第39話 カトレアの実力

「くたばれ淫魔がっ!!」

「はあっ……面倒ね」



大剣で斬りかかって来るバルに対してカトレアは立ったまま動かず、彼女の頭部に大剣が迫る。しかし、直前でバルは嫌な予感がして後ろに飛び退くと、カトレアの尻尾が先ほどまでバルの頭があった位置に伸びる。



「あら、今度は避けれたわね」

「くそがっ……二度も同じ手に引っかかると思うんじゃないよ!!」



ぎりぎりで尻尾を回避したバルは大剣を振り回し、今度こそカトレアを切りつけようとする。しかし、カトレアは羽根を広げて空中へ飛び上がり、攻撃を避けながらバルの背中に爪を繰り出す。



「お馬鹿さん」

「ぐあっ!?」

「バルさん!?」

「そんなっ!?」



背中を爪で切り付けられたバルは倒れそうになるが、大剣を地面に突き刺してどうにか体勢を立て直す。一方でカトレアは上空に飛翔した状態で笑みを浮かべた。



「人間如きが本気で私に勝てると思ってるのかしら?」

「く、くそっ……舐めるんじゃないよ!!」

「バルさん!!すぐに回復します!!レアさん、時間稼ぎを!!」

「えっ!?」



リリスは杖を持ってバルの元に駆けつけ、彼女の言葉にレアは戸惑う。視界に表示されていた詳細画面は何時の間にか消えてしまい、こんな状況で解析の能力は一定時間経過すると自動的に解除されることが判明した。


もう一度カトレアに解析を発動させるか考えるが、空中を浮かぶカトレアを見て今ならば拳銃で狙い撃ちできると思ったレアは拳銃を構えた。それを見てカトレアは驚いた声をあげる。



「魔銃!?まさか銃士だったの!?」

「くっ!?」



カトレアはどうやら魔銃を知っているらしく、レアが所持している拳銃を見て警戒した。そんな彼女に命中の技能を生かしてレアは発砲するが、飛んできた弾に対してカトレアは爪で弾き返す。



「ちぃっ!!厄介な武器を持ってるわね!!」

「弾いた!?」



拳銃の弾丸を爪で弾くカトレアにレアは驚き、彼女の爪は金属のように硬いことが発覚した。そんな爪で引っかかれたバルは無事ではなく、リリスの回復魔法でも回復に時間が掛かる。



「ううっ……」

「もう少し頑張ってください!!完全に治るまであとちょっとかかりますから!!」

「くそっ……急いでくれよ!!」



カトレアに発砲しながらレアはリリスとバルに視線を向け、思っていた以上に傷は深いのか治療はすぐに終わりそうにない。こんなことならば強力な武器を事前に作っておくべきだと後悔するが、今更考えても仕方がない。



(こいつに解析を発動して「死亡」と書き込めば殺せることは分かってるけど……)



強力な武器などなくてもレアが解析と文字変換の能力を使いこなせば簡単に始末することができる。だが、化物のような見た目をしていてもカトレアの言動は人間その物で躊躇してしまう。



「魔銃は無限に撃てないのは知ってるわよ!!何時まで時間稼ぎできるのかしら!?」

「このっ……しまった!?」

「どうやら弾切れのようね!!」



カトレアは魔銃の知識があるらしく、レアが弾切れを起こすと即座に上空から迫る。爪で切り裂こうとしていることに気付いたレアは衝撃を覚悟した。



「喰らいなさい!!」

「ぐはぁっ!?」

「レアさん!?」

「そんなっ!?」



爪で胸元を切り裂かれたレアは派手に吹き飛び、それを見たリリスとバルは彼がやられたのかと思った。だが、攻撃を仕掛けたカトレアは右手に違和感を覚え、まるで硬い物を切りつけたかのように腕が痺れてしまう。



「いったぁっ!?」

「はあっ、はあっ……死ぬかと思った」



レアは服の下に万が一の場合に備えて「防弾チョッキ」を着こんでいた。これまでの魔物の戦闘を反省し、自分には身を守る防具が必要だと考えて作戦決行前に着込んでいた。ちなみに今着ている服はいつもの学生服ではなく、防弾チョッキを隠すために一回り大きいサイズの服を着ている。


鎧よりも小さくて目立たない防弾チョッキのお陰でレアはカトレアの攻撃を耐え切れたが、彼女は右手を抑えながらレアを睨みつける。一方でレアは本気で殺されかけたことで覚悟をようやく決めた。



(あっちは全力で殺しに来てるんだ……躊躇なんてするな!!)



詳細画面を再び開いてレアは状態の項目に手を伸ばした瞬間、カトレアは本能で危険を察してレアに飛び掛かる。



「があああっ!!」

「うわっ!?」

「やばい、切れやがった!!」

「逃げてください!!殺されますよ!?」



全力でカトレアはレアを殺しにかかり、文字を書き替える暇も与えずに攻撃を仕掛けてくる。レアは必死に爪を躱しながら後ろに後退し、このままでは殺されると恐怖した。


徐々に追い詰められながらもレアはこの状況を打開する策はないかと考えるが、ここで彼はスマホを思い出す。ポケットに手を伸ばすと、どうにか手探りで操作してスマホのライト機能を利用して目眩ましを行う。



「喰らえっ!!」

「うあっ!?」



スマホを顔面に向けられたカトレアはライトを目に浴びて一瞬だけ怯み、その隙を逃さずにレアは逃げ出す。カトレアから少しでも遠くに逃げようとするが、彼女は尻尾を伸ばしてレアの足首に巻き付けた。



「逃がすかっ!!」

「うわぁっ!?」



尻尾で足を掴まれたレアは倒れ、持っていたスマホが空中に舞う。それを見たリリスは慌ててスマホを手にすると、治療を終えたバルがレアを助けに向かう。



「そいつを離しな淫魔がっ!!」

「このっ……いい加減にしなさい!!」

「えっ……わぁあああっ!?」

「レアさん!?」



カトレアは尻尾にレアを絡めたまま飛び上がり、バルの大剣が届かない位置にまで飛翔する。レアは逆さづりの状態で浮き上がり、もしもカトレアが尻尾を離せば地上まで真っ逆さまに落ちて死んでしまう。



(やばい!?ここで何かしたら死ぬ……どうすればいいんだ!?)



空中でカトレアを始末すれば彼女ごと地上に落ちてしまい、そうすればレアも道連れにされる。だからといってこのままカトレアに捕まっていてはいつ殺されるかも分からず、どうすればいいのかと悩んでいるとさらに状況は悪化した。



「もう怒ったわ!!こんな街、焼き尽くしてやる!!来なさい火竜!!」

「なっ!?」



カトレアは大声をあげると、上空に大きな影が差した。レアは見上げると全身が真っ赤な鱗で覆われた巨大生物が空を飛んでおり、西洋の「ドラゴン」に瓜二つの魔物が姿を現わす。





――シャアアアアアッ!!





蛇の様な鳴き声を上げながら街の上空に現れたのは「火竜」であり、遂に恐れていた事態に陥った。レアの作戦では火竜をカトレアが呼び出す前に始末するつもりだが、作戦は失敗に終わる。


カトレアはレアを尻尾で掴んだまま火竜の背中に降り立ち、ここで彼を解放した。レアは火竜の背中からずり落ちないように必死にしがみつき、そんな彼にカトレアは笑みを浮かべた。



「竜の背中はどんな気分かしら?人間が竜の背中に乗れることなんて滅多にないわよ」

「あ、ううっ……」

「ふふっ、その表情はそそられるわ。絶望した男の子の顔を見ると興奮しちゃう」



先ほどまでは本気でレアを殺そうとしていたカトレアだったが、彼女はレアの心底怯えた表情を見て震える。一方でレアは火竜の背中の上で解析を発動させるが、サンドワームの時と同様に何故か上手くいかない。



(やっぱりそうだ……解析は相手の全体像を見ていないと発動できないんだ!!)



火竜があまりにも大きすぎて背中からでは全体像を視界に抑えることができず、解析の技能が発動しない。これでは火竜の詳細画面を開くこともできず、このままでは死ぬのは時間の問題だった。

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