第2話 この『世界』とは
少し、この
この世界は、ルシアが前世で生きていた世界――日本で人気を博していたバトルもののファンタジー小説だ。
小説はすでに完結しており、ルシアが生きていた時は外伝といった形で登場人物たちの過去話や幕間の物語が短編集として刊行されていた。
公式から発売された設定集や画集は飛ぶように売れ、その設定や内容から、考察や二次創作も盛んに行われていた。
小説のタイトルの通り、
物語は、主人公であるグレンが生まれ育った村が瘴気に呑まれ、全滅したところからスタートするという、なかなかにハードな内容だった。
生き残ったのはグレンただ一人。助かった理由は、彼の額に刻まれた聖痕のおかげだった。
聖痕を持つ人間は、瘴気を体内に吸収、浄化することができるのだ。その応用で、訓練を積めば瘴気の発生源である瘴穴を閉じることも可能とされている。
それを知ったグレンは、自分と同じ思いをする人を少しでも減らすためにと、瘴気に侵された土地の浄化をする旅に出る。
そうしてすったもんだでいろいろあり、最終的には世界は平和になるのだが、その『いろいろ』については今は割愛するとしよう。
「今の時間軸は、いわゆる原作開始の二年前……原作開始時の世界の惨状から鑑みて、師匠の言う通り、そろそろことが動き出す頃合いか……」
この世界の文字ではなく、日本語で書かれた手帳とにらめっこをしながら、ルシアはぽつりと呟いた。
この手帳にはルシアが覚えている範囲で、小説の設定や物語が時系列で記されている。ルシアはことあるごとに手帳を見返しては、次の行動を思案する判断材料としているのだ。
瘴気の発生は、もはや避けようのない天災とも言える
現時点ではそういった被害はルシアの耳に入って来てはいないが、物語開始まで秒読みとなった今、その被害はいつ出てもおかしくはないだろう。
問題は――…。
「グレンの村が滅ぶ日時、瘴穴の発生地点はわかっているから、救済できなくはないけど、それだと物語が進まないんだよなぁ……」
片手で頭を抱えてふかふかなソファに身を沈ませる。
ルシアはあくまで物語の主役ではなく
当然のことながら、物語は主人公であるグレンを中心に
「同じ境遇の身としては、このまま見捨てるのは良心が痛む……というか、そもそも論で『私』がイロイロしちゃってるせいで、どこまで原作通りに進むか正直未知数だし……」
とはいえ、現時点で解決策が出てくるわけもなく。
まだ時間はあるからと、ルシアは手帳を鍵付きの袖机にしまうと、レイシスが呼びに来るのを静かに待った。
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