得たと言わんばかりに一度頷くと、翼を羽ばたかせて空を舞う。
グレタは大陸東部に住む魔獣を使役する少数民族の出であり、カノアは彼女の
しかもカノアは世にも珍しい聖痕持ちの魔獣。よって、瘴気が蔓延する汚染エリアでの偵察も可能なので、暁の旅団にはなくてはならない存在だ。
瞬く間に小さくなっていくカノアを見送ると、ルシアは怪我人の手当てやハーピィの死体処理で動き回る旅団たちを見やる。幸い皆、軽傷で済んだようだ。
これであれば、状況がわかり次第、班を編成し直して浄化作業に出発できそうだ。
「……上位種があれだけいるってことは、瘴穴付近は偉いことになってそうだなぁ」
ルシアは一息つくと、もう一度カノアが飛び去った方向を見やり目を細めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます