第4話 出発

 『あかつきの旅団』の拠点にある転送魔法陣ゲート広場。

 装備を整えたルシアが、レイシスと共にやってくると、法衣のような服を着た青年が出迎えた。


「クロード、首尾は?」

「問題ありません。先遣隊としてグレタたちが先に現地に向かっていますが、状況は変わらずです」

「了解。ライナスは……あー、まだ解剖室?」


 あたりを見回しても目当ての人物がおらず、法衣服の青年――クロードに訊ねると、何とも言えない笑みが返ってきた。


「……はい。例のあかいヘルハウンドにご執心なようで」

「いや言い方……」


 思わず半眼になってツッコミを入れる。


「となると、まだ結果は出てないとういことか?」

「そういうことになりますね」


 レイシスの言葉に、クロードは頷いた。


「瘴気の汚染エリアから、あれだけの距離を移動してきたのは初めての事例ケースでしたし、彼も慎重なようです」

「そういうことなら、ライナスの納得のいくまで調べてもらっていいけど、長時間スレイブの死体と一緒にいるのはいただけないな」

「そこはライナスの部下がちゃんとしているので大丈夫ですよ」


 肩を竦めるルシアに、クロードは微苦笑を浮かべながら言った。

 スレイブ化したモノの利用価値は、はっきり言ってほとんどない。

 これが通常の魔獣や動物であれば、牙や爪、皮は武器や防具、道具の素材に。肉や内臓は食料や薬の材料となるところだが、スレイブの場合はそうはいかない。

 瘴気によって汚染されたスレイブの死体には、微量だが瘴気が残っていることがあり、放置していると周囲に悪影響を及ぼす事もあるのだ。そこに在るだけで害をなす。文字通り害悪そのものなのだ。

 それは人体に対しても例外ではなく。スレイブ化するほどではないものの、長時間スレイブの死体の傍にいれば、体調を崩しかねない。

 瘴気を無効化できる聖痕持ちであっても、四六時中瘴気にあてられれば、身体に何かしら悪影響を及ぼす可能性もゼロではない。

 そのため、多くの場合、スレイブの死体はその場で骨まで燃やしてしまうのがセオリーとなっている。だが『暁の旅団』では、研究、対策のため、スレイブの死体をすぐに処分せずに拠点へ持ち帰ることもままある。


「まぁ、それなら安心かな」


 ルシアも苦笑気味にそう返すと、転移魔法陣の方を振り返り、今回の瘴気浄化に同行する団員たちを見回す。


「各自、瘴気計しょうきけいとマスクはちゃんと持ったかな?」

「ガキじゃあるまいし、問題ねぇですよ~」

「聖なる灰も水晶クリスタルもたんまり持ちました!」


 などと口々に返してくる団員たちにルシアも頷きを返す。


「よろしい。聞いてると思うけど、今回の瘴穴の規模は過去最大級。瘴穴付近の汚染度はAプラスを確認している。それに比例して、スレイブの大量発生の可能性も高い。いつも通りではあるけれど、油断せずに、ね」


 和やかな雰囲気が一転。団長ルシアの号令に、団員たちの表情も真剣なものへと変わる。

 ルシアは一度レイシスに目配せをすると互いに一度頷いて転移魔法陣の中に入った。


「――発動セット


 クロードが杖をかざす。


 ――ヴンッ。


 低い音を立てて転移魔法陣が青白く輝きだす。


座標アンカー固定。……飛び立て、の地まで――空間転移ディメンション・ポート!」


 ――カッ。


 輝きが増し、転移魔法陣に沿って光の柱が立ち、中にいたルシアたちの姿が消えた。


「……ご武運を」


 光が収まり、自分以外誰もいなくなった広場で、クロードは仲間たちの無事を祈った。






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